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大企業の経理部から物流SaaSスタートアップに転職してゼロからFSを立ち上げた過程で学んだこと

こんにちは、アセンド株式会社の奥村昭仁です。

アセンド株式会社が行っている企画 #アセンド真夏のアドカレ の一環でこの記事を書いています。


アセンド株式会社は「物流の真価を開き、あらゆる産業を支える」をミッションに掲げ、運送会社向けの運送管理システム(SaaS)を開発販売するスタートアップです。

昨年末にはシリーズAの資金調達を実施し、更なる事業拡大に向けて取り組んでいます。

大企業の経理部からSaaSスタートアップに転職してから2年8カ月が経ちました

私は父親が運送会社を経営しており、自身が社会人になってからずっと、運送会社のためになる仕事をしたいと考えていました。

新卒で入社した総合商社では経理部に配属され、主に管理会計を担当しましたが、商社に入社して4年経った頃にアセンドと出会い、現在に至ります。

【2021年10月】アセンドのことを知ったその日に発表された資金調達のプレスリリース

アセンドの一員となってから、運送会社のためになるという志を会社のミッションに重ね合わせ、日々の業務に取り組んでいます

奥村の過去noteはこちらです。

入社が決まった日に撮った記念写真

一人目のFSメンバーとして、ゼロからFSを立ち上げた

私はアセンドの6人目の社員ですが、FSメンバーとしては「一人目」という立ち位置でした。

入社してから最初の1年間は、まだプロダクトが正式リリースされていなかったこともあり、お客様にヒアリングしたり、それを元に開発要件をまとめることが業務の中心でした。

その後、プロダクトが正式リリースされ、2023年1月からFSが本格化し始めました。

この当時のFS体制は、取締役の森居と私の2名。森居は前職がコンサルで、営業未経験。私も前職で経理部の仕事しかしたことがなく、入社まで物流業界も未経験。この2名で、ゼロからFSを立ち上げることになりました。

この「FSの立ち上げ」は、私がこの2年8カ月の中で取り組んだ中で、間違いなく最も大きなチャレンジであり、多くのことを学び成長するきっかけになりました。

本noteでは、Vertical SaaSのFSを立ち上げていく過程で学んだことを、大きく3点に絞って言語化していきます。

①お客様と接する時間を長く保ち、お客様の生の声を元に改善するべし

”最初から作りこみすぎた資料”と”生の声なき議論”の多くは無駄になる

FSを始めるときに、まずPowerPointで15枚くらいの営業資料を作ったのですが、まずこれが失敗でした。ストーリーラインがぐちゃぐちゃな状態で最初から資料を作りこんでも、実際に商談で当ててみると全然刺さらず、すぐに改善する必要が生じました。PowerPointは作り替えに時間が掛かってしまうので、二度手間三度手間が生じて非効率です。

社内で行う議論も同様で、不明な点や立証したい仮説があったときに、お客様の意見を聞いてみることなく、社内で議論を推進し続けた結果、蓋を開けたら全く的外れだった、ということがありました。

このように、”最初から作りこみすぎた資料”と”生の声なき議論”の多くは無駄になることが多く、結果的にお客様のニーズに辿り着くまでの時間が長く掛かってしまいます。

仮説を小さく検証しまくるサイクルを作る

この失敗を機に、例えば以下のような取り組みを徹底し、作業の無駄を減らしながらも議論や仮設構築の精度を高めていきました。

  • 資料は型が定まるまではnotionでライトに作成し、何度も商談で話してストーリーを固めてからパワーポイントに落とし込む

  • 新しく仮説を立てたら、知見者やお客様に早々に相談し、悪い意味で考えすぎないようにする

  • まとまった資料作りは、お客様の検討が一斉に止まるタイミング(お盆休みや年末)に一挙に実施する

  • 社内の議論はビジネスアワー外の時間で確保し、お客様とのコミュニケーション量をとにかく高く保ち続ける

上記は書いてみれば当たり前のことなのですが、徹底するのは簡単ではありません。一番の敵は「自分は分かっているという慢心」だと思います。常に前提を疑いアンラーニングし続けることで、小さな仮説をちゃんと検証し、議論や検討の精度を高めていく。「新しい何かを立ち上げる」という不確実性が高い状況では、この姿勢が極めて重要であることを、身を持って学びました。

営業稼働率をとにかく高く保つ

小さく仮説を検証し、議論や検討の精度を高めていく必要性を学んだ話をさせていただきましたが、「たくさん検証しよう」と思っても検証の数は増えません。必要なのは「営業稼働率(自身の稼働時間のうち、お客様と接する時間の割合)を可能な限り高く保つこと」です。

これは、めちゃくちゃシンプルかつ、FS立ち上げ期において(もちろんその先も)非常に重要な取り組みだと考えています。

営業稼働率が低かった頃は、試行する→試行を止めて悩む→試行する→試行を止めて悩む→・・・というサイクルを踏んでいましたが、なかなか検証や改善が進まず。自信を失ってお客様との接点が失われると、更に上手くいかなくなります。

そんな時、とある方に「ただでさえ人が少ないのだから止まっている暇はない。人の2倍3倍取り組み、営業稼働率は落とさずに、やりながら悩むのが正しい姿勢」というアドバイスをいただくことがあり、この言葉にハッとして行動を改善してから、徐々に改善していきました。

私は現在、自身の営業稼働率の目標を「50%」に設定しています。

なぜ50%と置いているかというと、「世の中の営業稼働率の平均が15%で、かなり高い会社で40%」という記事を読んだことがあったからです。営業未経験で、物流という未知の領域で、かつスタートアップにいる身としては、平均の3倍こなして、かつトップ水準を上回らないといけない、と思って、目標に置いています。

実際、FSを立ち上げ始めてから半年ほど経った頃から、営業稼働率を40%~55%ほどにキープし続けているのですが、この頃から、お客様の業務を把握し取りまとめる力が向上したり、具体的に物事を推進していく腕力が身に付き始めました。また、良い意味で悩みすぎる暇が無くなり、常に上機嫌で?いられるようになったのも大きかったです。

なお、営業稼働率を高めるために、具体的には以下の取り組みを行っています。

  • 喫緊のものでない限り、ビジネスアワーに社内MTGを極力入れない

  • ドキュメント・Excel・PowerPointなどのスピードと質(=素手力)を上げる

  • お客様との日程調整は、お客様との次回打ち合わせの日程を決める際もポイントがあり、「資料が完成する目途が立ってから打ち合わせ日程を設定する」のではなく、「先に日程を押さえて、その日までに準備を間に合わせる」

あと、純粋に、私はお客様と物事を進めていくのがシンプルにめちゃくちゃ好きです。どんどんお客様の業務を改善していくためにも、自分自身が前のめりに改善を推し進めていきたいです。

②Vertical SaaSのFSは事業開発の責務も負っており、売り方そのものを考える必要がある

誰も解いたことがない課題が残っているレガシー業界において、FSは「課題の特定・解決策の定義・売り方の具現化」までがセット

月額や年額課金の料金体系で利用できるシステムをSaaSと呼びますが、業界横断かつ特定の業務で使われるHorizontal SaaSと、特定業界の業務に特化したVertical SaaSの2つに大分されます。

特定業界向けの機能を開発するVertical SaaSは、自ずとシステムの業務カバー範囲が広くなります。アセンドが開発する運送会社様向けSaaSもVertical SaaSに分類されますが、受発注・配車・請求・労務・車両・データ分析など、幅広い業務をカバーするシステムになっています。

そのため、お客様の業務やその背景を深く理解することが重要であり、お客様との接点が多いFSやCSは、お客様と自社を繋ぐハブとしての役割を担うことになります。

また、運送を始めとするいわゆるレガシー業界では、依然としてExcelや紙が業務の中心に存在する会社が多いのが実情であり、それゆえ、「どのシステム開発会社も解いたことのない課題」が山積しています。

そのため、「そもそもお客様の課題は何か?」という点から言語化し、その解決策となる機能を作っていく必要があります

課題の特定を率先して行うべきは、やはり業界やお客様との接点が多いFS、ということになります。

FSを始める前は、FS=いわゆる営業、という印象を持っていましたが、今では、自分の中では、

お客様の課題を定義し、解決策を具現化し、売り方を考え、価値を届けきる
ところまでをセットで行う役割

と定義しています。

新しい売り方を作り上げるための取り組み例

なお、FSの活動の中で、新しい売り方の仮説が立った際には、例えば以下のような取り組みをして仮説の検証を進めています。

  • そのテーマのセミナーを開催し、集客状況や感想から、仮説の確からしさを検証

  • 簡易的なMVPをスプレッドシートで組んで提供し、価値が出る機能になりそうかを検証

  • 想定する新機能の概要をまとめた資料を作り、お客様に実際に見ていただき意見をいただく

なお、ここで重要になってくるのが素手力(=ドキュメント・Excel・PowerPointなどのスピードと質)の高さです。いくらいい案を考えても表現できないと試行の数が減ります。

エンジニアと真の課題解決に向けて協働することがマスト

事業開発、と言っても、プロダクトを通じて課題解決をしていくためには、

このように、Vertical SaaSのFSは事業開発の責務も負っている訳ですが、その過程において、エンジニアとの協働がマストになってきます。これは簡単ではないですが、一方で非常にやりがいがあると感じるポイントです。

お客様の業務は複雑で、かつ課題が大量に存在しています。その中で開発優先度を立てることはエンジニアにとって容易ではないはずで、FSやCSがお客様の業務を深く知り、それをエンジニアが具現化できるように伝える必要があります。また、機能が具現化された後はお客様に機能を提供し、機能にフィードバックを与え続ける必要があります。

もちろんPdMは別に存在しているわけですが、現場解像度の面ではFSやCSが貢献すべきポイントも多いです。

プロダクトエンジニアと一緒になって進める

アセンドのエンジニアは「プロダクトエンジニア」と定義されています。プロダクトエンジニアは、テクノロジーを軸としながらも、自ら業界知識を獲得し、自らデザインを考え課題に対する解決策を具現化する職種です。

アセンドのプロダクトエンジニアはお客様の業務に対して強い関心を持ちながらもそれをテクノロジーで具現化する能力を併せ持っており、私自身も、業界の課題解決を志向するエンジニアと協働しながら事業推進していけるところに日々面白さを感じています。

Vertical SaaSだからこそバックオフィス出身者でも自分なりに貢献できる

私自身、前職では経理部に所属しており、営業未経験でアセンドに飛び込んだわけですが、前職の経験が現在のFSの活動に活きていることが結構多いんです。

もちろん、いわゆる最初は営業力ゼロからスタートしますので、その点はビハインドと言えるかもしれませんが、業務カバー範囲が広いVertical SaaSにおいては、システムの業務カバー範囲がバックオフィス領域にも染み出すことが多いため、バックオフィスの経験が無駄になりません。

私の例で言うと、前職の経理部でやっていた管理会計が活きており、お客様の「管理会計領域における課題」を洗い出し、「解決策」を検討し、エンジニアが具現化した機能をデリバリーし機能を磨く、という役割を担っています。

バックオフィスの仕事をしていて、実は営業に転職したいと思っている人多いですよね?「Vertical SaaSのFS」を選択肢に入れてみてはどうでしょうか!?

③とにかく諦めないことが大事

Vertical SaaSで解くべき問題はそもそも難しく解決に時間がかかる

Vertical SaaSにおいては、解決すべき課題を特定し、開発し、仮説を検証し、売り方を定めていく、というプロセスを踏んでいくため、課題の解決が簡単でないですし、一つ一つの取り組みを興して完結させるまでに時間がかかります。

特に現在、物流業界は多くの課題に直面しています。

ドライバーの労働環境は厳しく、全産業と比較すると、トラックドライバーの年間労働時間は約2割長く、その一方で年間所得額は約1割低い事実があります。更に直近では、ドライバーの労働時間の短縮、燃料費の高騰、物価の高騰、人件費の高騰などの問題が降りかかっており、しかもその価格を消費者に転化しきれていない状況で、トラック運送事業者の約6割は赤字

アセンド社長の日下が話しているPodcastでも語られていることですが、「Vertical SaaSによって解決したい問題は決して簡単ではない、という事実をちゃんと理解し、長い時間を掛けて取り組むことが重要」です。

私自身も約3年取り組んでみて、運送業界の課題を特定し解決していくことの大変さを身を染みて痛感しました。(もちろんそれがやりがいでもあるということは言うまでもありません。)

「解決するのが大変」の裏を返すと、それだけ解決すればインパクトが大きい課題だということだと思います。また、取り組みが長くなる持久戦だからこそ、前職が何だろうがそんなに関係ないし、寧ろそれを強みに変換し、価値に変えていける可能性を秘めています。(この感覚が自分の志向性に合っているからこそ、飽きずに続けられています。)

長い取り組みだからこそ、会社メンバー同士がお互いに鼓舞し合うことがめちゃくちゃ重要

このように長い取り組みであるため、メンバーの入れ替わりが激しかったり、働きづらい環境だったりすると、それはイコール事業成長のスピードが著しく落ちる、ということを意味します。

アセンドではエンジニアも含めて出社が推奨されており、また、平日の夜は有志メンバーにて夕食を一緒に食べるということをしていますが、この営みを通じて、会社メンバー同士がお互いにお互いを鼓舞し合っています。

長く太く続ける必要がある業界だからこそ、コミュニケーションを密に取り一緒に成長していくために、アセンド食堂が重要な役割を担っています。

運送会社の社長を務める父親ともよく会話するのですが、本当に大変な思いをしながら事業維持しています。

何度も言っていますが、簡単に解決できる問題ではないからこそ、長い時間を掛けて取り組むことが必要なのです。

FSも、業界への向き合い方を常に問われ続けている

SaaSは長く使っていただいてこそ価値が出るものです。

お客様と会話していてよく感じるのですが、「この営業担当者が/会社が、どこまで業界に対してどこまで本気で想いを持って腰を据えて取り組んでいるのか?」を問われています。

Vertical SaaSのFSは、お客様の課題を定義し、解決策を具現化し、売り方を考え、価値を届けきるところまでをセットで行う役割

アセンドに入社オファーをしていただいた際に、創業メンバー5名にいただいたオファーレター、今も見返す宝物です。

ascend(アセンド)が意味する「成長する」を体現し続ける個人と会社であり続けたいです。

最後に

本noteでは、FSの立ち上げ、という切り口で、今までに学んだことを表現しました。(結果、ところどころ立ち上げとは関係ない話になっちゃいました。)

日々の業務内容についても記述させていただきましたが、アセンドのFSは非常にやりがいに溢れた楽しい仕事です。

ご興味を持っていただけましたら、是非以下のリンクをご覧ください!

お会いできることを楽しみにしています。

(2024/08/28)

P.S. 4月に結婚しました!!!毎日幸せです。今後ともよろしくお願いいたします!

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