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異色の低PBR企業研究

 決算発表シーズンを過ぎて、その後多くの企業ごとに投資家の吟味が続いてきたものと見られます。好業績発表後に株価堅調な銘柄もあれば調整が続く銘柄もあり、悲喜こもごもの皆さんがお見えかと思われます。

 前回の本誌では日本の中堅優良企業の一角でグローバル化して業績を伸ばしている企業について触れました。
 その中の一つであるヨネックス(7906)の株価が先週は高値更新の動きとなりました。今期予想粗利率が44.3%、同ROEが15.6%で高収益企業と言えますが、それでもまだPERは15倍の水準だということに気が付くと今後もなお先高期待が残ってしまいます。というのも消費関連の他社と比べてまだこのPERは低いためです。

 三越伊勢丹はPER22.5倍、イオン62倍、ヤクルト本社16倍、資生堂85倍、キッコーマン29倍、日清食品HD21倍、味の素30倍、7&iHD18倍などと比べると低い。
 高島屋12倍、H2OHD12倍と比べると高いというのが現状です。

 また、グローバル化によって業績を拡大してきた飲食業界はまだ外国人にはまださほど認知されている訳ではなく、外国人投資家の持ち株比率もまだ10%以下という企業が多いのですが、それでも市場では高い評価がなされており、例えば丸亀製麺所を展開するトリドールHD(3397)の株価は今期予想EPS69.7円に対してPER53倍にも評価されていますし、「銀だこ」を展開するホットランド(3196)も今期予想EPS68円に対してPER38倍との評価。コロナ禍を抜け出して世界展開を図る日本の飲食企業の評価が高まっている証左です。
 また、売上が1兆円を超える見通しとなった日本最大の外食企業でもあるゼンショーHD(7550)もこのところ調整傾向にはありますが、予想EPS236円に対しPERが26倍程度となっており、市場平均を上回っています。
 インバウンド需要の取り込みもありますが、日本ブランドの外食産業への評価が高まった結果と言えます。


 こうした消費関連銘柄の中でまだPBRが1倍を割れている高島屋(8233)の株価はこのところ勢いよく上昇中です。こうした比較的ブランド力の高い機関投資家好み、外国人投資家好みの銘柄に関心が寄せられていますが、中にはそうした機関投資家とは無縁の品薄中小型銘柄も存在しており、それは期間収益というよりはB/S面で興味深い異色の内容で興味深いものです。


1.光村印刷(7916)時価1573円

 直近高値1749円(2.19)安値1546円(5.1)(▲11.6%) 22年11月安値1143円から2月高値1749円まで53%上昇して調整中。過去の最高値は2005年3月の8300円。
 この高値からコロナショック時の安値930円まで売られて一旦1842円まで戻ってはいるが、その後また調整し22年11月にボトム1143円をつけた後に反転上昇傾向を辿る。
 時価総額は48.2億円(自己資本189.9億円)、前期実績BPS6198円(前々期は5666円)、前期営業利益▲62百万円、今期予想営業利益50百万円、EPSは前期18.5円、今期予想49円。時価PER32倍。

 同社の業績は前々期から前期、更に今期も売上が伸びておらず、営業利益もトントン程度で推移。EPSは自社保有資産の売却によってかろうじて黒字化しているに過ぎない。それにも拘わらず同社のBPSは532円も増加しています。
 普通なら期間利益から株主に配当した残りを積み上げていくことでBPSが拡大していくことになるのですが、同社の場合は利益が出ていないのにBPSが増加していっています。

 この傾向は前期に限った訳ではなくこのところ継続しています。

【BPSの推移】

 20.3期4993.91円
⇒21.3期5746.74円
⇒22.3期BPS5551.48円
⇒23.3期5666.03円
⇒24.3期6198.15円

 なぜこうしたことになっているのかというとそれは同社の保有する投資有価証券(持合い株など)の評価が増えているためと推察されます。つまり保有する株式の株価が上がっていくことで一株当たりの自己資本(BPS)の評価額が期間収益を生まなくても勝手に増加しているということになります。
 ある意味同社は投資信託のような位置づけにあるとも考えられます。投資信託運用会社が印刷事業をやっていると言ってもよいかと思われます。

 本来は本業で期間収益を上げて配当を実施すべきですが、残念ながら期間収益は赤字が続き、それを有価証券や工場等の資産を売却しながら何とか配当分程度の利益を計上しがらやってきたということになります。それでも今期か
らは半導体加工テープなどの新たな事業にも参入し収益黒字化を図る構えです。

 特筆すべきは同社の保有する資産です。
 前期末現預金は59.7億円、短期有価証券15億円合計で74.7億円、これに投資有価証券48.5億円と合わせて金融資産が123.2億円ある計算です。
 これに対して短期借入金27.6億円のみがあり、差し引き95.6億円があることになります。
 これに対して時価総額は48.2億円で差し引き金融資産合計の半分となっていますが、これは驚きの水準と言えます。しかも同社は印刷事業を本業としており、その設備資産と土地を合わせておよそ104億円の資産があります。

 こうした状況がいつまでも続くことはないだろうと数年前から見てきましたが、そろそろ何らかの対応をしないとモノ言う株主が出てきそうです。

 皆さんはどう思われますか。

 同社株は残念ながら流動性に乏しい銘柄で出来高が薄いということもあり、株価は過去1年余りの上昇傾向は見せていますが、月間出来高は最高でも14万株程度に留まっています。
 三菱製紙やDIC、読売新聞、SCREENなどの取引先やメインバンクが同社株の大株主となっていて、浮動株が少なく、あまりに出来高が薄いので諦めの境地なのかと思われますが、ある日突然型の変動を見せる可能性も考えられます。


2.日本山村硝子(5210)時価1702円

 23.1安値509円
⇒23.8高値2120円(4.2倍)
⇒23.11安値1283円(▲39.5%)
⇒12.6高値1637円(+27.6%)
⇒12.25安値1306円(▲20.2%)
⇒4.1高値1769円(+35.5%)
 5.2安値1390円(▲21.4%)
 5.16安値1368円(▲22.7%)
⇒24.5.21高値2095円(+53.1%)
⇒5.30安値1659円(▲20.8%)

 昨年1月からの株価変動は上記の通り激しい。

 まずもって509円という株価は同社の経常赤字が3期連続で続いたことに由来(21.3期▲54.8億円⇒22.3期▲46.5億円⇒23.3期▲29.6億円)。

 もともと同社はガラス瓶製造の最大手で石塚硝子とはライバル関係にあります。20.3期までは石塚硝子の方が売上が大きくなっていましたが、その後は同社が売上を拡大させて今期760億円を見込むまでに成長(石塚硝子は今期売上高570億円)。
 しかしながら利益ベースでは石塚硝子の前期営業利益54.56億円、今期予想25億円に対して、同社は前期44.52億円と下回りました。ただ、今期は27億円を予想しており、石塚硝子を2億円上回るとしています。

 これらのガラス瓶大手2社の株価を比べてみると

石塚硝子(5204)
 時価2775円 予想PER6.8倍、PBR0.37倍
 配当利回り2.16% 時価総額115.7億円

日本山村硝子(5210)
 時価1702円 予想PER10.2倍 PBR0.34倍
 配当利回り3.23% 時価総額173.8億円(自己株を除く)

となります。

 両社ともにPBR面では同じ程度ですが、日本山村硝子に発生した固定資産売却益55.8億円と関係会社出資金売却益21億円、76.8億円の計上で当期利益が膨らんだためBPSが5036.6円へと増加したため.PBRが低下してしまったということになっています。

 こうした状況にモノ言う株主が登場して同社への要求が始まったこともあるでしょうが、積極的に2026年3月期の中期経営計画を見直すとし、5月15日に資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応を示しました。
 果たしてこの計画が本当に実現するのかどうかは不透明。それでも今期経常利益25億円(これまでは15億円)、来期30億円(同17億円)の予想経常利益は株価にインパクトをもたらしたと言えそう。

 円安の下で燃料代、電気代がかかる製瓶事業なので、今後もかなり紆余曲折の業績変動が予想されるかと思われますが、PBR面での低さが当面の投資家の関心を呼ぶかと考えられます。

 前期末保有現預金109.9億円 土地資産104億円 設備155億円
 投資有価証券26.8億円 関係会社株式207億円(合計233.8億円)
 短期借入金56.6億円 長期借入陰167億円 合計223.6億円
 時価総額173.8億円

 3期間の赤字から脱却して中期経常利益30億円を目指す。
 売上高760億円の規模にしては時価総額が依然として低い水準にあると言えます。株価は今後も変動が激しいと見られますが、時価1700円というのは18年10月の併合(10株を1株に)がもたらした結果で、併合前だと
170円ということになります。
 170円だと一層割安感が出てきますが、こうした感覚であれば2000円とか3000円と言っても大したことはないとも言えそうです。


(炎)


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