【短編(SF)】ふたり
4さいの小さなアッコは目をあけました。
空にはくもひとつありません。アッコは青くすきとおった空に向かってのびをします。
「マル。あさだよ。おきなさい」
『オキテルヨ』
アッコはペンギンの形のマルをぎゅっとだきしめて、あいさつをします。
「おはよう」
『オハヨウ』
マルはアッコのまわりをくるくる回ります。
それがこの生きものの朝のうんどうのようです。
「おなか、へった」
アッコはおなかに手を当てます。
『シタニ、イコウ』
マルは体から細く長いひもを出して、先にはしごを下ります。
つづいてアッコもはしごをつかみ、ゆっくりと下りていきます。
足がすべって、すとんと落ちてしまいました! 下にいたマルが、やわらかい体でうけとめてくれます。
びっくりしてしばらくすー、はーと息をして、アッコはおおげさに笑いました。
「あはは。ありがと、マル」
マルはつぶれた形からペンギンの形にもどります。ペンギンの形だとアッコがよろこんでくれるから、ペンギンの形をしています。
『アリガトッテナニ?』
「ありがとはね、いいことをしてもらったらいうんだよ」
マルにはよくわかりません。いいことってなんだろう。
ふたりは、みどりのへんな人に見つからないように歩いていきます。みどりのへんな人はたくさんいて、アッコを見つけると追いかけてくるのです。
いつものお店にお菓子がありました。アッコは大好きなお菓子をポッケにつめます。
『アッコ、アイツラガアツマッテキタ。イコウ』
へんな人がアッコを見つけたみたい! ふたりはすぐにお店を出て、またはしごをのぼります。そこは大きなはしの下で、雨がふってもぬれません。へんな人もきません。
アッコはお菓子をたべました。
「おみず、のみたい」
マルは細くて長いひもを出して、とうめいな入れものをはしの下にたらします。入れものをもち上げると、お水が入っていました。
『アッコ、オミズ』
「うん。ありがと」
またありがとです。お水をあげるといいことなのでしょうか。
お水をのんだら、アッコはマルに本をよみきかせます。今日はうみのいきものたちの本です。アッコはペンギンが大好きで、そのページばかりよみます。
「ペンギン、みたいなぁ」
『ドコニイルノカナ』
アッコは、はしの下をゆびでさします。
「これがね、かわ。ずっとかわで、さいごはうみになるんだって」
『ウミニイルノ?』
「うみのいきものは、うみにいるんだよ。さむいところにいっぱいいるの」
アッコは足をぱたぱたさせて笑います。マルはアッコの笑ったかおが大好きです。
マルとアッコはひもでつながっています。このひもが切れるとアッコはみどりのへんな人になってしまいます。だからマルはアッコからはなれられません。
マルは元気がありません。だんだんうごけなくなっています。アッコの中に入ったら元気になれるのに、アッコのことが大好きだからそうしません。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
よるになって、アッコはとおくを見ています。
「きらきら、へったね」
『ソウダネ』
よるがくるたびに光がへっています。もうすぐなんにもなくなってしまいそう。
アッコがうしろを向くと、大きなふにゃふにゃがいました。
「きゃっ!」
ふにゃふにゃからひもが出て、アッコに近づいてきます。
マルがアッコをつつんでかくします。
ふにゃふにゃのひもは、マルをつっつきます。マルはアッコをつつんだまま、じっとしています。
やっと大きなふにゃふにゃがあきらめました。どこかへ行ってしまいます。
「ぷはぁ」
マルがつつむのをやめると、アッコはすー、はーと息をします。
「うっ、てなった」
『アイツニミツカルトコワインダ』
「こわい?」
『ジッケン、サレルンダ』
アッコはよくわかりません。でも、マルをなでてあげます。
「ありがと」
マルもよくわかりません。つつむとありがとなんでしょうか。
アッコはあくびをしました。たくさんの本をよんだから、ねむくなったのでしょう。
マルはペンギンの形から丸い形にかわります。アッコはマルにあたまをのせます。
「おやすみ」
『オヤスミ』
マルは知っています。アッコはねるまえにおやすみをいいます。おきたらおはようです。
マルはねむりません。よるはアッコを見ています。アッコのねてるかおも大好きです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アッコがおきると、マルの形がかわりません。
「マル、おはよう」
『……オハヨウ』
元気がありません。アッコはマルをなでます。
「いたいの?」
『イタクナイ。ペンギンニナレナイ』
マルはペンギンの形になろうとします。でもまた丸くなってしまいます。
「びょういん、いこ」
アッコははしごを下りて、がさがさする大きな白いふくろをもってきました。
マルはびっくりします。つないだひもが切れたらたいへん。でも切れませんでした。
ふくろにマルを入れて、穴をかたにとおします。ちょっとおもいけど歩けそう。
アッコははしごを下りて、まわりを見ます。
「びょういん、どこかな」
アッコは歩きます。でも、どこへ行けばいいのでしょうか。
『カワヲミテアルコウ』
「うん。いこう」
アッコの足ではそんなにとおくへ行けません。あしたはどこにいるのでしょうか。
それでもアッコとマルは、はなれません。いつまでも、いつまでも。
〈終〉
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