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作文技法101 承前(アップデート版)

学術論文を仕上げるまでを連載しようとしたら、その前に説明する基本的なことが多くて、それを説明していると本筋がわからなくなるので、別のNoteを準備していたら、それもまた何回にもなるので、終わりまで書くまえに、言っておきたい、とおもって、執筆における戒めを連載前の承前として書いて置くつもりだったのだが、ChatGPTの動きが速いので、どのようにChatGPTと向き合うかを詳しく説明して、このセクションのアップデートをおこなうことにする。

本格的に思考をするには、文章を読み、書く、という能力を身体的に身につける、ということが何よりも大切になる。そのためにハーバード大学では Expos  というクラスをとることを新入生全員に要求している。Expos とはexpository writingの略である。 今回は下記のURLの記事を参考にして書いている。


ではexpository writingとは何か?ちょっとChatGPT4に聞いてみた。 答えは 英語である。よく出来ているが、英語を訳しながら、解説していきたい。ChatGPTのプロンプトエンジニアリングは以下である。

what is expository writing?

Expository writing is a form of writing that aims to inform, explain, clarify, or describe a topic or concept to the reader. 何か文章をかいたときに、自分が論じたいこと、これをa topic あるいはconceptというが、それについて次のような動詞で説明できるような文章をかくことをExpository writingという。アメリカの名門私立大学や名の通った州立大学であれば、入学したら最初に鍛えられるところである。さて、この文章は次のことができなくてはいけない。

inform 論じているトピックに関する情報が記述されて
explain それがどのようなものであるのかが説明されていて、
clarify 明晰に書かれていて
describe 文章としてしっかりと記述されている

ような文章を書く能力が必要なのである。

It is objective and fact-based, and its primary purpose is to convey information in a clear and logical manner.

そしてファクトを使って、明晰で論理的な方法で情報を読者に伝えることができなくてはいけない。

このような文章をExpository writingというのだが、新入生は大学で勉強し研究を続けるに当たって、エッセイや調査論文やレポートというものを提出しなくてはいけないのだが、そこにおいては自分が扱っている個別の主題に関して必要とされる情報を分析して提示しなくてはいけない。そのときに必要となるのがExpository writingの能力なのだ。この種類の文章は次の5つの特徴をもつ。

一つ目はClarity and coherenceである。読んで何を書いているのか何を論じているのかが’を読者が文章の流れに従って提示される情報から簡単に理解できるモノでなくてはいけない、ということだ。

二つ目は、Evidence and support である。: Expository writing はファクト、統計、事例、さらには専門家の意見にしたがって自分が提示する主張 the claimsが正しいと読者を説得するモノでなくてはいけない。証拠というのは、十分に調査を行い、主張の正しさを証明するモノであり、そしてここが大切なのだが、きちんとした資料から適切に引用されたものでなくてはいけない。

三つ目はObjectivityつまり客観性である。Expository writing はバイアスがあったり一方的な意見を述べるものではなく、個人的見解や感情的な立場から情報を提示するものであってはいけない。読者がトッピックに対してバランスがとれて明確に理解するモノでなくてはいけない。

4つ目はパラグラフが上手に構造化されていなくてはいけない。Well-structured paragraphsという構造化されたパラグラフとは、それぞれのパラグラフがトッピックセンテンスをもち、主張を明確に述べるパラグラフの次に、その主張をサポートする細かな説明とエビデンスを述べるパラグラフが構造化されて組み立てられていなくてはいけない。

5つ目はClear and concise な表現で書かれていることである。不必要な専門用語とか必要以上に複雑なセンテンスの文章で書いてはいけない。読者がエッセイを読んでいるときに混乱するような文章を書いてはいけないのである。

いずれ詳しく使い方の説明を行うが、ChatGPT4は人間の書き手が自由に書いた文章をClarity and coherence、Well-structured paragraphs、そしてClear and conciseの視点から、つまり推論を多用して、すっきりとした文章に書き直すことは大得意で、この機能を上手につかうと、文章の質が一気にあがる。ワードプロセッサーで文章をかいて、綴りの間違いを直してもらうという作業をすることで、博士論文指導の課題提出のスピードを上げた話しを拙著『物書きがコンピュータに出会うとき』で30年以上前に書いたが、実際、そのときに近い衝撃があった。

さて、筆者はアメリカで博士論文を提出した後帰国して、アメリカ的な文章の書き方とワードプロセッサーなどコンピュータを道具として使うことに関して、前述の本と『思考のエンジン』の二冊の本をだし、その後修士論文博士論文の指導を20年以上続けてきたのだが、上記のようなExpository writingはセミナー形式で寺子屋のように教えるしか方法はない。かなり手間がかかる。

ハーバード大学では新入生全員に対してこのセミナーを提供している。少人数で徹底して教える。したがってクラスの数も非常に多い。研究指導の教員のところにやってくる学生の多くはこのような文章術を身に付けている。これはびっくりするような話しなのだが、ハーバードではこの授業は1872年から提供されているという。

さて、この授業で提供されるのは
the craft of composing and revising your ideas
と書かれている。作文の技法とアイデアの改訂の技法を教えるとある。それを授業のなかで、教員が個別に教えていくとある。

よい思考をするには良い文章が書けなくてはいけない。ではどうするのか?そのためには論述(argument) を組み立てる戦略を立てる方法を学ぶ必要があるという。それはなにか?何度も文章を書き直しながらアイデアと証拠を組み合わせて説得力を持たせる方法を発見し、必要とあらばさらに再編成する能力であるという。

それを獲得するために必要なのは、

継続的な努力
執筆のためのフレームワーク
作業を親身をもって指導する経験豊かな教師
そして良い文章を書くぞとという学生の責任感

だという。

 実際の授業では教師の要求は容赦ないものとなる。継続的に書き続け、その文章を添削してもらうことはかなりの作業となる。だが、これ無しには作文能力が身につくことはない。

だが、実際この方法で文章術を20年以上教えてきた筆者の経験からずると、あるとき、突然文章が見違える。それは

使用する言葉を丁寧に選ぶようになり
決まり文句を使うことがなくなり、
表現を正確にするために最新の注意を払うことが出来るようにる。

こうなると文章術101は合格なのだが、自転車に乗る能力と同じで、一度覚えると二度と忘れない。

この授業は少人数で構成されていて、 Expos 20 のタイトルのもとに、多くのコースが開講されており、学生は自分の興味のあるトッピックを扱う授業を選択する。さて、大切なことはこのコースではトッピックそのものを教えるのではない。ライティングの技法を教えるために、特定の領域を設定しているのだという。ハーバードで文章の書き方を教えるのはこのコースだけだという。自分が選択したコースで課題となる書籍を読み、まとめ、文章に書きながら、学術論文執筆のおける戦略、そして書くためには不可欠な学術的な文章を読む戦略を学んでいくという。そして、ハーバードで授業をとり課題を提出するときに要求される必要となる次の9つの能力を身につけてもらうという。

  • pose an analytical question or problem that will make a paper’s argument necessary; 論文のなかで展開される論述に必要となる分析的な問いと問題をつくれ(pose!

  • craft a thesis that is arguable, not self-evident or descriptive;

  自明で記述的ではなく論述可能なな主張をつくれ(craft!)

  • substantiate the thesis with thoughtfully analyzed evidence;

         深く考えて分析された証拠を並べて、主張を説明せよ(substanthiate!)

  • anticipate and respond to objections to an argument;

         論述への質問や反対を想定せよ(anticipate and respond!)

  • structure an argument logically;

         論述を論理的の構成しろ(structure!)

  • use primary and secondary sources responsibly, including how to avoid plagiarizing.

  剽窃(plagiarizing)を避けながらプライマリーデータとセカンダリーデータを責任持って使え(use!

これは実に素晴らしい。学術的論述文はこれらの動作が身体化していれば書ける。

くわえて、学術的論文で不可欠な資料整理の方法も身体化させる。

  • locate and evaluate sources in both the physical and online resources of Harvard’s libraries

  ハーバードの図書館をつかって物理的にあるいはオンラインで資料を探して評価しろ(locate and evaluate!)

  • create an annotated bibliography in order to help students understand the roles that their sources will play in their papers;

      文献は論文の中で重要な役割を果たすので文献リストにはコメントを加えたものをつくれ!(create!)

  • integrate and properly cite their sources.

資料を適切に引用(cite!)して本文と(integrate!)せよ!

ぜんぶで9種類の身体動作である。研究はこの動作が身についていない人には出来ないのである。

さて、この作業の中でCgatGPTが出来ることと出来ないことがある。個別に見ていこう。

  • pose an analytical question or problem that will make a paper’s argument necessary; 論文のなかで展開される論述に必要となる分析的な問いと問題をつくれ(pose!

これは微妙で、最初のアイデアをつくるところは出来ないが、出来たドラフトを書き直して、 argument が出来ているかどうかの判定はおこなうことができるので、論述的文章をかく練習ができる。

  • craft a thesis that is arguable, not self-evident or descriptive;

  自明で記述的ではなく論述可能なな主張をつくれ(craft!)

これは主張が具体例で指摘されているか、で、これも添削用語のspecification を理解するので行うことが出来る。

  • substantiate the thesis with thoughtfully analyzed evidence;

         深く考えて分析された証拠を並べて、主張を説明せよ(substanthiate!)

これもargument  が成立するかを細かく検討する機能があるので、かなりのところまで行うことが出来る。

  • anticipate and respond to objections to an argument;

         論述への質問や反対を想定せよ(anticipate and respond!)

これも論述の機能をもっているので出来る。

  • structure an argument logically;

         論述を論理的の構成しろ(structure!)
これも相当長い文章でも論述の論理的構成をチェックしてくれる

  • use primary and secondary sources responsibly, including how to avoid plagiarizing.

これが出来ない。プライマリーデータやセカンダリーデータは執筆者からChatGPTに提供しなくてはいけない。剽窃をしていないという証明につかうデータは人間がそろえなくてはいけない。

  剽窃(plagiarizing)を避けながらプライマリーデータとセカンダリーデータを責任持って使え(use!

これは実に素晴らしい。学術的論述文はこれらの動作が身体化していれば書ける。

くわえて、学術的論文で不可欠な資料整理の方法も身体化させる。

  • locate and evaluate sources in both the physical and online resources of Harvard’s libraries

  ハーバードの図書館をつかって物理的にあるいはオンラインで資料を探して評価しろ(locate and evaluate!)これも出来ない。いずれ出来るかもしれないが、実際現在使われているオンラインの論文データベースとは連携していない。

  • create an annotated bibliography in order to help students understand the roles that their sources will play in their papers;

論文を集めて、シカゴスタイルとかいくつかある書誌データのフォーマットで文献を整理するというのは現在非常に手間がかかる作業であるが、それをやってくれるのは素晴らしい。

      文献は論文の中で重要な役割を果たすので文献リストにはコメントを加えたものをつくれ!(create!)

  • integrate and properly cite their sources.

文章に具体的に引用場所をページで示して埋め込むことはできない。論文や書籍を実際に読んでいないからだ。

授業の終わりにはリサーチペーパーを提出することが義務付けられている。テーマとなっているトッピックを広いコンテキストで解釈して自分の主張をつくりそれを論述する論文を書くのだ。

リサーチによって見つけ出したことをもとに主張をつくり、より広い読者にあるいは聴衆に提示する。そのために、ソースつまり自分があつめた資料を統合し引用を付け加える。頻繁に短いエッセイを書くことが要求され、それは毎回添削される。そして、引用を明確に剽窃をすることなく、データをそろえていく。また3回か4回、自分のテーマについてクラスで級友のまえで発表をする。

さて、このハーバードの方法でChatGPT4の利用を認めたとすると、論述のクオリティで提出した論文を複数の段階にわけて、評価することは出来なくなる。論述が出来てなければ、即落第である。ChatGPTに添削してもらえばそこのところはクリアだ。で、残りはデータの収集だが、学部のレベルなので、実験もいらなければフィールドワークもいらないし、学術論文を読むことも要求されない。しかるべき書籍あるいは映画とかをみてそれを資料として自分でアイデアとデータをそろえて、書籍のどこからの引用かを明示して、論述を展開すればいい。それにはcritical reading とcritical writing の能力がいる。これはChatGPTを使っては意味が無い。自分の身体がテキストを理解したりテキストを書いたりすることが必要になる。それをChatGPTが論述になるよう書き直す。したがって小さなエッセイの課題が数回でるとして、それぞれのエッセイで本が読めているか、面白いアイデアがあるかを指導教員は指摘すればいい。それらをまとめて論述文にChatGPTの力をかりて提出すれば良くなる。過程を指導教員は見ているので、最終レポートがChatGPTで書いてあっても、執筆の過程を理解していれば、そのまま採点すればいい。

ということで、ハーバードの作文教室はChatGPTとともに作業しても学生の訓練は十分にできる、という気がする。まあハーバードが実際にどう対応するかはわからないが、注目していきたい。
(完) 

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