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海外MBA留学には何の意味があるのか

卒業に際して、海外MBA取得に何の意味があるのかにつき、自分なりの回答を書くことにした。

MBAとは?の記事で触れたように、MBAの授業で学習する内容の90%ほどは、殆ど全て日本にいながら書籍で学ぶことができる。しかも良質でわかりやすい書籍が母国語日本語で書かれているため、MBAで英語の本で学ぶよりも深い知識が身につくかもしれない。

さらに、MBAで学ぶことは、実務上役に立たないことが多い。MBA留学前に行っていたことで、必ずしも自分ができなかった何かができるようになるわけでもない。様々なビジネスや様々な考え方を見聞きするので、世の中に存在するビジネスモデルに対する知識が広くなんとなく身についたとしても、実務上役に立つ具体的なスキルは殆ど教わらない。

しかも、トップスクールでのMBA取得は3,000万円以上もの費用がかかる(MBAとは?の記事参照)。トップ校に入るのは超難しくて、入るのにかなりの時間と努力を要する。

それなのに、なぜ、わざわざ海外MBAを取得するのか。MBAでは何を得ることができるのか。
留学を検討する人はこれを考えると思う。そして、答えが出ないままノリで留学する人も多いと思う。私もそうだった。
私が実際に留学して、感じた回答は以下である。

1. 自己の探究の機会

MBAは私にとって、自己の探究の機会として一番役に立った。
自分は何をしたいのか、どういう生き方で残りの人生を過ごしたいのか、ということを考え続けた2年間だったと思う。
「え?自己分析に莫大なお金と時間を費やしたの?」と思うかもしれないが、個人的にはその通りです。

海外MBA留学の期間では、日本にいて働いていても絶対に得ることのできない経験ができる。
著名起業家、大企業CEO、著名政治家、ノーベル賞受賞者、非営利団体の運営者などの話を聞くことが日常茶飯事な、極めて稀な環境なのだ。
大学の教授も普段目にすることができないような超エリートばかりで、アカデミアに篭っていた人ではなく、ほぼもれなく起業家・大企業の幹部などの世界トップレベルのビジネス経験を積んだ人で、自身の経験をたくさん語ってくれる。
同級生は、自分が到底敵わないような超エリートがたくさんいる。

海外MBAに身を置くと、このような人々とのコミュニケーションを通じ、様々な思想に触れる。日々、自分が日本にいたときに得られなかった観点を提供してくれる人たちの思想に触れ続ける。人生のゴール、大切にしている考え方、ある事業を立ち上げることになったときの思い、大きな失敗をした時の思い、ワークライフバランスに対する考え、給与に対する考えなど、ビジネスマンが触れたら視野が広がる様々な思想をインプットし続ける。同時に、自分はどうしたいかということも日々試行錯誤しながらアウトプットし続ける。

この過程で、自分のキャリアをどういう方向に持っていきたいか、つまり自分は何がしたいのか、というのを徹底的に見つめ直す機会だった。

僕は、MBA留学前にずっと勤めていた総合商社が、いろいろな思いはあれど好きで、何よりとても居心地が良かった。
仕事はたまに大変だったけど、自分自身、日本人男性という総合商社の総合職の圧倒的マジョリティの一員で、会社にいるだけなら余計な心配事もなく護られている感覚があり、とても楽だった。尊敬できる上司たち、優秀な同期・後輩たちに囲まれて、頭が悪くて仕事が大してできない自分は、周囲とのコミュニケーションで何とか持ち堪えていた。
一方で、周囲の業務遂行能力が著しく高い方々も、仕事で成し遂げたいことを目標として持っている人が多いわけでもなく、良い給料をもらって、良い家や車を買って、素敵なパートナーと付き合って結婚して、それなりに幸せな家庭を築くといった、仕事外での目標をモチベーションに退屈な仕事に耐えているというマインドセットで働いている人が多かった気がする。もちろん全員ではないが、確かに多かった。
MBA留学をしなければ、私もその一員となり、とても居心地が良いこの総合商社で、適度な仕事、飲み会、ゴルフ、カラオケなどを一生懸命頑張って、周囲とうまくコミュニケーションを取りながら出世を目指し、多分出世できず、でもそれなりの給与と社会的地位を保って楽しく愉快な人生を過ごしていたと思う。そういう生き方も決して楽ではなく、嫌いじゃないし、素晴らしい人生が送れると思う。

でも、MBAに来てしまった。そして様々な人の様々な高尚な価値観に触れてしまった。そうすると、自分が高尚な訳ではないのに、価値観が磨かれると共に、周囲の世界のトップ層に囲まれることで自分もこうなれるんじゃないかといった根拠のない自信が生まれ、安定したルートとか社会的地位とか給与とかに固執せず、仕事を通じて何かを成し遂げたい、仕事を通じて世の中に貢献したいという考えがとても強くなった。

就職活動時代、無邪気にぼんやりと思っていた社会貢献。社会人として10年経った今、様々な経験をした上で、本気で社会に貢献したいと思っている。こう思えることって、本当に幸せだと個人的には思う。

MBAにきて良かった。残りの人生の見え方が変わって、なんか少し楽しくなりそうな感じがする。

2. コミュニケーション能力

学校によるが、私が所属していたマサチューセッツ工科大経営大学院の授業の課題は、基本的に全てグループワーク。グループを組み、その中で議論をしながら課題をまとめて提出する。
グループは授業ごとに異なるチームを組成する。様々なバックグラウンドと知識レベルと異なるモチベーションを持った人と議論する中では、ビジネスマンとしてのコミュニケーションが求められる。
それは、自分の意見を伝えること、相手の意見を引き出すこと、自分と相手の立場や心情にしっかりと配慮すること、社会的通念(政治、宗教、ダイバーシティー、ハラスメントなど)に配慮すること、という、リーダーとしてのコミュニケーションを各個人が意識しながら話すことである。喋りすぎず、喋らなすぎず、相手の心情にしっかりと配慮するコミュニケーションを取る。このコミュニケーションが取れている人は日本企業で働いてみてかなり少なかったと感じている。
私自身、今も喋りすぎる傾向が強く、このコミュニケーションスタイルは身についていない。しかし、何がグローバルスタンダードなのか、何をどうしないといけないかを教えてもらって場数をたくさん積んだことで、コミュニケーション能力が上がったと思う。

3. レジュメクリーニング(Resume Cleaning)

レジュメとは履歴書のことである。海外MBAでは、幅広いビジネス上の事象や、ビジネスパーソンとしての様々な観点を教わる機会があることが転職マーケットからも重宝されており、MBA取得によってキャリアが広がる。これは、MBAが実務を教える場でないことを鑑みて、MBA取得者が必ずしも実務遂行能力が高いという訳ではないと思うが、海外MBAを過去に卒業された諸先輩方が様々な業界で結果を残されていることから重宝されるものである。外資系の企業だと、MBA取得者とそうでない人には明確な給与及びキャリアパスの区別がある会社も多いし、MBA取得者ばかり雇う企業もある。今までやってきた業務内容などをリセット(cleaning)して、MBA取得によってビジネスにおけるオーラウンダーとして転職アピールができる点は実際かなりのメリットだと思う。

4. ネットワーキング

様々な国及び業界において今後活躍するであろう若手とのネットワーク、転職相談や商談等も断られなさそうな同窓卒業生ネットワーク、海外有名大MBAの肩書きで会ってくれる人とのネットワーク、一緒に起業する人を探すという意味でのネットワークといった、ネットワークづくりができるのも海外MBAの利点。
卒業後に日本の伝統的企業で働く場合であっても、新たな案件の発掘などにおいてMBAのネットワークが役に立った例はよく聞く。

5. アメリカへの移住、海外就職

海外からのアメリカへのMBA留学生は、主にアメリカでの就職及びアメリカへの移住を目的に海外MBAに挑戦してくる。
アメリカ就職を目指す理由としては、給与が高いこと、人種的・思想的な多様性に富んでいる国なので外国人であっても働いて住んだりして居心地がいいこと、(これは日本には当てはまらないが)自国と比べてインフラが整っていて綺麗で安全で住環境として良いこと、などの理由が多いと感じる。
仕組みとしては、通常、アメリカにあるアメリカ企業で働くためには、市民権や永住権などの合法的にアメリカに滞在して働く権利が必要なのだが、アメリカのMBAプログラムはSTEM認定されており、卒業から3年はアメリカに合法的に滞在できる。3年間合法的に滞在できるのであれば現地企業も雇ってくれるし、滞在期間にビザを延長してもらったりグリーンカード(永住権)の申請を企業に行ってもらったりして、アメリカに長期滞在できるケースが多い。外国人は、これを求めて海外MBAに来るケースが結構多い。

6. ダイバーシティーに関する理解

私は、アメリカに留学したこの2年間で、ダイバーシティーに対する考え方がまるっきり変わった。

アメリカのMBAプログラム自体は、アメリカ全体と比べると全く多様性に富んでいない環境だと思う。
外国人の比率は4割くらいとどの学校も言っているが、4割のうちの半分くらいは、外国籍であってもアメリカで長い時間を過ごした人で、本当の意味での外国生まれ外国育ちの英語が母国語でない外国人は全体の2割程度であると思う。アジア系・アフリカ系・ラテン系などのアメリカ人も大量にいることから、生徒の肌の色は色々だが、人種的な多様性はそんなに豊富ではないと思っている。
生徒は、アメリカの優秀な大学を出た人ばかりであり、そういう人たちはお金持ちの家庭に育った人が多く、貧富の差が激しいアメリカにおいてトップ数%の恵まれた家庭の人ばかりだ。つまり、経済的な多様性も大して豊富ではないと思っている。

では、どこから自分は多様性を学んだのか。それは、海外MBAのダイバーシティー教育や、周囲の生徒のダイバーシティーへの態度からであり、マイノリティとしての自分の立場からである。

私が通ったMITのダイバーシティー教育としては、授業の題材やディスカッションの一環で、経営者として多様性(ジェンダー、LGBT、人種)の問題に直面した際の考え方がよく出てくる。そして、データに基づく客観的事実から、マイノリティが直面している問題を考えさせられる場面がかなり多くあった。同級生も、裕福な家庭に育てられ、小さい頃からマイノリティに対して優しくしろと育てられてきた人ばかりであるため、ビジネス上・生活上の様々な局面でダイバーシティーと真剣に向き合った人ばかりであり、日本という単一民族社会で育ってきた自分とは見ている世界が全く違かった。
生徒にLGBTの人もたくさんいた。日本社会にもきっとたくさんいるのだが、自らを暴露することによる社会的制裁を恐れて隠れている人がかなりいるのだろう。
そして、アメリカで生活することで、自分自身、依然としてこの国は金持ちの白人を中心に回っている国だと認識したし、日本人というマイノリティで生きていくことに対する大変さも実感した。

上述のダイバーシティー教育は、日本企業の幹部教育でも似たようなものが設けられているのだが、みんな半ば馬鹿にしながら適当に受講しており、受講の有無に関係なく相手を不快にさせるセクハラ発言などはいまだに横行している。本当に。
なんなら、女性社員に対してセクハラ発言できる方が、その人と仲を深めた証拠だと誇りに思いながら人を選んでセクハラ発言などをしている輩もいる。
この原因は、私は日本社会の単一民族性、日本社会で根強く残る男尊女卑の風潮、そして教養不足が影響していると思う。

私自身、MBA留学前から、配慮に欠けた発言をする周囲の方々を見て不快に感じているタイプであったが、正直に言って、自分がマイノリティに対して配慮に欠ける発言をしたことだってあるし、女性の権利を主張する活動家の方などを見て鬱陶しいと思っていた。
でも、MBA生活の準備及びMBA生活中に自分自身で見て聞いて経験したことで、考えが全く変わった。無教養だった自分を恥ずかしく思う。

そして、マイノリティの権利を主張するという、多くの人の尊厳を主張する代弁者となる勇気のある人々を心底尊敬しているし、応援したいと思う。

7. 幅広い知識を得ること

不動産業界しか知らなかった自分が、様々な業界の多くのビジネスモデルに触れて、どのような局面でどのような意思決定がなされてきたのかということを学んだ。なんとなく視野が広がった感じがするし、今後自らが意思決定をする際に役立てることができると思う。

最後に

海外MBA留学は決して楽なことではない。トップスクールに入るのはかなり大変だし、お金もかかるし、入っても課題が結構大変。

でも、学校に入って、毎日多くの人と積極的に話して、課題もしっかり取り組んで、毎日大切に過ごせば、きっと有意義で最高な時間が送れるかと思う。

海外MBAに対して、MBAに行ったことない人が、「MBA出身者は使えねぇ」「MBAはコスパ悪い」とか批判する声を私はたくさん聞いたし、自分の留学についても肯定的な意見ばかりではなかった。社費留学の私は、「お前、2年間遊びに行くんだろ?」的なことを言われたこともある。
留学に行くことを考えている人は、MBA留学に行ったことない人の留学に関する意見は無視しましょう。この世界は、行ったことある人じゃないと到底わかりません。高すぎる学費の見返りとして得られることが上記だと、確かに価格の妥当性には疑問が残りますが(笑)、コスパとか、そういう話じゃないと思う。人としての視座が広がって、人生が豊かになるというのが、私が実際に留学して得た一番大きなことですね。今のところ。

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今日は卒業式でした。最高の生活にピリオドが打たれるわけだが、ずっとノンリスクの学生を送り続けている訳にもいかないので、社会に復帰します。
自分が何かすごいことを成し遂げられる可能性は統計的にはかなり低いですが、志は常に高く持ち続けて、謙虚に日々頑張り、世の中の役に立つ人生を送りたいと思います。
それではまた!

- Kentaro

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