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「昼飲み」にあるライトで明るい背徳感が飲食店の次の可能性になるかも

いつもたくさんの方に読んでいただいており、本当にありがとうございます。noteでは、イタリアンレストランのオーナーシェフである僕が、普段、考えていることをお店のスタッフに語りかけるつもりで書いています。

noteではひさしぶりの投稿になりました。また少しずつ書いていければと思いますので、引き続きよろしくお願いいたします。

授業中の早弁が背徳感による楽しさの根源

最近、まわりの方々のSNSを見たり、実際に街の様子を観察しているなかで考えたことに「昼飲み」があります。新しい飲食のビジネスモデルとして昼飲みを活かした店づくりに可能性があると感じているからです。

昼間からお酒を飲む昼飲みには、人の道を外れたうしろめたさ、いわゆる「背徳感」があります。この背徳感には、みなさんのなかにはネガティブなイメージがあるかもしれませんが、僕にはないんですよ。むしろ楽しいことで、たとえば学生のときの早弁と一緒だと思っています。

早弁は、たった1、2時間だけ早く弁当を食べるだけなのですが、なぜかおいしいんです。それに、机に立てた教科書に隠れながら食べていると「あいつ授業中に食ってるぜ」と注目を集めたりするのが楽しかったりもします。人間には、どこかに見られたいという根源的な欲求があります。そこをうまく刺激しているのが早弁だと思っています。

それと同じで、真っ昼間から麻布十番の商店街のような日常のなかで、ちょっとドンペリで昼シャンできたら、早弁のような背徳感が入り交じる楽しさがが生まれるような気がしています。

昼飲みならロゼやシードルにもチャンスがありそうです。 シードルはアルコール低めだし、ロゼはランチでも夜でもないの昼飲みらしいワインだからです。

それには「昼から飲んでけしからん」というような世界ではなく、楽しそうじゃんとお互いにいいあえるような「ライトで明るい背徳感」という文化が醸成されるのも必要です。そういった空気が浸透させて、気持ちよく昼から飲めるようになったら飲食店のビジネスモデルも変わってきそうです。

とくに昼飲みは、コロナ禍の影響を受けた飲食店にとってもいい業態のようにも感じています。

これまでお酒をともなう飲食店は、できるだけ長く夜遅くまで営業することをしてきました。そうすると当然、深夜営業に対するスタッフの残業代だったり、深夜手当といった部分で人件費がかかってきます。

それでも昔だったら、一定の売り上げを出せるのであれば長く営業していた方がいいというロジックもありました。しかしコロナ禍で人の流れもかわって、それが崩壊したと僕は感じています。

利用する人が減ったのならコストをかけてまで深夜営業をしても意味がないと考えるのは、当たり前のことだと思います。24時間営業だった大手飲食チェーン店が深夜営業をやめる店舗が増えているのもうなづけます。

もちろん、昔のように深夜に店を開けていて欲しいというある一定数の人たちの声もあります。それでも、それはあくまで一定数であって、深夜に開けない選択を大きい企業であればあるほど、シビアに判断していくと思います。ですので、深夜営業は少なくなっていくのが大きな流れだと僕は思っています。

「昼飲み」なら飲食店のさまざまなロスも減る

深夜営業の代わり、需要として伸びていくのが、昼飲みではないでしょうか。

さきほど話したように、昼飲みの「ライトで明るい背徳感」が浸透したら、たとえば飲食店にある昼と夜に休憩時間(アイドルタイム)を閉めずに営業をする店も出てきます。

具体的に考えてみると、たとえば15時に昼飲みできる店としてオープンして23時まで開けつづけたら営業時間は8時間です。これは、昼に11時から15時、夜に18時から22時の合計8時間営業しているのと、営業時間で見れば時間は変わりません。

一方で、営業時間は同じでも15時から18時までは、ほかのお店がほとんど開いていませんから競合が少ない、ブルーオーシャンです。さらに酒がメインですから、8時間の営業中、ランチとディナーでメニューを変える必要もありません。仕込みなどの負担も減りますから、スタッフの出勤も午後からでいいわけです。15時オープンで、21時にラストオーダー、22時クローズにしたら、スタッフもみんな早く帰ることができるんですよ。

そうすると、ランチを無理に開けなくてもよくなります。

話しはそれますが、ランチをしなければ、僕ができるだけしたくない「ランチの値下げ」もする必要もなくなります。もちろん、昼は夜に比べて食事の時間が短いので、品数を減らしたり、パッと食べられるように価格を抑えた献立にすることもあります。しかしランチだからといって、当たり前のように値下げをしたくないのが僕の考えです。

値下げすることによって、飲食店だけでなく、関わってくれている生産者さんや流通業者さんにも弊害がいくんですよ。みなさん、プロとして努力してるのに、ランチ用だから安くしてほしいなんていえません。そういった点でも、昼飲みによっていい影響が生まれることは考えられます。

いろいろと思考実験をしてみると、意外とやってみる価値があるんじゃないかと思うんです。そこに気付いて、すでに導入しているお店もありますが、多くは居酒屋や立ち飲み屋です。僕は、ヨーロピアンの飲食店でやるのも、ありなんじゃないかと思っています。それに、競合が少ないうちに真っ先にやれれば圧倒的な需要を独占できるわけです。

とはいえ「昼飲み」は、多様な働き方があるメトロポリスだからこそ可能なことだと思います。16時くらいにその日の仕事が終わるフリーランスの人がいるのも、東京や大阪などの都市部の特徴で、今のところはそれ以外の地域・街では難しいと思っています。

「乱暴な店」がもつおもしろさ

多様な働き方、つまり働く人の生活の自由度が上がっている反面、レギュレーションが強くなりすぎて、おもしろいことが起こりにくくなっているように思います。

たとえばテレビ業界もレギュレーションが強すぎて、何も言えない、何にも挑戦できなくなってきていてテレビ業界でクリエイティブをしている方々は、苦労をされているのが想像できます。見ている人を驚かせるようなハプニングも起きにくく、予定調和な番組が多くなっているように思います。おもしろかったテレビの時代を知っている団塊ジュニアの僕たちの世代にとっては、残念な状況ではあります。

むしろ、かつてのレギュレーションのない世界に憧れを抱きはじめているのは、あるかもしれないですよね。

それはテレビのなかだけでなく、普段の生活やインターネットの社会も同じで、レギュレーションを強くしすぎたことで、自分たちでおもしろいことを減らしている気すらします。

飲食店でも同じようなことが起きていて、言葉は悪いですけど「乱暴な店」が減ってきています。

もちろん従業員の労働時間を無視するような乱暴な店ではなく、昼飲みの背徳感をうまく煽って楽しめるようなコンセプトのお店が少ないという意味です。

最近は僕も、「歳だから飲むこともなくなっちゃって」と、外食に行かなくなった理由にしていますけど、結局は行きたい店がないからなんです。体力がないわけではないし。元気ですから行けるんだけど、行きたいと思うところが減ってきてるとか、時間があわないというのが多いんですよ。

あとは、夜23時まで飲むよりも、5時から飲んではやくできあがっちゃって23時に寝る方が体にもいい。そういうことを考えている人も多くなってきています。

昼飲みのコンセプトは、商業施設に入っていることが多いブリアンツァの各店でするのはなかなか難しいですけど、たとえばイベント的にやってみたり、社内ベンチャーの企画として進めるのは、アリだと思っています。

麻布十番の店(アッシド ブリアンツァ)で、朝6時から10時までブレックファーストやってみましょう!っていうスタッフからいわれたら、めっちゃおもしろいからやってみようといいますよ。その時間帯にいらっしゃるお客様ってどんな方々なんだろうと考えるのもおもしろいですよね。

さらに固定のお客様に来ていただけるようになったらニーズがあるということなので、新しい業態として神楽坂でもできるし、新橋でもできるということになります。

Riot(暴動)というと危険思考に思われるかもしれですが、ガチガチに決められたことを壊して、楽しくしていくという、いい意味での暴動思考は持っていたいと思っています。レギュレーションを揺らして、おもしろくて楽しい店が増えていけばいいですよね。

ラ・ブリアンツァ」オーナーシェフ
奥野義幸

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