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飛行機は美しく呪われた夢である -2020年5月1日


折角5月になったのに、未だに家から出ていない。
見えるのは部屋の天井だが、今だけは初夏の青空の幻を夢見て、飛行機について書こうと思う。

飛行機と言えば、まず頭に浮かぶエピソードがある。
幼い頃の私は、飛行機を見ると、密かに「あること」をしていた事だ。

こんな風にして手でフレームを作り、飛行機を空から切り取る。そして、2回手を叩いて願い事を心の中で唱えるのだ。この一連の手順が100回溜まると、願い事が叶うらしい。
どこで覚えたか忘れたけれど、私は熱心にこれを続けていた。小学校のグラウンドでリレーの順番待ちをしている時も、車に乗っている時も、飛行機を見つけると、必ずそうした。

そのうち、何回目なのか分からなくなってからも続けていた。当初の願い事は忘れたが、100回くらいは溜まったのではないだろうか。
ふと、願い事ってそういうものかもしれないな、と思う。
最初の頃は叶えることに熱心になるが、叶うまでの長い過程を繰り返す中で、うやむやになったり、忘れた頃に叶っていたりする。

それにしても、なんでこのおまじないに飛行機が登場するのだろう。

「飛行機は美しく呪われた夢だ」という言葉を聞いたことがある。飛行機は、設計士の夢が詰まった乗り物だが、時としてそれは殺戮を助ける兵器になるからだ。
焼夷弾も、原子爆弾も、飛行機がなければ落とせなかった。それは事実だ。

ジブリ映画には飛行機が頻繁に登場するが、宮崎駿監督は、「仕事。」(著:河村元気)という本の中で次のように発言している。

兵器であることが分かっていても、設計者は美しいものをつくりたいといつも思っているものだし、そうでないとだめだと思います。

宮崎監督のこの言葉に、飛行機が美しく呪われた夢だと言われる理由がよく表れている。
それは作り手の夢でもあるが、同時に兵器でもある。その残酷さを「呪い」と表現したのではないだろうかと解釈した。

例えどんな風に利用されて、多くの人を傷つけてしまう結果になったとしても、この世のモノには必ずそれを作った誰かが存在する。そして、多くの人の技術やモノに、罪はないのだ。

モノに罪はない。罪のあるのは、利用する人間だ。

アインシュタインは、原子爆弾の開発を薦める署名をしたことを、深く後悔したそうだ。
戦後は、日本の物理学者である湯川秀樹らと
同じく、平和を希求したと残されている。

飛行機のおまじないは、この話に関係ないかもしれないけれど、「100回で願い事が叶う」ってすごく美しいおまじないではないですか。
飛行機の歴史とか、上述の呪いの話とかと相まって、わたしはなぜか、しんみりせずにはいられないのです。






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