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歌舞伎ヲタがSANEMORIを観てきたよ(後編)

※この記事はネタバレを含みます。
※私はただの歴の浅いスノ担(箱推し)で、歌舞伎が大好きな一般人です。
※書いてある内容は個人の感想です。

歌舞伎ヲタがSANEMORIを観てきたよ(前編)」をアップしたところたくさんの方に読んでいただけまして、本当にありがとうございました。大変お待たせいたしました。後編でございます。

お断りでございますが、後編は読む人によっては嫌だなあと思われることも書いております。團十郎さんファン・宮舘さんファンで、全肯定の方針を掲げているという方には無理な内容だと思いますので、ご退出をおすすめします。なにとぞご理解のほどを。

あと、なんか、すごい長い・・・・・。

宮舘さん以外の役者さんについて

團十郎さん

團十郎さんの舞台を観るのが久しぶりだったのですが、いやーーー、実盛(というか白塗り生締)めちゃお似合いですよね。惚れぼれとしてしまいました。普段気になる口跡も今回はそれほど気にならなかったですし、実盛というお役は何度も何度もおやりになっているみたいなので、もう隅々まで自分のものにされているという感じがしました。舞台映えのする、良いお姿でした。

児太郎さん

児太郎さん、本当に素敵でしたね・・・。私は児太郎さんの指が柔らかくて上品で大好きなんですよね。ラグビー部だったなんて信じられないよ。今回は小まんと巴御前の二役で芯の強い女性をしっかりと演じてらっしゃいましたね。児太郎さんの小まんは2018年の平成中村座の実盛物語で観たことがあるんですが、その時は竹生島遊覧(御座船)の場面は無かったので(っていうか普段あの場面は上演されることが無いです)、とっても興味深く観ました。ああいうのがあるだけで分かりやすいですよね。どうして普段ないんだろう。

児太郎さんはYouTubeチャンネルを持ってらして、「SANEMORI」の公演が始まる前にも解説動画などを上げてくださっていたのですが、なぜか今は見られなくなっています。面白かったのに残念。実際の筋立てとは違ったからですかね。2019年の「SANEMORI」の話などもしてくださってて面白かったです。

右團次さん

瀬尾十郎と権頭中原兼任の二役を同じ二幕の中でやるということで・・・化粧替え大変だっただろうなあ・・・。最近は右團次さんもなかなか拝見することがなかったので(右團次さんが成田屋さんと一座されることが多いので)、久しぶりに新鮮な気持ちで見てました。この方はほんとお顔がしっかりしていて、古典の歌舞伎のキャラクターがよく合いますよね。

瀬尾十郎というのは他の歌舞伎の演目でも出てきますが、まじ嫌なやつです。常にあの拵えです。「実盛物語」では役の裏の顔が見えて、嫌なやつだと思っていたけど実はこういう背景があったんじゃん!となるので面白いですね。首を切られる時に片膝をついた状態から前転宙返りをするのですが、これを平馬返りといいます。やる役者さんとやらない役者さんがいます。右團次さんは一回立ってから宙返りしていたので、ちゃんとした平馬返りではないですが、でもやると思ってなかったのでおおっと思いました。瀬尾十郎って、なので年嵩の役ですけど、本当に年配の役者さんはできないっていう不思議な役です。

ちなみに、宙返りをすることを歌舞伎では「トンボを切る」と言います。トンボの切り方はいくつか種類があって、調べてみると面白いですよ。

腰元ズの皆さん

右若さん、千壽さん中心にSNSが盛り上がってましたね・・・!もともと好きな役者さんたちだったので、花道から4人の腰元さんがきゃっきゃしながら出てこられるのはご馳走だなって思いながら拝見してました。ちなみに芝のぶさんは児太郎さんのおうちの成駒屋、千壽さんは片岡愛之助さん(「SANEMORI」にはご出演されてません)一門の松嶋屋、右若さんは右團次さん一門で高嶋屋、升吉さんは團十郎さん門下で成田屋さんです。いろんなお家から出ておられて賑やかでした。

最初のうち、SNS等で腰元ズさんが盛り上がっているのを見て、あんまり好ましくないなと思ってたんです。宮舘さんの名前を出せば見てくれると思ってるんだろうな・・・みたいなちょっと穿った目で見てたんですがだんだん気持ちを改めました。

ある時に右若さんが「今しかできない」みたいなことを仰ってたんですよね。化粧前の装飾の時だったかも。ああそうかって。普通の歌舞伎演目だとなかなかあそこまで自分たちから情報を発信して、観てる人と一緒に盛り上がってっていうことないんですよね、何せ観客が高齢でSNS使ってないし。今回、若い人が注目してくださったことで一大好機ではあったんですよ。もちろん宮舘涼太の名前を出すことによってですけど。腰元ズだけでなく、他のお弟子さん・役者さんたちも楽しんで情報発信してらして、結果的に良かったなって思いました。

そうそう、右若さんは宮舘さんの顔も担当されていたとのことで(「素のまんま」2023/2/9回にて宮舘さん談)、自分の役もあって宮舘さんのサポートもして、さらにSNS毎日更新してたの?とびっくりしました。お疲れ様でした。

その他の役者さん

その他の役者さん、とか言ってまとめて書いてしまってごめんなさいなのですがご容赦ください。

成人した手塚太郎さんを福太郎さんがやっておられましたね。團十郎さんのブログでも仰っておられましたが、10年前の「実盛物語」で福太郎さんが太郎吉を演じておられたとのことで、成人して同じ役の成長した姿を演じるという素晴らしい伏線回収。これ、歌舞伎の本興行ではなかなか(お弟子さんでは)無いケースかもしれません。いやー、胸アツでございますね。姿も声も素敵でした。

あと義仲の家来、伊藤三郎親忠をおやりになっていた福五郎さん、「義賢最期」や「御座船」の場面でも大活躍でばっしばっしトンボ切っててカッコいいな!と思いながら見てました。あまり成田屋さんを観ることがないので(もうええ)これまで存じ上げなかったのですが、今後注目して見たいと思います(と言っていたら、今月の歌舞伎座一部「三人吉三巴白浪」・三部「霊験亀山鉾」に出てらした!)。こんな素敵な記事も見つけました。

という感じで、お弟子さんに名前のある大きなお役がつくのも今回の演目のひとつの特徴だったかもしれません。普段は後見や「若い者」「捕手」みたいな名前で筋書に掲載されることが多い方達ですが、ちょっとカジュアルな舞台であっても一役任されるというのは大きな経験ですよね。こういった舞台があることが、後進育成にもつながるんだななんてことを思ったりしました。

「SANEMORI」の憂鬱

さて、前編も合わせて「SANEMORI」の演目の話と役者さんの話をしてまいりました。ここからは「SANEMORI」に関して感じていたことを少々ぶっこんでいきますので注意です。とはいえ個人の感想ですから、まじでほんと気にしないでください。

公演前の話

猿之助さんが以前テレビで「歌舞伎には正解も間違いもない。あるのは好み」と仰っていたことがあって本当にそうだなあと思っているし、それを前提に読んでいただきたいんですけど、私は團十郎さんのおやりになる歌舞伎は好みではないです。だからこれまであまり見てきませんでした。

團十郎さんの功績は色々あって、例えば当時猿翁さんの部屋子だった右近さんに右團次の襲名を勧めたこととか、福助さんがご病気で倒れた後に児太郎さんを引き立てて面倒見ておられるとか(親が出演しないと舞台に呼ばれることも少ないですから)、歌舞伎の公演に休演日を導入したこととか(それまで毎月25日間ぶっ続けの興行だったんですよ)、歌舞伎や歌舞伎役者のことを考えておられるんだなとは思うんですが、芸は好みではないんですよね。具体的なことも申し上げられないこともないのですが、まあここは濁しておきましょうね。

加えて去年の春頃から一般の方からの批評は受け付けないという態度を取られており、SNS上では海老蔵さんの名前を出した感想が呟かれなくなるという事態も起こりました(興味のある方は各自調べてね)。きっと公私ともに色んな意見に晒されてお疲れになったんだと思うんですが、その頑なな感じがどうにも合わないなと思って、私としては足が遠のく結果となってしまったのです。

なので、前編の冒頭で2022年9月16日に発表されてからずっと楽しみに待っていた「SANEMORI」、と書きましたが、嘘です(嘘なんかい)。

まじかよ、って思いました。なんで成田屋。なんで「SANEMORI」。

10月4日には制作発表会見がありましたが、これも若干イライラしながら見ました。宮舘さんが二役やることが、その場で発表されたからです。サプライズって、いくら何でも客演の役者に対して失礼じゃないかと思って。

別の視点で言いますと、毎年1月の新橋演舞場では、成田屋一門が歌舞伎公演をされていますが、團十郎襲名直後だし流石に歌舞伎座に出演されるのではないかなって期待していたところもあります。歌舞伎座の1月公演、第一部は「弁天娘女男白浪」がかかりましたが、当代の若手役者が揃っていましたので日本駄右衛門は團十郎さんに務めてほしかったと思ったりもしました(芝翫さんもいいけどさ)。

また、宮舘さんファンやスノさんファンの皆さんが、今回の歌舞伎出演を殊更ありがたいと思い、歌舞伎そのものを格式が高いものだとしたり、海老蔵さんのことを持ち上げたりしていることにも「違うそうじゃない」感がありました。歌舞伎って大衆のためのエンタメなんだよ。別に何着て行っても失礼じゃないよ。ただペンライトとかはやめた方がいいよ。普通のお芝居と一緒よ〜とか色々思いながらTwitterを眺めてました。

さらに、そういったファンの反応を見て「なんも分かってねえな(海老蔵ごときで)」と見下げている歌舞伎ファンの反応にも腹が立ちました。歌舞伎ファンに取ってみれば海老蔵さんのああいった公演(ABKAIとか六本木歌舞伎とかプペルとか)はどう考えても傍流でしたし、それほど評判が良いわけでもなかったので、また何か(歌舞伎の本流とは違うものを)やるんだな、アイドルの力を借りて、という感じだったと思います。

そんなわけで、スノさんと歌舞伎の兼任オタクであるがゆえに、どちらのファンダムの反応も歯痒く思う次第でした。

公演後の話

そんなあれやこれやの憂鬱を吹き飛ばしてくれたのは、他でもない宮舘さんの活躍でした。ゲネプロの映像を見て、ああこれは何か違うぞって思いましたし、初日が開けてからの評判もとても良くて、本当に安心しました。私、何をそんなに不安に思ってたんだろうって、不思議なぐらい。

実際にこの目で観ても本当に良かった。若い方達がこぞってお洒落して観劇してらっしゃるのもお正月ぽくて嬉しくて。その辺りの私の心の昂りは前編に書いた通りです。

歌舞伎ファンの中でも宮舘さんの評判はじわじわと広がっていき、ご覧になった方からの「これは認めざるを得ない」というような「どこから目線で言ってんねん」的な言葉もちらほら聞こえました。それは腹立たしいものでしたけど、一方で誇らしくもあり、「どうだ凄いだろう、私の推しは」と心の中で呟いていた次第です。高いレベルのパフォーマンスを見せてくれた宮舘さんには本当に感謝しかありません。あ、もちろん、宮舘さんを起用してくれた團十郎さんにも。

「SANEMORI」の評価

「SANEMORI」に関連するWEB記事が2件、公演期間中と公演後に出されましたね。備忘的な意味でリンクを貼っておきます。

ひとつは奇しくも私が前編をアップした日で、PRESIDENT onlineの記事でした。書いている内容がちょっとだけ被っていたので、先にアップできて良かったと思いました笑。

内容を超ざっくり言うと、新橋演舞場での「SANEMORI」が大盛況となっているので、歌舞伎界はおおいにこれを参考にすべし、でないと歌舞伎は滅びるぞというものでございました。

この記事に関しては歌舞伎ファンからは反発が大きかったのですが、主な声はこんな感じですかね。
・スーパー歌舞伎や超歌舞伎が伝統から逸脱していると書いているが、これらも伝統を下敷きにした立派な歌舞伎である
・観客に迎合するばかりでは伝統が受け継がれない
・キーパーソンが團十郎だという結論はどこから出てきた

私としては1月の新橋演舞場が満席になったのは「ジャニーズアイドル」の宮舘さんがいたからこそですが、ただジャニーズのアイドルを持ってくれば良いというわけではないと思いました。チケットを捌くだけならアイドルの集客力を恃めばいいでしょうが、興行的に成功を収め、次に繋がるかはまた別問題だと思います。

1月の歌舞伎座がガラガラだったのは本当の話で、3部とも面白い内容だったにも関わらず残念な結果ではありました。これについては私見ですがプロモーションが悪いと言わざるを得ない・・・色々と遅すぎるのですよ。そして既存の歌舞伎ファンの方達ばかりにお知らせをしていて、新しい人を取り込もうという意識がまだまだ薄い。というようなことは長くなるのでまた別で書きます。

WEB記事のもうひとつは以下。宮舘さんの奮闘ぶりを伝え、それが他の若手の歌舞伎役者にも影響を与えるであろうこと、また宮舘さんを始めとしたジャニーズの役者たちが歌舞伎の舞台でさらなる活躍を期待することなどが書かれていました。

これにはそれほど歌舞伎ファンからの反応は大きくなかったですが、個人的には中村仲蔵と並べるとは・・・という気がしなくもないですし、これもまたジャニーズを出せばいいというものではないよな、と思いました。


いずれにしても普段あまりジャニーズの舞台・芝居というものに関して批評という視点がもたらされないことを考えると、(ほぼ賞賛の声のみではありますが)ある程度広い範囲を見渡した上で「SANEMORI」が評価され、またこれらをきっかけに他の歌舞伎ファンの批評コメントの俎上に乗るということは私にとっては好ましい状況です(これは、皮肉です)。

宮舘さんに対する期待

ちょっと話が逸れるのですが、私、だいぶ長いこと宮舘さんのことを「よく分からない人」だと思っていたんです。

よく宮舘さんは「時代劇に出たい」という話をされていますが、私はそれが何を目指しているのか分からなかった。どういう時代劇に出たいんだろう。どんな作品が好きなんだろう。どの役者さんが好きなんだろう。例えば時代劇と一口に言っても、「水戸黄門」と「鬼平犯科帳」と「子連れ狼」だと全然テイストが違うわけで(選んだものに他意はないです)、ただ殺陣がやりたいと言われてもなあ・・・と思っていた。一方で「好きな俳優はジョニー・デップ」とか言っちゃうし、謎すぎて戸惑っておりました。

推しの夢は私の夢、じゃないけど、やっぱり推しの夢が叶うと嬉しいと思うわけなのできっちり応援したいのですが、夢の解像度が低くては応援のしようも限られてくると思うのです。いや、応援っていったって心の中で願うだけなんですけどもね。

今回の「SANEMORI」があったことで、雑誌のインタビューや他の役者さんのコメントを通して少し見えてきたものがありました。とんでもない努力を積み重ねてきたこと、歌舞伎の勉強をちゃんとしていたこと、スタッフの皆さんや他の役者さんの信頼を得て役をものにしていったこと、毎日毎日文字通り身体を削って舞台に立っていたこと。

宮舘さんが目指しているものが具体的に分かったわけではないのですが、求められているものに対して自分を顧みず全てを捧げてしまうアプローチ、加えてそれを全く表に出さない様子から、そういう人を役の中でも演じていきたいのかもって今は想像しています。

とはいえ、プロセスがコンテンツになる時代です。もっと言ってよ!アピールしなよ、頑張ってるって!!という、もどかしい思いが少しあります。本人がそういうの気に染まないんだったら、どっかのテレビ局が稽古期間中から密着とかすれば良かったのよ・・・!!今更ですが。あと好きなものとか観た舞台とかももう少し教えてください。歌舞伎座に行く人間、たぶんTwitterに目情とか上げないから分からんのよ。


さて、私個人としては、今回の「SANEMORI」だけで「歌舞伎をする役者・宮舘涼太」が終わると思っていません。というより、周りが放っておかないのではないでしょうか。

で、次があるとするならば、宮舘ファンの方達はともかく歌舞伎ファンは、より高いパフォーマンスを要求するでしょう。同じ演目をやるにしても、歌舞伎の発声を身につけてほしいとか、歌舞伎役者と同じような台詞回しにしてほしいとか、義太夫の理解とか長袴とか・・・ファンは強欲なものなのです。今回の「SANEMORI」は本当に素晴らしかった。これで設定されてしまった「歌舞伎をする役者・宮舘涼太」という高いバーを越えることが求められるのであろうし、もっと言えば求められ続けるという気がしています。

それが良いことなのか悪いことなのか分かりません。アイドル業にどう影響するのかとか、心配なことはいくつもありますが、滝沢歌舞伎ZEROがファイナルを迎えるにあたって、宮舘さんが歌舞伎的なものとずっと繋がっていくことは私にとってはとても嬉しいことです。

おわりに

長々と由無し事を書いてまいりましたが、この辺りで終わりにしたいと思います。お付き合いくださいましてありがとうございました。後編、7,000字を超えてしまいました。なにごと・・・。

上で「歌舞伎ファンは、より高いパフォーマンスを要求する」などと大きい主語を使いましたが、本当はね、「私が」です。すみません。強欲なんです。そうですね〜、宮舘さんでこの先観たい演目ですか。やっぱりね狐忠信とかいいんじゃないですかね。ぜひ澤瀉屋さんに学んでもらって宙乗りなどして。あ、夏祭の団七とかも良くないですか?泥場の立廻りとか!

なんて妄想しだすと本当に止まらなくなってしまう、それだけ宮舘さんが魅力的な役者さんなのだなあと思います。

次は滝沢歌舞伎ZERO FINALですね!宮舘さんが「SANEMORI」で得た経験を遺憾無く発揮されることを願っております。ではまた〜。

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