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バーチャルキャラクター進化論(V0.12 後編)

こんにちは! 早速続きを書きます。

前編のおさらい

さて、前編ではVRゲームを含むいわゆるVRコンテンツを「空間的VR」と定義し、それと鏡移しの存在としての「心理的VR」を仮説立てしました。そして、VTuberは「心理的VR」の3要素に立脚して人気を得ていると考えたわけです。

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3つの要素は横同士では同一の心理作用をベースにしていますが、実在感・没入感・臨場感は「空間と私の関係性」であるのに対し、ガチ感・共感・一体感は「インフルエンサーと私の関係性」です。

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これは言うなれば、VTuberに感じるガチ感(作り物ではない雰囲気への感銘)を「心の実在感がすごい」とも呼んでもよく、VRコンテンツに感じる「モノの実在感」を「空間や世界のガチ感がすごい」ということあり、以下同じ……というイメージです。こう考えると、同一(少なくとも類似)の心的作用に依拠しているのではという横方向のラインにも納得がいくかなと思います。

そして、VRゲームにおいては昨今「実在感・没入感・臨場感」づくりに成功したご褒美として生まれる「当事者感」を利用して、もはや心理的VRの領域にアクセスしつつあるというお話もしました。

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VRのユニークな演出効果の一つに「当事者感」があるんですよね。当事者としての責任を感じさせ、反応や行動を強く促す力はVRの強み。
https://twitter.com/OKtamajun/status/1289754157528694787?s=20

当事者感が付与されると、そのVRコンテンツに登場する人に対するガチ感を得やすく(作り物感、台本感が薄れる)・共感や一体感を感じやすくなります。この先にストーリー的・劇的な感情でプレイヤーを動かすVRコンテンツの未来が見えています。

東京クロノスの良さ、やはりVRでないと体験できない
自分が犯人だと疑われている場で全員にジロッと見られるいたたまれなさ、こいつがやばいやつ!みたいな人物が自分に近づいてくる恐怖…
https://twitter.com/emifuwa/status/1289735202898493440?s=20

アルトデウスBCにも期待!)


VTuberに至る「心理的VR」の系譜を紐解く

さて、改めて心理的VRの3要素仮説を構成する「ガチ感」「共感」「一体感」というキーワードを見てみると、「別にVTuberに限った3要素ではないのでは?」と気づくかと思います。これをLT会では飛ばした文脈一覧表(コレ自体は別途解説note書きます)に照らし合わせると、この表の下部にあるものは大抵この3要素で価値が決まっていると分かります。

文脈表

ここから考えると、VTuberはあくまで心理的VRという系譜の中の先端に位置しているものであって、心理的VR自体は系譜が存在することが分かります。

心理的VRの部分はヴァーチャルである必要が無い、既にあるコミュニティ(宗教やアイドル文化)の発展型で、主な集会場所が「動画」というヴァーチャル空間に変わったくらいの認識。
https://twitter.com/amagi_over/status/1325284784600276992

心理的VRという魔術(心的作用をハックする技法)はおそらく人間が人に語りかけることができる時点から可能で、ルーツをたどれば部族の長の演説とか、辻説法とかまで遡ることができると思いますし、その分野(統治や布教)において連動してきた、デジタル以前のクラシックな空間VR技術――つまり権威や祭礼においての「非日常的体験」づくりに際して人類はどういう実在・没入・臨場演出を培ってきたか……という面にも興味は尽きないのですが、そちらはあまり専門ではないので一旦脇に置いておきます。

もうすこし身近なところから考えてインターネット以後に絞りましょう。心理的VRはBBS→MMO→SNS→動画SNS→現在(=トランスメディア・メタバースの時代)といった系譜を歩んできたと考えられます。それぞれのコミュニティに居合わせた人には覚えがあると思いますが、そこで起きて後々まで語られた事件はみな私たちに「ガチ感」「共感」「一体感」を与えてくれました

そしてこの過程を追っていくと気づくことがあります。面白いことに、この系譜の進行につれてどんどん空間的(世界表現的)に本格的な仮想キャラクター存在へと進化してきているという点です。

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これは、空間的VRコンテンツであるVRゲームが「当事者感」によって心理的VRに近づきつつあるのと対称的に、心理的VRも次第に空間的VR要素を求めているという流れにあるように見えます。

その最も分かりやすい例がVRChatです。

心理的VRとしてのVRChat

これも個人的な感覚ですがVRゲームクラスタとVRChatクラスタも大きく交わっているようで微妙に違うところがあり、VRChatをあまりやらないVRゲームファンとか、VRゲームをあまりやらないVRChat常連ユーザーの数って結構多いのではないかという体感を持っています(ちなみに私は割と前者)。これは2000年代前半でいうと「一人用RPGは大好きだけどMMORPGはやらない人」「MMORPGに激ハマりしてるけど元々別にRPGが好きだったわけではない人」みたいなものですね。ここから考えると、VRChatの魅力の根幹はどちらかというと心理的VRにあって、心理的VRの要素を大きく持ちながら、空間的VRとしてのガワを持っている存在なのではないかと私が考えています。

これはVR"空間"を表現するのに必要なマシンスペックに対するユーザーこだわりの差にも現れていると思います。実在感・没入感・臨場感を大事にするユーザーがPCでVRを遊ぶ場合、グラフィックボードのスペックは極大レベルに気になるものです。特にfps(画面の流暢さ)が60を切るようなことは許しがたいものです。しかしVRChatが好きな人はむしろ低スペックでも遊べることを人に説明したいですし、「fpsが低くても楽しいから!」と誘う人は多いです(実際にそう)。これはやはり、VRChatが「ガチ感」「共感」「一体感」で駆動しているプラットフォームであることの証左ではないでしょうか。

(ちなみに、VRChatにハマった人がどんどん仲間を増やしたがるのも状況証拠だと思っています。だって、より色んな人と「ガチ」な交流をしたいし、より多くの人と「共感」して「一体感」を味わいたいですからね。)

もちろん、VRChatはMMORPGとは違います。Second Lifeやアメーバピグとも異なります。VRChatは、心理的VRを大事にしながらも、それでいて空間的VRの実在感・没入感・臨場感をそれなりに味わえるからこそ面白いのです。

つまり、空間的VRから心理的VRに橋をかけつつある「ストーリー駆動VRコンテンツ」とは反対に、心理的VRから空間的VRに橋をかけつつある存在がVRChatであると言えます。

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MinecraftはやるけどVRChatはやらないVTuber

さて、説を整理します。

1.空間的VRと心理的VRはお互いに根本の心的作用を共有している。
2.空間的VR業界と心理的VR業界はお互いに相手へ橋をかけつつある。

でも、VR業界とVTuber業界は親和性がないよう見えるわけです。これは何故なのか?

さらに言うと、VRChatという存在を視界に入れると話しは余計にややこしくなるわけです。これは実際にその界隈に詳しい方からすれば苦笑ものでしょうが、VRChatで活動していて動画配信活動もしているアバター的存在のVTuberさんが現に結構いらっしゃるわけです。VTuberが主でVRChatも、という人もいれば、VRChatが主でVTuberも、という人もいます。この人達は"親和性がない"という2業界の間にまたがっているわけですね。どう説明がつけられるでしょう?

画像9(親和性なきイゼルローン回廊、VRChatというフェザーン…)

ここで面白いのは、メタバース自体はVTuberでも非常に受け入れられやすいということです。一番分かりやすいのはVTuber文化における"Minecraft"のポジションです。非常にメジャーなコンテンツで、廃れたかと思ったらやはりまた復活してブームになります。残念ながら、VRChatのほうがマイナーと言わざるをえません。大手VTuber事務所の所属配信者の方が遊んだ回数・動画視聴数で考えると圧倒的な差があります。なぜVTuberにとってMinecraftはよくてVRChatはだめなのか? という端的な質問にすれば、これはもう分かりやすいですね。単純に「VRがキャズム越えをしていないから」です。

実在感・没入感・臨場感に魅せられたVRファンにとって、基本的にVRヘッドセットの使用難易度は乗り越えられるものです。なぜならVRヘッドセットなくしてはその3要素が感じにくいから。だから結果的にキャズムは問題ではない人が集まっています。一方の心理的VRの世界ではそうではありません。なぜならYouTubeはもう溝(キャズム)を越えた向こう側の存在だからです。そもそも心理的VRの世界はガチ感・共感・一体感をファンに広めることによって活性化されるわけですから、自動的に「人が多く集まる×3要素がよく伝わる」メディアが最適となります。この最適解が現在のトレンドではYouTubeライブとTwitterの併用になっています。キャズムを越えた世界に集まるファンに対して、共感や一体感をもたらせるメタバースの限界点はMincraftである、と考えているVTuberが多いということになります。もしかしたらもうすこし複雑になって"ARK"かもしれませんが……。

(これは余談なのですが、Minecraftの中で「バーチャルキャスト」のように配信ができるプラグインがあったら、Minecraftの中でのみ存在して生活しているという設定のVTuberが登場するのではないか、それはVRChatより敷居が低いから結構増えるのではないか? といったことを考えたことがあります。どうなんでしょうね?)

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VR業界とVTuber業界、お互いに技術交流することに意味はないのか??

現状整理はこんなところで、次は未来について考えるターンに行きましょう。

1.空間的VRと心理的VRはお互いに根本の心的作用を共有している。
2.空間的VR業界と心理的VR業界はお互いに相手へ橋をかけつつある。
3.しかし、技術の溝が解消されていないために融合はできない。親和性は低い。分裂した業界である。

これは非常に惜しい! と思えるシチュエーションです。なぜならこの溝さえ無くなればより面白くなるし、この溝は何年かかるか不明であってもいずれは無くなるわけですから。

空間的VR業界と心理的VR業界がビジネス的に完全融合することはないでしょうが(なぜなら空間的魅力 or 心理的魅力の片方だけを純粋に求めるコアユーザーは存在し続けるから)、しかしお互いがお互いの役に立つことはできないのでしょうか?

まずもって、空間的VRにも心理的VRにもそれぞれ個別の弱点があります。空間的VRにおいては、「VRヘッドセット依存であること」の技術的キャズムが課題であることは説明しました。これは言い換えると「空間に魔術を掛けるコストが課題」なわけです。一方、心理的VRにおいて比肩する課題は「人依存であること」の不安定性だと考えられます。より多種多様な人を一手に引き受けて、仮面を被らずに「ガチ」な「共感」を振りまき「一体感」のマネージメントをしていくことはとても大変で、努力も才能も求められるでしょう。つまり「心理に魔術を掛けるコストも課題」なのです。

空間的VRと心理的VRから対比可能な2つとして、「VRキャラやVRストーリーの業界」と「バーチャルインフルエンサー業界」を抜き出してみます。

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このように対比できます。
なお「VR業界がブルーオーシャンって何の冗談?」というツッコミがあるかもしれませんが、これは「今のVR業界」ではなくて「今後も含めたVR業界」という意味です。技術的な天井が上がれば、VRの市場性はさらに上がります。FacebookがVRに投資する目的もそれがあるからです。一方、心理的VR産業は人が主役で技術はサポートなので、「人さえいれば成長のチャンスがある」という側面が強く出ます。これは結果的に市場参入が簡単でレッドオーシャン化が早いという意味です。言い換えれば、「空間的VR産業は技術(的限界)に苦しめられているが、技術(的コスト)によって守られている」ということです。

さて、この2つの業界が様々な交流を通してお互いの悩みを解決するヒントを見出すことはムダでしょうか?

私から見ると結構相補的で、効率がよいのではないかと思うのですが……。

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技術的な分断はあっても、社会的な分断があってはいけない

気持ちは分かるんです。VR業界からの「VTuberはスマホでいいから楽だよな!」「VTuberは『本当のVR』じゃないから……」という言葉。VTuber業界からの「VTuber市場を生き残るには差別化したいが、同じVだからと言ってVRに寄ってもビジネスにならないんだよな……」という悩み。

幸運なことに(?)私はどちらの意見も聞くことができるチャンスを得たので思うのですが、少し切り口を変えてお互いの交流を深めることで、新しい発想が生まれ、VR産業にとってはキャズムの悩みを緩和するアイデアが、VTuber産業にとっては生き残り差別化のヒントが得られるのではないでしょうか?

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個人的には「ゲーム業界」はこの2業界の仲人として良いポジションにいるのではないかと考えています。VRゲームはゲームですし、一方でVTuber業界にとってゲーム実況は重要なコンテンツですから、違う顔をもった同一のステークホルダーとして出来ることがあるのではないかと思っています。

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そうして両業界が発展すれば、ゲーム業界にも大きなメリットがあるはずです。ゲーム業界内部の目線で言えば「かつてインターネット・ウェブ業界とうまくやったように、今度もうまくできるのではないでしょうか」という感じです。


さて、本記事もそろそろ終わりですが、寝る時間になったので後日続きを書きます。おつかれさまでした。


【未来妄想】VTuber業界のノウハウを活かしたVRサービスはありえる?
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