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実際に離れる前の心の距離。震える。



田舎を出る前日、友人と会った。
よく、一緒に学校から帰った友人。

今日で会うのが最後かもしれないなぁと、僕は思っていた。
いや、別にまた会えばいいのだけれど、

「なあ、もうあまり帰ってこないんだろ?」
と、彼が僕に訊く。

「そうだね、ここは遠いし、気軽に帰れるほどの余裕もね」
「ふーん」

彼が取り立ての免許証。二人で割り勘のレンタカー。
行く当てもないドライブ。

連絡なんかすぐできる。ネットもある。いちいちリアルに会う必要もない。
けれど、生活があり、関わりが変わると過ごし方の変化が出てくるのは当然のこと。きっと、一時期の寂しさを紛らわすために、余計な約束なんかしなくていい。気軽なまま別れ、気軽なまま、またいつか会えればいいかぐらいでいいのだ。

その日も特に用事はなかった。
そうやって、僕らはいつも過ごしてきたんだ。

高台に着くと、車を降りて、ベンチに座った。
街を見下ろしながら、

「色々楽しかったな」
と、彼が言った。
僕は「色々」を考え、
「楽しかった」
と、答えた。

少しだけ寂しいなと思った。
「頑張れ」
と、彼が小さな声で言った。
そういうことを言わない奴だと思っていたので、少し驚いた。
僕は、照れくさくて黙っていようかと思ったが、
「ありがとう」
と、街を見下ろしながら言った。

最後かもしれないから。と、思った。
そう思いたいんだなと思った。
この瞬間が、震える。


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