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学生時代に経験したガチの恐怖体験

ボクは大学時代を京都で過ごした。4年間でできた思い出は数えきれないが、その中でも印象的な出来事がある。※事実7割、フィクション3割で書きました。

第一章 夢か幻か

大学時代、京都市にある烏丸御池という駅から徒歩5分のマンションに住んでいた。というのも、観光客が多く訪れる四条通まで徒歩圏内という最高の立地に、格安物件を見つけたんだ。というより、マンションの中でその部屋だけ安かった。他の部屋の家賃が7万円以上のところ、ボクの住んだ402号室だけが5万円台後半。大家さんには「ところどころ壁の日焼けと壁紙の剥がれがあるから割引した」と説明されて、特に気にしていなかった。

めちゃくちゃベタやんけと思われるかもしれないが、この家では時々変なことがあった。玄関が勝手に開いて閉まる、という不思議現象が、数か月に1回起きていた。ガッチャッという大きな音を立てて開き、ゆっくり静かに閉まる。でも、このマンションは学生ばかり住んでいたこともあり、玄関の外が騒がしいことも結構多かったので、当時は特に気にしていなかった。

そんなボクの日中の主な活動は、大学の部活でやっていたウインドサーフィン。毎日練習に行っていたので、家はほぼ寝るだけの場所だった。

入部当初から必死に部活に取り組んでいたが、3年生の時に不本意ながら怪我で引退。この頃から気分が悪くひどく鬱屈とする日々が続いた。とにかく部活ができないのがショックで、1か月くらい何のやる気も起きずに寝込んでいた。

部活を引退して1か月くらい経った頃だろうか。ボクの部屋に明らかな異常現象が頻発するようになった。

明け方4時前に必ず目が覚める。そして、部屋中に起きる異常現象を聞いたり、見てしまう。。。

シャットダウンしたはずのノートパソコンが勝手に起動する。立てかけておいた鞄が倒れる。玄関の方から足音が聞こえる。四方の壁を叩く音が響く。しばらく震えながらじっと耐えていると、いつの間にかまた眠りに落ちる。こんな日々が1か月以上続いた。

その間も、たまに後輩や友達が泊まりに来ていたのだが、その中の数人も、ボクと同じ体験をしていた。なんだか申し訳ないことしたな。。。

既に悪かった体調がもっと悪くなっていき、睡眠不足で日中のパフォーマンスも悪化し、「もう耐えられない」と、引っ越しを決意した。

「ポルターガイスト」。まさか自分が体験することになるとは夢にも思っていなかった。前の住人に何かあったのか。だから家賃が安かったのか。いや、ただマンションの住人の学生たちが暴れていただけかもしれない。いやいや、もしかしたら、あれはボクの精神状況が悪かったゆえの幻想だったかもしれない。全部夢だったかもしれない。私生活の不調を何かのせいにしたくて頭の中で無理やり創り出した作り話なのかもしれない。本当、あれは何だったんだろうな。。。

引っ越しを決意してすぐ、大学の近くにある小さな不動産屋に相談し、烏丸御池から2駅の五条駅近くのマンションを新居に選んだ。引っ越しは後輩に手伝ってもらった。ガッキー、びーやん、あの時はありがとう。

第二章 初雪は地獄の始まりを知らせる合図

引っ越しを終えた日。ガスの開栓が翌日だったため風呂に入れず、銭湯に行くことにした。しかし近所の銭湯は生憎の定休日。やむなく1キロ先の銭湯まで夜道を歩いた。外は雪がちらついていた。夕方の雨が初雪に変わったようだった。大きな満月も夜空に映えている。

京都って、古き良き銭湯が今も点在しているんですよ。この時に行った銭湯もめちゃくちゃ味があった。しかも2階建てで、風呂の種類が20種類以上あってかなり楽しめた。

一通り風呂を巡り、この銭湯の目玉である「2段階サウナ」に入る。手前には普通のサウナ、奥には高温サウナ。2段階の熱さを楽しめる仕組み。このサウナ、よっぽど人気らしく、奥の高温サウナには男たちが所狭しと座っていた。サウナが苦手なボクは、空いている手前のサウナで腰掛けた。

備え付けられたテレビでは、森友学園問題が取り上げられていた。ひとりでぼーっとテレビを見ていると、オジサンが入ってきた。細身で優しそうな雰囲気。どこかで見たことあるような気がしたが、よく思い出せなかった。(どことなく片岡鶴太郎に似ていたので、以後片岡と呼ぶことにするw)森友学園問題のことでよく分からないことがあって、どうしても気になったので片岡に話しかけて聞いてみた。どうやらこの人、相当社会のことに詳しいらしくて、しかも話が上手い。意気投合し盛り上がった。
5分くらいして、話が途切れたところで片岡は出ていった。

またボクはしばらく風呂を巡り、脱衣場に。片岡もちょうど風呂を上がったところだった。ここでまた話が盛り上がる。仕事の話になって、社会人?仕事何してるの?と聞かれた。ポルターガイストが起きるから引っ越してきたんです、とかいうのがちょっと面倒臭かった。適当に話を合わせて、メーカーに勤めてて長期出張で京都に来たと言った。気づけば片岡は着替えも終わり、銭湯から出ていっていた。自分も3分くらい遅れて出た。

第三章 寄り道

外は寒く、小走りで帰った。
すると片岡も同じ方向だったみたいで、自分が追い付く形になった。自分は気づかなかったが、片岡に声をかけられて認識。同じ方向なんですね~ていう話から始まり、また話をした。

5分くらい歩いて、片岡が一言。
「君面白いね!俺の家この辺だからちょっと寄ってきなよ!」
正直眠かったから早く帰りたかったけど、話が盛り上がっていて断りづらくて、ちょっとだけ上がらせてもらってすぐ帰ろ、と思い、ついていくことにした。それくらい人懐っこくて、優しい人だった。

マンションに着く。片岡の部屋は五階。1LDKの綺麗な部屋。一人暮らしには十分な広さ。

部屋にはハンモックが置いてあった。
「これめっちゃ気持ちいよ、ちょっと試してみ!」そう促され、言われるがままにゴロン。警戒心はもうなかった。

数秒後、、、ボクは戦慄した。
あんなにニコニコ笑っていた片岡が、急に真顔になって、俺の太ももをねっとりとした手つきで触っていた。真顔がとにかく怖かった。全く体が動かなくなった。全身に鳥肌が立った。

やっと気づいた、、、片岡、ゲイだ。

1分間は太ももをまさぐられていただろうか。いや、もっと長かったかもしれない。徐々に冷静さを取り戻した僕は、やっと片岡の手を振りほどいた。

いや、僕そういう趣味じゃないんでごめんなさい。本当にお願いします。本当に無理なんです。本当にすみません。懇願した。

なんとか離してくれた。いつの間にか、片岡の口調はオネエだった。
「なんだよー家来てくれるって言うからイケると思うじゃーん、知らないの?あの銭湯ね、有名なゲイスポットなんだよぉ~。」

ああそうか、だからあんなにサウナに人いたのか、、、。とんでもないところに行っちまったな、と後悔。オジサンはこう続ける。

「今日は月に一度の集会日。奥のサウナにいたのは観客だよ。立候補制で順に手前のサウナに移動して、新たに来るお客を待ち構えて食うの。ふふふ。あ、この部屋にはカメラが10台設置してあるの。ほら、あそこにも、あそこにもあるでしょ?この様子はゲイの裏サイトでぜーんぶ生中継されていて、みーんな今あんたをオカズにして楽しんでんのよ!」

ええ。えええ。ええええ。怖えよ。怖えよ。ボクの震えは止まらない。どうか夢であってくれ。夢であってくれよ!おい、覚めろ、夢!こんなメジャーデビューは御免だ!

そんな思いとは裏腹に、片岡はまた動けない僕の体をまさぐってくる。
「ほんとごめんね、怖がらせたよねぇ、でもさ、もう少し我慢してくれる?ねえ、いいでしょ?」

僕の中で何かが弾けた。「離してください。離してくれないならアンタのことぶん殴りますよ。」僕は何とか強気に出て睨みつけた。片岡は手を離してくれた。

まあ、根は悪い人じゃないんだろうな。体も僕のほうが明らかに大きいし、無理に襲ってくる気もないんだろう。

続けて、お茶一杯だけ飲んでって、と片岡。
ここはおとなしく言われた通りにしておこう、お茶一杯飲んで早く帰ろうと決めた。でもお茶に何か入れられるんじゃないかと不安になり、念のためキッチンまでついていって見張った。

さっさとお茶を飲み干し、帰りますね~と伝える。片岡はしぶしぶ承諾してくれた。皆楽しみにしてるのに、とか、意外と楽しいよ?、とか、色々言ってくる。

ここを出れば終わりだ。助かった、と思いきや。またヤバイことに気づく。

最悪だ。今日「doshisha windsurfing」て書いてるスウェット履いてたんだった、、、。
スウェットは部活での愛用品。しかも、当時部活のキャプテンだったボクは、新歓の目的でネットに名前もアドレスも電話番号も載せていた。部活名をググられたら一発で身元がばれる。ああ、なんでこれ履いてきちゃったんだよ。早く出よう。早く出よう。

まだ片岡は気づいていない。気づかれたら身元バレる!気づくなよ~頼むからこのスウェットの文字に気づくなよ!

、、、気づかれた?
あれ?同志社?ウインドサーフィン?そんなのやってたの?と聞かれた。
ボクは、友達が同志社のウインドサーフィンのOBで、これもらったんですよね~、という意味不明な苦しい言い訳しかできなかった。怪訝な顔をする片岡。やば、、、。これは察したか?

まだ終わらない。
「あ、そうだ。帰ってもいいけどさ~、1回だけ下半身見せてくんない?」
屈辱だが見せた。減るもんじゃないしいいや、と割りきった。それぐらい従っておこうと思った。グラドルってこんな気持ちなのかな?と余計なことを考えた。触ってもいい?と聞かれたがそれは断った。

やっとの思いでマンションを出て片岡と別れた。最後は不気味な満面の笑みで見送ってくれた。

第四章 人間か幽霊か

マンションを飛び出して気づいた。

!!!!!????? 嘘だろ、おい。

引っ越してきたばかりで気づいていなかったけど、片岡のマンション、大通りを挟んで目の前が僕の新居だ。。。この近辺のコンビニは一つだけ。今後絶対遭遇するやん。絶対使う駅も同じだ。あああ、何てところに引っ越しちまったんだ。

初対面の人についてったらアカンな、、。胸に刻み込んだ。それにしても憂鬱だ。片岡にまた遭遇する可能性大だし、大学の部活から身元バレた可能性あるし。ボクが体をまさぐられている動画がネットに流れてるらしいし、これって下手したら友達に見られる可能性ある?ネットで拡散とかされたら人生詰む?はあ、ツイてねえ。。。
そんなことを考えながら家についたのが午前1時くらいで、間もなくボクは床についた。新居はとにかく静かだ。ポルターガイストが無いとこんなに静かなのか。これが普通なんだな。うーん、エアコンの音ですら気になるな。

静寂の中、ボクは深い眠りに落ちていった。

それから約3時間後。午前4時。

目が覚めた。びっしょりと汗をかいている。え、まさかまたポルターガイストか?いや、スマホの着信だ。しかも非通知。電話に出ようとするが、手の震えが止まらずなかなか上手く操作できない。鳴り続ける電話。震える手。鳴り続ける電話。

やっと電話に出ることが出来た。

相手は無言だ。1分ほどして、電話を切られた。一体何なんだよ、と震えていたが、いつの間にかまた眠りに落ちた。

終章 「始まり」

それからというものの、時折ボクのスマホに無言電話がかかってくるようになった。しかも時間は決まって午前4時前の部屋でポルターガイストが起きていた午前4時。犯人が誰かは分からない。前の家に住み着いていた幽霊なのか、片岡が部活の情報を調べて電話してきているのか、いや、片岡自体が幽霊だった?そういえば、引っ越して暫く経ったのにコンビニでも駅でも一度も遭遇していないな。生活する時間帯が違うのだろうか。

数か月して僕は電話番号を変更、それ以降無言電話は無くなり、平穏な日々を過ごしていた。

時は流れ3月、ボクは大学卒業を迎えた。大好きな京都生活もこれで終わりかあ、切ないな。そんなことを思いながら、退去手続きのために不動産屋を訪れた。相変わらずこじんまりとした事務所。手続きは30分くらいかかった。手続きの途中手持無沙汰になったボクは、引っ越し前から今日にいたるまでの出来事を担当の女性社員に話してみた。そういえば引っ越し手続きしてくれたのもこの人だったなあと思いだした。ポルターガイストから逃げるべく引っ越したこと、引っ越し直後の銭湯でゲイに食われそうになったこと、暫く無言電話に苦しんだこと。色々話した。(女性社員は中年で、森尾由美に似た美人だった。以後、彼女を森尾と呼ぶ。)

森尾「へええ、そんなことあるんですね、京都はゲイが多いので有名ですし、平安時代の幽霊が今も出るっていう噂もありますからねえ~。運が悪かったですねwww」

ああそうだったのかー、まあ京都ってそういう話多そうだよな、まあでも無事でよかったな、と安堵した。東京でまた同じような目に合わなければいいけどな。。。

森尾は時折冗談を交えながらも、迅速に手続きを済ませてくれた。

不動産屋を出ようとしたとき。

あれ?ん?どこからか、かすかに感じる視線。

どこだ。どこからだ。どこからだ。

窓際だ。あそこだ。小柄な社員。

彼だ。間違いなく彼、片岡だ。片岡の笑顔が、はっきりと窓に映っている。

片岡の手には、ボクの東京での新住所と連絡先が記された手続用紙が握られていた。

ボクの全身にじわっと汗が滲む。唾液が無くなる。手先に震えが走る。

森尾がボクの異変に気付きこう言った。「私の旦那がどうかしましたか?」

~完~

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