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「圧倒的な写真集」 おすすめの本#5

『日本の民家一九五五年』二川幸夫

古民家ってなんやねん!

最近、古民家カフェ、古民家宿、古民家DIYなど、古民家という言葉が着くものがとてもよく流行っている。カフェや宿として使われ出したのは最近の話で、そもそも古民家の建物やタンス、家具の正しい使い方はどんなものだったのだろうか?

そういった古民家のあるべき姿を「写真のみ」で、圧倒的な迫力で伝えてくれるのが、『日本の民家一九五五年』二川幸夫、である。

建築写真家 二川幸夫


著者は日本で1番有名な建築写真家 故・二川幸夫だ。写真集は全国各地の民家、集落を撮りためた。1955年に見た美しく生々しい画像が並ぶ。

1ページ1ページの迫力がすごい。言葉も表情も何もない。建物や集落の風景が本から浮き上がって、読み手に迫ってくる感覚がある。

美しい古民家を扱っている本ではない。ナマの生活、建物の歴史が確かに感じられる。蔵の整理の仕方、おくどの様子、集落の連なりなど建物の中や外の様子がモノクロ写真で克明に映し出されている。

この本に説明は要らない。開いた人にしかわからない圧倒的な説得力がある。写真家、二川幸夫の圧倒的支配力を受け止める、そんな本だ。


古民家DIYを見つめ直す

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古民家の工事を行い、活用する事例が注目を集めている。よくよく見ると、建具やタンスをいくつか組み合わせたカウンターテーブルや、壁のデザインなど、「おしゃれ」とされるであろう空間がたくさん生まれている。

落ち着いて工事の現場を見直してみると、先人たちが積み上げた、さまざまな歴史や物語からは遠くかけ離れているものもある。本来の日本の建物や家具の使われ方を無視してDIYを行っている事例が多いのも事実だ。本来の使われ方を無視して作り出す「おしゃれ」は果たして、本当におしゃれと言えるのであろうか?

空間という名の財産

建築や場づくりの分野は、下手をすれば自分たちが死んだ後も、その場に残り続ける。寺や神社、古民家は100年以上前のものも日本に数多く残る。昔ながらの場を訪れて過ごす時間は、当時の暮らし、大工技術、独特の文化に想いを馳せる体験になる。

今の古民家を生かしたホテルやカフェは、過去の先人たちが積み上げてきた「空間」という財産を使うことで成り立っている。古い空間だから私たちが使いたいのではない。彼らが作り上げたものが素晴らしいから古民家が現代でも受け入れられているのである。

現代人の作り出す空間は負の遺産?

現代人は新築のマンションやショッピングセンター、高層ビルも、自分たちのために建ててはいるが、同時に将来や未来に生きる人の財産を作り上げている。現代人が今後の人間たちに残すものが「負の遺産」になることだけは避けなければいけない。たつ鳥あとを濁さず、だ。

コンクリートの寿命は50年。解体費用もバカにならない。現代人は莫大な負の遺産を作り続けている。建築物に関しては現代人は慎重に作り上げなければならない。

古民家を生かした事例もそうである。日本人のこれまでの暮らしを無視した工事やDIYは負の遺産を作りかねない。逆に古民家の扱いを理解した上で使えば、将来に生きる人々の財産になる。

空間は有機的であり、時間軸も含まれるものである。環境、社会、歴史を汲み取った空間デザインを行う必要がある。


現代における『日本の民家一九五五年』の役割

本作は日本の本来の古民家の使い方を学ぶ上で良著と言える。なぜなら圧倒的にかっこよく、わかりやすいからである。そして、文字を使っていないため、外国人や子どもや年配の人まで楽しめる。

古民家を流行として捉えるのではなく、先人たちが積み上げてきた歴史や文化を感じとり、「楽しく学ぶ場所」として捉えたい。この世の中にあるものは全てが財産であり、これから作り出すものも全てが財産になる。

どうせなら「負の遺産」をたくさん作るのではなく、未来の二川幸夫にシャッターを押してもらえるような財産を生み出したいものだ。

現代人に与えられた使命は「負の遺産」を減らすことと、財産を積み上げていくことだ。何が財産で何が負の遺産になるかを学ぶ旅は思ったよりも膨大だ。しかし、この本は日本の民家にまつわる財産を知る大きな手がかりになる一冊である。

ちょっと値段は高いが、飲み会を1,2回我慢して手に入れて欲しい本である。



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