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メタバース 徹底して解るまで 22

第15章 メタバース的存在 

OIVWP(Open Integrated Virtual World Platform)を目指して

 
メタバースを言い換えると統合的仮想世界プラットフォームIVWP
(Integrated Virtual World Platform)
である。現在存在しているIVWPで活発なものはRoblox, MinecraftそしてFortnite Creativeである。

Image | © 2021 Roblox Corporation


https://www.minecraft.net/content/dam/games/minecraft/key-art/Xbox_Minecraft_WildUpdate_Main_.Net_600x360.png


https://cdn1.dotesports.com/wp-content/uploads/2022/06/14121216/FVOY48_XEAIDsD_.jpeg


このプラットフォームはUnityやUnreal Engineといったゲームエンジンが組み込まれている。下記がゲームエンジンのイメージだ。


https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2006/24/news073.html


https://cdn1.epicgames.com/ue/product/Screenshot/unrealenginescreencapture02-1920x1080-648065e8f2302fa1668c326ec2964e04.jpg?resize=1&w=1920


ゲームエンジンは実際にコーディングをしなくてもゲームや体験場所、仮想世界を造ることができる。ゲームエンジンから部品を選んで組み立てれば良いのである。いままでのゲームやコンテンツ制作に比較して、簡単に少人数でプログラミングの経験が無くてもゲームを造ることができる。Robloxでは小学生が仮想世界を作って遊んでいる。
 
もう一つ大切なことがある。こうしたIVWPはゲームエンジンで仮想世界を作るサービスだけでは無く、このプラットフォーム内でユーザーがゲームエンジンでつくったゲームで活動するために必要なもろもろのサービスを提供している。たとえば
IDアカウント
コミュニケーションシステム
アバター管理用データーベース
仮想通貨

などである。IVWPを使えば、コンテンツを簡単に使うエンジンと作った世界を管理するサービスが入手できるのだ。Facebookの頁を作るように仮想世界が作れるようになっている。Robloxはさらにユーザーがつくった部品(クリスマスツリーなど)を販売できるマーケットプレイスも提供している。

ゲームの開発者は自分の作ったゲームからの収入に加えて、自分がつくった部品からも収益を上げることが出来る。またゲームを作ろうとしている人はこうした部品をつかうことでより簡単にゲームを造ることができる。ゲームエンジンだけをつかってゲームを作るには、様々なサービスを自前で開発しなくてはいけない。多くのゲーム開発会社はそうしている。しかし、IVWPの中で開発をするとこうしたサービスはすでに用意されている。

一方でIVWPそのものを作ることは高度なプログラミング技術と設計が要求される。だが、一度このプラットフォームをつくるとこのプラットフォーム内でつくられたゲームを構成する部品は別のゲームでも使うことが出来る。新しい使い手が既製の部品を改善することも出来る。つまりIVWPの中の多くの開発者達はお互いに協力しながら自分たちの世界を拡大していくことができるのだ。ネットワークに接続されているため、多くのユーザーが集まってくる。そして集合的なR&Dが始まる。現状ではIVWPはRobloxとFortniteとMinecraftであるが、完全にユーザーに開発を委ねているのはRobloxだけである。
 
さて、IVWPはゲームエンジンであるUnityかUnrealを中心に作られていて、仮想世界を作るにはコードを書く必要がない。その世界をマネージメントするサービスはIVWPの中がコードを書いて提供する必要がある。このコードの部分にブロックチェーンを使ったIVWPも存在する。有名なものにはDecentrandthe Sandboxがある。利用者はRobloxやMinecraftの1%にも及ばないが、これらのプラットフォームではユーザーに彼らが開発したゲームあるいは「世界」を所有することを許している。だが、これは私見だが、そこに集まるユーザーにRobloxやFortnite createのような活気が感じられない。

さて、IVWPをapple storeで販売するとIVWPが上げた収益の30%をAppleが「税金」として持って行くことに意義を申し立てたEPICの話はすでに書いたが、Appleがプラットフォームでは無く、EPICがプラットフォームであるというのがこの裁判のポイントであった。
 
この話を例えば教育のコンテンツを例として考えてみよう。コンテンツをつくってAppleで販売すれば30%を持って行かれる。だが教育コンテンツ向けIVWPがあったとすると、作るのは簡単で、実際にある程度の利益が出るまでは開発者に金銭的負荷がかからない。多くの人が開発者となりコンテンツを提供して、そこで遊ぶ(学習する)ユーザーがふえればふえるほど、Appleやグーグルのプラットフォームでコンテンツを配り課金するときの経済的な不利益が大きくなるのである。GAFAMのなかで、IVWPに対応するプラットフォームを持っているのはマイクロソフトだけだ。だが大きな動きはない。SONYもIVWPを作ったが人気が出ていない。
 
IVWPの人気がでるには、多くのユーザーが自由にコンテンツをつくり、それがある程度の収益を生み、ますます多くのユーザーがコンテンツを提供するようになる。この循環が必要だ。多くのコンテンツを集め、そのなかから魅力あるコンテンツが生まれてくる。この流れが大切なことはもちろんだが、IVWPがオープンになり、いろいろな場所でコンテンツやアバターが活躍するようになると、魅力的なコンテンツはさらに増えていくだろう。だが、IVWPをオープンにするには「信頼」の問題を解決しなくてはいけない。

デジタル時代は、私たちの生活のさまざまな側面を向上させた。情報へのアクセスはかつてないほど大きくなり、私たちが入手できる情報の多くが無料で手に入る時代となった。物理的に遠く離れている者同士が、より身近に感じられるようになり、アートが簡単に手に入りるようになった。これほど多くのアーティストが自分の作品に対価を払ってもらったことはない。
 
しかし、IVWPをつくり、多くのコンテンツクリエータをあつめ、さらにオープンIVWPで複数のメタバースでコンテンツクリエータが活動できるようになると、「信頼」の問題が大きくなる。インターネットが登場してTCP/IPが普及した今でも、私たちは誤った情報、操作、過激化、嫌がらせや虐待、自分のデータの所有管理の権利、不十分なデータセキュリティ、その他多くのオンライン生活上における信頼の確立の困難さに直面している。現在、IVWPで活動をしている多くのクリエーターやゲーマーの活動はいまのインターネットではなく次のインターネットの世界であり、この世界での信頼を確立する方法が明らかにならないとメタバース世界は登場してこない。
 
オープン化されたIVWPであるメタバースでは、私たちの生活、労働、余暇、時間、支出、富、幸福、そして人間関係の多くがオンラインになる。オープンなIVWPが到来すると、我々は「実際にオンラインで存在する」ようになる。その結果、大きな未解決の社会技術的課題が明らかになる。誤報や選挙の改ざんが増加し、現在のような脈絡のない発言、荒らしのツイート、誤った科学的主張といった複雑な状況がIVWPの登場でさらに大きな問題となる。メタバースにおける不正な資金調達の摘発は難しい。またバーチャルおよびフィジカルな新技術を駆使したメタバースにおいて、ハラスメントがどのようになるのか、を考えることは恐ろしい。
 
Ballは次のように信頼の問題を列挙していく。

データの権利と使用に関する問題はより大きな問題をはらんでいる。民間企業や政府が個人データにアクセスするという問題だけでなく、ユーザーは自分が何を共有しているのかを理解しているのか?ユーザー自分のデータを適切に評価しているのか。IVWPは、ユーザーにデータを返す義務があるのか?無料サービスは、データ収集を「買う」という選択肢をユーザーに提供しなければならないのか、もしそうなら、それはどのように評価されるのか。私たちは今、これらの質問に対する完璧な答えを持っているわけではなく、それを見つけるための方法もない。しかし、メタバースは、より多くのデータやより重要な情報をオンラインに置くことを意味する。また、このデータを無数の第三者と共有し、その第三者がデータを変更できるようにすることを意味する。この新しいプロセスは、どのように安全に管理されるのか?誰が管理するのか?ミスや失敗、損失、違反があった場合の救済措置は?さらに言えば、仮想データは誰が所有すべきものなのだろうか?Robloxで何百万ドルもかけて開発したビジネスには、構築したものに対する権利があるのか?それを他の場所に持っていく権利はあるのか?Robloxの中で土地や商品を購入したユーザーは、その権利を持つのだろうか?(291頁)
 
このようなBallの指摘はそのとおりである。ではどのように信頼の構造をIVWPに組み込んでおけば良いのか?
           

メタバースのガバナンス

こうした問題を考えるにはメタバースのガバナンスをしっかりと考えることが大切になる。誰が、どのように、どのような哲学に基づいてメタバースを構築するのかが大切になる。仮想世界のプラットフォーム運営者やサービスプロバイダを超える統治機関がないことが問題なのだ。インターネットではこの問題はIETFが扱った。この団体は、当初は米国連邦政府によって設立され、インターネットの自主的な標準化、特にTCP/IPの標準化の舵取りをするためのものであった。IETFやその他の非営利団体(そのうちのいくつかは国防総省によって設立された)がなければ、私たちが知っているようなインターネットは存在しなかったと言われている。
 
20世紀を通じて、政府は、通信、鉄道、石油、金融サービス、そしてもちろんインターネットに至るまで、新しいテクノロジーを導いてきた。しかし、GAFAMが台頭してきたこの15年ほどの間に、政府はその能力を失ってしまった。メタバースはこの先をいく仕組みである。そこで、ユーザー、開発者、プラットフォームは新しい経済活動を始めるだけでは無く、それをガバナンススするだけの新しいルール、標準、統治機関、が必要となる。以下メタバースガバナンスに関するBall氏の意見をまとめておく。
 
2022 年、米国、欧州連合、韓国、日本、インドを含む多くの政府が、アップルとグーグルがアプリ内課金ポリ シーを一方的に支配し、競合する決済サービスをブロックする権利や他の決済レール(例えば、ACH や電信)を 中断する権利を有するべきかどうかに注目している。しかし、決済は、プラットフォームが開発者、ユーザ、潜在的な競合他社を支配するために使用する手段であるが、その1つに過ぎない。AppleやGoogleのようなプラットフォームは、ユーザーのアイデンティティ、ソフトウェア配布、API、などをハードウェアやオペレーティングシステムからアンバンドリングしなくてはいけない。メタバース社会でとデジタル経済が繁栄するためには、ユーザは自分のオンライン・アイデンティティと購入したソフトウェアを「所有」できなければいけない。ユーザーは入手したソフトウェアをどのようにインストールし、どのように支払うかを自分で選択できなければいけない。一方、開発者は自分のソフトウェアが特定のプラットフォーム上でどのように配布されるかを自由に決定することができなければいけない。
           また、独立したゲームエンジン、統合された仮想世界、アプリストアを構築する開発者の保護も強化する必要がある。unrealの開発者向けライセンスに対するEPIC社CEOのスウィーニー氏のアプローチは、ライセンスの終了を企業内部ではなく、裁判所の手続きに委ねるというものである。これは正しいものだが、事実上の法律がどこで終わり、立法・司法プロセスがどこで始まるかを決定するのは、営利企業だけであってはいけない。たとえエピック社のように、その「利他主義」がより良いビジネス慣行と結びついているとしても、彼らの利他主義をあてにすることはできない。決定的なのは、新しい法律が仮想資産、仮想居住、仮想コミュニティに特化して書かれない限り、物理的な商品、物理的なモール、物理的なインフラの時代に設計された法律が誤って適用され、利用される結果になる可能性が高いということである。メタバースの経済がいつの日か物理的世界のそれに匹敵するようになるなら、政府はその中の仕事、商取引、消費者の権利を同じように真剣に考える必要がある。(296p-297p)
 
以下Ball氏のメタバースガバナンスへの提案を整理すると
 
1)プラットフォームを規制するポリシーを制定する。
政府がIVWPが、自分たちが作った環境、資産、体験を輸出したいと考える開発者を、どのように、どの程度サポートしなくてはいけないかに関する政策を制定する。
 
IVWPのために作られたコンテンツは、そのIVWPの中で作られることがほとんどである。Robloxで作られたコンテンツは、基本的にRobloxだけでつかわれる。Robloxのコンテンツはライブストリームのように一時的なものではなく、継続的に更新される。このとき、現状では開発者が複数のIVWPにまたがって活動しようとする場合、その制作物のほとんどすべての部分を作り直さなければいけない。open IVMPではこの作業は時間とお金の無駄になる。IVMPがオープンでないと、開発者は単一のプラットフォームに依存する。すると、開発者は特定のIVWPの投資が増大して、そのIVWPから離れることが難しくなる。すると、開発者は、優れた機能性、経済性、成長性を提供する可能性のある新しいIVWPをサポートする可能性が低くなり、既存のIVWPは競争がなくなり、自分のプラットフォーム改善の努力無く、市場を独占できるようになる。支配的なIVWPが「レント・シーク」する可能性さえあるとBallは述べる。
           自由競争行動を前提とする資本主義経済において不正な競争状態を作り出すことを「レントシーク」という。この場合のレントとはrentであり、家賃の事だが、歴史的にはイギリスの農園主が小作人から徴収していた地代のことを意味していた。これから転じて制度や規制などによって苦労せずに得られる利益、つまり「利権」という意味を持つようになった。企業などが、政府や官庁などに働きかけを行い、自らの利益を増やすように法律や政策、税制などを変更させようとする活動のことである。IVWPのユーザーを振りにする不公平なルールをレントシークという。
           過去10年間、GAFMSと呼ばれるインターネットプラットフォームは、このような行動をしてきたと批判されてきた。例えば、多くのブランドは、Facebookのニュースフィードのアルゴリズムの変更により、自発的にFacebookページを「いいね!」したまさにそのFacebookユーザーにリーチするために、事実上広告を購入することを強制されたと主張している。2020年、AppleはApp Storeのポリシーを改定し、一部の例外を除き、サードパーティのIDシステム(例えば、FacebookやGmailアカウントによるログイン)を使用するiOSアプリは、Appleアカウントシステムもサポートする必要があるようにした。
           IVWPの中には、選択的エクスポートをサポートしているものがある。オープンにしているのだ。例えば、Robloxは、Robloxで作られたモデルを、OBJファイルフォーマットを使ってBlenderに取り込むことを可能にしている。しかし、システムからデータを取り出しても、それが使えるデータであるとは限らない。たとえ使えるデータであっても、それを使えるようにするプロセスは必ずしも簡単ではない。この案配はプラットフォームの裁量次第である。
           この仕組みをなくして、プラットフォームをオープンにすることを政府はIVWPに要請することが出来る。これは規制であると同時にメタバースの標準を形成する機会でもある。IVWPのエクスポート規約、ファイルタイプ、データ構造に関するポリシーを設定する。これによって、規制当局はプラットフォームのインポート規約、ファイルタイプ、データ構造のポリシーもけっていすることができる。最終的には、仮想没入型教育環境やARプレイグラウンドをあるプラットフォームから別のプラットフォームへ、ブログやニュースレターを移動するのと同じように、できるだけ簡単に移動できるようにポリシーを制定する必要がある。
 
2)健全なメタバースを生み出す明白な法律や政策変更を行う。

2-1)スマートコントラクトとDAOは法的に認知されるべきだ。

これらの規約やブロックチェーン全体が永続しないとしても、法的地位はより多くの起業家精神を刺激し、搾取から多くを保護し、より広い使用と参加につながるだろう。このようなことが起こると、経済は繁栄する。

2-2)暗号通貨への投資、ウォレット、コンテンツ、取引に関するいわゆるKYC(Know Your Customer)規制を拡大する。
 
KYC(Know Your Customer)とは本人確認を行う手続きであり、銀行や証券会社などの金融機関や、仮想通貨/暗号資産取引所などの口座開設の際に行われる。一般企業でも与信管理や反社チェックの一環としてコンプライアンスチェック/ KYCチェックを行う。この規制により、ブロックチェーンベースのゲームなどのプラットフォームは、顧客の身元と法的地位を検証し、政府、税務機関、証券会社に必要な届出を行うことが求められるようになる。ブロックチェーンの性質上、KYC要件がすべての「暗号」に及ぶことはない。--国税庁や警察がすべての現金取引を監視できないのと同じことである。しかし、ほぼすべての主流のサービス、マーケットプレイス、契約プラットフォームがこの情報を義務付けるのであれば、ほとんどの取引はこの要件の下で行われ、そうでないものは詐欺のリスクを認識するために割り引かれる(ちょうど、ほとんどの人がブランドのないマーケットプレイスや匿名のアカウントから購入するより、eBayを使って検証済みの販売者から購入することと同じことである)。

2-3)政府がデータの収集、使用、権利、および罰則について強いアプローチをとる。

メタバースに焦点を当てたプラットフォームが能動的、受動的に生成、収集、処理する情報の量は膨大である。言動はほとんどすべて、カメラやマイクで撮影され、時には民間企業が所有するバーチャルツインに収められ、さらに多くの企業と共有されることになる。今日、何が許されるかは、開発者や開発者のアプリケーションを実行するオペレーティング・システム次第であることが多く、ユーザーには軽く理解されるに過ぎない。規制当局は、不測の事態に対応するだけでなく、プラットフォームに何が許されるかを先導し、時には拡大する。「許されること」の中には、ユーザーがデータの削除を要求したり、データをダウンロードして別の場所に簡単にアップロードしたりする権利も含まれる。 
 
規制をつくるだけではなく、取り締まる監視システムを運用する法律も作る必要がある。メタバースプラットフォーム企業が特権的な情報を保護する能力を持っているかを証明する。それができない場合にどのように罰せられるかを決める。

IVWPをつくりユーザーがコンテンツやアイテムを作り、販売し、別のユーザーに遊んでもらい、買ってもらう。さらに複数のIVWPの間をコンテンツを作るクリエイターもコンテンツで遊びアイテムを購入するユーザーも自由に動くことが出来るようにオープン化する。そのことによってメタバースは我々の生活を大きく変えていく。だが、この世界は新しいガバナンスを構築しておかないと、健全に拡張していくことはないのである。


 
 
 
 
 

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