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そういう時間。


孝介は、最近隙間時間に本を読み始めた。
色々と嫌なものを排除していき、現時点ではと本に行きついた。
お役立ちとか、ビジネス本とかではなくて、小説。
それも短い海外の小説。
短編がいくつか入った本。

出来るだけ静かでささやかな人たちが効率悪く生きている物語。
そういうのを求めた。
それでもまあ、体調によって頭に入って来ないときがある。
字面を追っていると、全く別のことを考えている。
「ん……」
物語が残っていない。そしてもう一度、読み直す。
それを繰り返す。
孝介があまり本を読まない理由の一つが、この「違うことを考えてしまう」だった。

だから、読んでいる物語が、途中でまったく別の物語に変化していたりするのである。
間がごっそり別の記憶と入れ替わっていたり、読んでいたはずの本の話を誰かとしても、自分が読んでいた物語と違うのだ。

それでも小説を読もうと思ったのは、どこかで、まあ、それもまた楽しいかもしれないなと思ったからだ。
別に急いで読む必要はないし、それはそれで誰かに迷惑をかけるわけでもない。

煙突掃除の女性が出てくる物語を読みながら、孝介は目玉焼きのことをしばらく考えていた。
ベーコンを入れようか。どれくらいのカリカリがいいか。黄身は半熟にするのか。
「ん……」
孝介は本を閉じて、もう一度目玉焼きのことを考えた。
いや、ベーコンエッグだぞと。

そしてどんな物語を読んでいたのか思い出そうとした。
そういう時間。

嫌いじゃない。






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