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短歌 31首 眠れざる闇

若き日の教え子に声かけられきバスケ部運ぶ思い出語る

若葉なる頃に恵みを受けし日の霜葉となり温み喜ぶ

マスクの世なれば口唇裂の口隠す日常普通となりぬ

コロナ禍のマスクを取れば口唇裂何事も無く驚き隠す

吾が母は口唇裂に吾を生みて謝罪一言言わずまかれり

死ぬはずの命永らえ父逝きし歳をば過ぎぬ口唇裂の子

初雪や越後住みける若き日日惚れし娘は他人(ひと)の女房

生活のすべてを妻に世話になり私は一人生きていけない

世の中のすべてが俺に逆らいぬ取手にかけし服引き千切る

フレンチのフォアグラトリュフヒレステーキ食べて妻言う明日死んでいい

霜葉の赤き知らせを聞きながら一歩も出でず炬燵守り人

朝日浴び薄着に毛布包(くる)まりて縁側座るすることなき日

神宿る熊野に住みし二十代必死に生きし記憶は夢か

春の雪夢と消えにし若き時代(とき)惚れし女は今も独り身

妻と来て喘ぎ登れる倶留尊山(くろそやま)今この時も消えてゆく夢

眠れざる闇の一点見つめつつ終夜過ぎゆくい寝ずとも良し

言葉では伝わらざれど言葉のみ伝うる手段眠れざる闇

秋彼岸無為の奥山今日越えて萩の花咲く亀山の宿

秋分の時を違わず曼珠沙華野村の一里塚に人無し

芋虫の蛹にこもり姿変え空に飛び立つアオスジアゲハ

幼虫の姿留めて飛び立てり残り僅かを熊蝉は鳴く

冬立ちぬ雪の知らせを寿ぎて胸なでおろす待ってろ八方

奥志賀のエキスパートを滑降す青空の下叫ぶひゃっほー

八方のグラートクワッド上り来て雪の杓子岳(しゃくし)を倦まず眺めつ

暖房のききし部屋より眺むれば朝日輝く新雪の峰

時を経てあらゆるものが劣化せり建物車家電肉体

五匹生む野良猫(のら)の子猫(こ)一匹生き残る生存競争腹ペコ地獄

春の来ぬ冬の季節を生きにけり死を待つのみの妻との旅路

一日中雲雀囀る竹藪の歌かしがまし無聊を憩う

母迎え母送りけり初盆の精霊舟は波に消え往く

父の日を言祝ぐことぞ絶えて無き物心つく頃に父無し

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