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短編集 | とある街で | 2:00 p.m.公園、タマゴサンド

とある街の、ある日。
どこかにいるかもしれない9人の物語。
知らない誰かとも、どこかで繋がっている日常を、
おやつと共に描く短編集。
(2021年11月開催 絵とことばの個展「おやつ展2」より)

常連の佐々木さん、商店街の肉屋のおっちゃんが帰り、面倒くさい親戚の祐作がきたから退散する。まぁ、接客はほとんど妻に任せているのだが。

「お父さん、公園?」
「あぁ。」
はいはい、母さんは前掛けで手を拭いて、弁当包みと水筒を俺に手渡した。

「飲み物、あったかいのにしておいたから。寒くなってきたでしょ。そうよ、お父さんもっとちゃんと着込んで行った方がいいんじゃない?」
「いいよ。」鬱陶しそうに返す俺に、「相変わらず、反抗期の息子みたいだなぁ。」祐作が茶々を入れる。
「そうなのよ、あの人ったらね......。」
また妻の長い話がはじまったので、そそくさと店を出た。

小さな公園の通りを挟んで向かいにあるうちの喫茶店は、俺の父から受け継いだ店だ。建物はだいぶ年季が入っているが、修繕しながらなんとか持っている。妻は働き者で、ほぼ年中店を開け、切り盛りしながら二人の子どもを育て上げた。
父が店に立っていた時、この辺りは飲み屋や雑居ビルが立ち並ぶ通りだった。20年程前に都市整備が入り、雑居ビルが立ち退いて、店の向かいは公園になり、通りは明るくなった。

ベンチに腰掛けて、妻が持たせてくれた包みを開くと、たまごサンドが入っていた。客足が落ち着くと毎日公園に出かける俺に、妻はその日のあり物で何かしら作って持たせてくれる。
水筒の中身は、ミルクティーだった。たまごサンドにかぶりつき、ミルクティーを流し込む。だいぶ砂糖が多いな。それでも、温かい飲み物は嬉しい。

ここ数日で、風がだいぶ冷たくなっている。見上げると、いちょうの葉が黄色く色づいていた。銀杏くさくなるな、と風情のないことを考える。

祐作はいつまで店にいるんだろうか。まだなかなか帰らないだろう。暇なのか、あいつ。

夜の親戚の集まりは妻に任せて、映画館に身をひそめるつもりだ。娘夫婦も来るそうだが、どうせ俺はのけもの扱いだろう。しばらく娘とも喋っていない。

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