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徹底比較 OKRとMBO

 「で、結局OKRってMBOと何が違うの?」OKRを紹介したときによく聞かれる質問です。仰る通り、なんだか似ていてごっちゃになりがちです。というわけでここで整理をしておこうと思います。
 本題に入る前に一応お断りしておきますと、OKRもMBOも提唱した人や広めた人が居るんですが、JISみたいな規格や法律があるわけではないので、割と運用主体によって好きにアレンジされていたりします。そして、本来の意図とズレた運用の方がデファクトスタンダードになっていることもあるため、敢えて幅を持たせた記載をしています。

1.目標を設定する主体が違う

OKRとMBOは、目標を設定する主体に違いがあります。

MBOでは目標は上司か部下が立てる

 MBOを導入している企業では、目標は上司が立てるケース(トップダウン的目標設定)と、部下が立てるケース(ボトムアップ的目標設定)の2つの方法があります。

トップダウン的目標設定

 トップダウン的アプローチの会社では、メンバーの目標は上司が設定します。いわゆるノルマ的な考え方になります。今年度の全社の受注計画が100億円で、営業マンが100人居たら、平均して一人当たり1億円だよね。といった感じです。そこから各人の受け持ちエリアや新規/既存の別、能力の差(例えば新入社員は20百万で良いけど、ベテランは150百万売って欲しい・・・など)を勘案して決めていきます。

トップダウン的目標設定のメリット

 この方法の良い点は、経営目標から、事業部目標・部門目標・組織目標・個人目標とモレなく・ダブりの無いように落し込むことができるという点です。そのため、トップダウン的目標設定を行った場合は、必然的に業績に直結した目標設定となります。そのため、個人の目標が達成されれば、必然的に全社目標も達成されることとなります。

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トップダウン的目標設定のデメリット
 トップダウン的目標設定を取った場合、目標以外の行動に取り組みづらくなるということが起きます。例えば、「既存顧客からの受注高を20%増やす」という目標だけを設定した場合に、新規顧客への種まきが疎かになったり、部門間協力・ノウハウの共有・後輩育成の優先順位も低下するかも知れません。の拡大に走るでしょう。最悪の場合コンプライアンスに抵触することさえしかねません。

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 また、目標設定を通じた、計画や企画の立案能力獲得機会が少なくなります。組織や自身の目標を設定するというのは、あまり意識されていませんが、実はレアスキルです。ブランド企業では採用力が強いため、いわゆるハイパフォーマーを採用することが出来るので「目標設定なんて出来て当たり前だろう?」と思われがちですが、自分で目標を立てられる人は多くありません
 組織の目標を設定出来る人は尚更レアな存在です(既存の目標を否定することが出来る人はたくさん居ます)。しかし、事業環境が複雑で・変化が激しい現代では、マネージャーには仮説を立てて目標を立てる能力が欠かせません。
 目標設定経験を非管理職時代にさせ、能力開発をする機会を作らなければ、いつまで経っても管理職候補が育ちづらいということが起きやすくなるわけです。サクセッションプランに支障を来している企業で「ウチの部にはオレの後継者がいないから」ということを理由にしているケースでは、権限委譲をして育ててこなかった、という例を多く見ます。

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ボトムアップ的目標設定

 ボトムアップ的目標設定の会社では、メンバーの目標は部下が設定します。「上司が部下を集め、部の目標を説明する」「部下はそれを聞いて、自分なりにかみ砕く」「部下が自分の目標を自分で決める」といった手順で決めることが多いです。

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ボトムアップ的目標設定のメリット
 ボトムアップ的目標設定の良い点は、個人のキャリアプランや自主性に基づいた目標設定が出来るという点です。その時々に個々人が感じている課題感をもとに目標を立てることが出来るわけです。トップダウン的目標設定のデメリットとの裏返しになりますが、自身で目標を設定する機会を作るのがボトムアップ方式の狙いになります。また、前提には「自分で立てた目標なら、押しつけられた目標より本気で取り組むだろう」という考えもあります。

ボトムアップ的目標設定のデメリット
 ボトムアップ的目標設定を行った場合、上位方針と整合性が取れていないということがよく起きます。「全社では100億円の受注を考えているのに、部下の目標を合計すると80億円にしかならない」とか「経理業務の生産性向上を考えているのに、インテリアコーディネーター資格取得を頑張るといった目標を立てる部下がいる」とかはよくあります。
 そもそも、他のメンバーがどのような目標を立ててくるかも判らないのに、上司が話した方針だけを聞いて、個々人が考えた目標を「いっせーの」で出して、整合性を取れという方が無理な話です。そのため、多くの企業では部下が目標を設定した後に「上司と部下とで面談し、上司が部下に目標変更を促す」「部下が再度目標を設定し、上司と再度面談する」というフローを設定しています。この流れは何度か繰り返すことになります。

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 このとき、双方に「めんどくさい」という意識が充満することになります。

 部下は部下で「上司の頭の中に、設定して欲しい目標があるならそれを言ってくれよ」と思うでしょう。身に覚えがないのに「私がなんで怒ってると思う?」とパートナーに聞かれて、地雷を避けながら答え合わせをするときと同じような感情が喚起されるわけです。

 一方で、上司も「なんでコイツは組織と関係ない目標を決めてきてるんだろう」「全然期待水準に足りてないじゃん。言い訳ばっかりで全然挑戦しないな」と思うことになるわけです。でも人事に「部下の自主性を育むためにボトムアップで目標設定させてください」と言われている手前、決定プロセスを崩すわけにも行かず、無為な面談を繰り返すことになるわけですね。
 あと、「自分で立てた目標なら、押しつけられた目標より本気で取り組むだろう」というのには疑問もあります。新年の目標に掲げられることの多い、ダイエットとか早寝早起きとか禁煙とかって、恐らく誰かに押しつけられたものではないと思うのですが…どうですか?

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OKRはチームで設定する

 OKRはチームで設定します。OKR設定は3ヶ月に一度、チームでミーティングを開き行います。全員でObject(四半期で取り組むべきだと考える、最重要な1つの目標)の案を持ち寄ります。全員の目標案を集めて、似ているものを統合したり、優先順位を下げるべきものは棄却したり・・・というのを繰り返して合意していきます。
 目標を決定したら、Key Result(Object=目標 が達成されたかどうかを判断するための指標)を話あって考えていきます。

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OKR式目標設定のメリット
 OKR式目標設定では、目標決定プロセスにメンバーを参加させることで、メンバー自身が決めた目標にすることが出来ます。これによって「勝手に決められた目標」ではなくなります。それによって、トップダウン型の押し付け感・ボトムアップ型の手探り感を排除することができるようになるわけです。
 また、チームでチームの目標を決める為、一人がやらなければそれだけチームの目標達成が遠のくことになります。これによって全員の参加意欲をかき立てることが出来るようになります。(嫌な言い方であれば連帯責任になり、同調圧力を高めることで行動を促す)
 先述した「ダイエットや早寝早起きなどの新年の目標が未達になる理由」は、「取り組まなかった場合に困るのは自分ぐらい」だからです。他の誰の目標とも関連していないからやらなくなるわけです。
 
OKR式目標設定のデメリット
 OKRの方法での目標設定のデメリットは、負荷の高さがあげられるでしょう。特にトップダウン型MBOから移行した場合は、チームで話あって決めるというプロセスそのものに面倒くささを感じるかもしれません。また、KRの設定は非常に困難を伴います。定性目標とストレートに対応した測定可能な指標を設定出来ているか・達成可能性50%の難易度に設定出来ているか、といった点を確認するのは、非常に思考力を必要とするからです。
 チームであるべき姿を話し合うとか、定性的な目標を深掘りして測定可能にするといったプロセスは、考えることに慣れていない人や思考体力の無い人には大きな苦痛となります。
 しかし、OKRをチームで設定するというプロセスを通して、部下をモチベート出来ますし、目標の意義を後から個別に説明する手間は大幅に省けます。また、目標設定や深掘りして考えるプロセスは次世代リーダーの育成に大きな効果を発揮します。

KRの階層化


2.目標設定期間が違う

MBOは1年単位で立てることが多い

 一般的なMBOは、目標を1年単位で立てることが多いです。3月決算の会社なら、4月に設定~3月末までの目標設定といったイメージです。中には特定の目標は半年で完結、とすることもありますが、基本は1年単位での設定になります。

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 これはトップダウン的目標設定で、MBOの結果を人事評価・報酬決定に連動させているときに使い勝手が良い考え方です。事業計画は一般的に1年単位で立てますので、従業員に対する割り振りもおおよそ1年単位で設定し、期末に出来たかどうかを判断して評価を決定・報酬に反映とすれば、流れは非常に良くなります。

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 また、ボトムアップ的目標設定の場合でも「全員、だいたい1年で出来るような目標を設定してそれに向けて取り組もう」としておくことで、年単位での目標設定や実行をするトレーニングになるからです。

 しかし、1年単位での目標設定では、期中の大幅な環境変化に対応しきれないという問題が起きます。2020年のコロナ禍のように、事業環境の大幅な変動が起きた場合、期初に立てた目標が陳腐化することはままあります。期中の目標変更を可とする運用をとることもありますが、その場合でも「よほどの場合に限る」というような注釈を付けていることがあったりします。

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OKRは原則四半期単位で立てることが多い

 一方、OKRは原則、四半期単位で設定することが推奨されています。毎四半期OKRを設定し、達成に向けて取り組み、総括をした後、新しいOKRを設定すると言う流れです。四半期毎に設定することにより、小回りが利き・柔軟な軌道修正が可能となります。

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 四半期単位で目標を設定し総括するというサイクルは、新事業に取り組むときに有効となります。新事業の時点では勝ちパターンがわからない・もしかすると市場が無いかも知れない中での戦いとなります。新事業に対して、1年単位の大きな計画を立ててしまうと、投下する予算も莫大になります。成果が出るまで時間が掛かるかも知れません。沢山の資金と労力を投下すると、撤退の判断は極めて難しくなります。
 そのため、新事業に取り組む際は高速でPDCAを回して、小さな失敗から学び続けることが欠かせません。最初は手数で勝負しつつ、失敗したときのリスクは最小限に抑えながら、失敗から学んで組織知を蓄えてゆく。そして、可能性が見つかればそこに全力を注ぐ。これがスタートアップにおいてOKRが重宝されるゆえんです。
 また、特に高い目標に向けて行動しているときにもOKRは効果的です。例えば、他社からマーケットシェアを奪おうとしているとき、当然ライバル企業も自社の動きに向けて対応を取ってきます。相手がリーダー企業ならそれは尚更でしょう。そんなとき、年単位のゆっくりとした目標を立て、チャレンジャーであるにもかかわらず横綱相撲を取っていたのでは間に合いません。短いサイクルでPDCAを回し、組織知を高めて新たな打ち手を次次と繰り出していくということは欠かせません。 

3.目標の数が違う

MBOではだいたい4~5個

 MBO制度における目標は、だいたい4~5個設定することが多いようです。もっと多いケースもありますし、少ない場合もあります。少ない場合であっても、フォーマットやシステム自体は4~5個登録出来るけれども、個別判断で数個空欄にしておく、というような運用であることが多いです。
 組織や自身が課題に思うことは沢山あるので、4~5個という数は結構使い勝手が良いことが多いです。数年後に完成するような中長期目標を2つ・今年で完結する目標を2つとしておくとバランスもよいです。トップダウンの目標2つ、ボトムアップ目標2つとする方法もあったりします。
 4~5個目標を立てる場合の問題は「立てた本人さえ目標を忘れていることが多い」ということです。皆さんもご自身の目標を一度振り返って頂いて、目標のタイトルだけでいいので暗唱してみてください(同僚と言い合ってみてもいいかも知れません)。出来ない方は結構多いと思いますし、出来た方も「売上高アップ」は言えたとして「売上高○万円」までの精度で言えた方は多くないのではないでしょうか。

目標が多いと

 「目標を忘れている」ときに一番怖いのは、忘れていることそのものではありません。思い出すようにするための方法はいくらでもあるので、デスクトップの壁紙にしてもいいし、リマインダーを設定してもいいからです。一番怖いのは「人間は思い出せないことに対して、『どうでもいいことだ』と感じてしまう」ということです。自分の記憶力を否定するぐらいなら、思い出せなかったものは不要だったんだ、と思う方が楽ですからね。認知が歪んで気持ち悪い状態になるのを無意識に避けているわけです。
 手に入らないものを「どうでもいい」と思うようになる行動は割と知られていて、宝くじが外れると「どうせ当たると思ってなかったから」と思うし、あれだけ夢見た高級車も一生手が届かなさそうだと思うと「あんな車は下品だ」「あんなのに乗ってるやつは悪いことして金儲けてるに違いない」と思ってしまいます。
 今の若い子がやるのか判らないですが、カップルで「私(俺)のこと本当に好きなら、好きだと思うところ10個言ってみて」というのがありますが、実はかなりの悪手なんですね。好きだと思う点を10個思い浮かべるのは相当大変なので、「もしかしたら俺(私)はあの人のことをそんなに好きではないかもしれない」と感じてしまうわけです。
 余談はさておき、同じようなことが目標に対しても起きます。そのため、折角立てた目標であっても、いつしか「不要な目標」「嫌な業務」となってしまいます。もったいないですよね。

目標設定数と網羅性・集中度の関係

 余談ついでに、同じテクニックを応用すると人事評価結果フィードバック面談の納得度を高めることが出来たりします。人事評価の納得度が低くなるのは、上司の評価と部下の自己評価との間に差があるとき、が殆どです。そして、自己評価は得てして高くなりがちです。(あなたが車を運転するなら、少し振り返って貰えると良いですが、運転中にあなたより運転が上手い人と、下手だと思う人はどちらが多いと感じているでしょうか?)
 部下の自己評価は高いのだけど、上司であるあなたが付けた評価は低い・・・そうなると、部下を納得させるのは非常に骨が折れます。下手をすると退職すると言い出すかもしれません。しかし、実際の評価は決まってしまっているので、高くすることはできません。そんなとき、上司であるあなたから部下に対して「評価を伝える前に、今期、悪かったと思うところを3つ、良かったと思うことを10個挙げてみてくれ」と言うと、部下の自己評価を下げることが出来ます。悪い点を3つ挙げる位ならまだしも、自身があるからって良い点を10個も挙げるのは相当な難易度です。思いつかないですからね。「実は大したこと無かったのかも・・・」と誘導できます。

OKRは1個

 OKRでは、目標(Object)は1つに限定されます。目標が達成されたかどうか判断するためのKey Resultsを3つ程度設定しますが、あくまで目標は1つ。最重要なものに限定されます。1つに絞ることで記憶に強烈に残ります。世の中に掃除機は沢山ありますが「当社の製品は、省エネで、軽くて、ゴミも捨てやすくて・・・」と言われるより「吸引力の変わらないただ一つの掃除機」と言われたら、後者の印象だけが残るようになるのと同じです。「今期は○○に取り組む」だけなので、忘れようがありません。

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 1つに絞ることによって、組織で取り組むべき業務の重要度を組織内ですり合わせることができます。OKRはチームで設定するため、今自分たちにとって何が大切なのだろうか、ということを話し合うことが出来ます。
 また、OKRにおける目標は定性的なものとするため、目標に設定していないからやらない、ということも起きづらくなります。例えば、「自社製品を多くの人に使って貰う」という目標(Object)を設定し、KRに「セミナー20回開催」を設定していたとしましょう。この場合、既存顧客からの問合せ対応や、既存顧客からの顧客の紹介を無視するようなことはない、ということです。問合せや紹介はセミナー開催という目標に資することはありませんが、目標(Object)において「自社製品を多くの人に使って貰う」ということを謳っているため、それが最優先されるからです。
 

4.行動計画を作る人が違う

MBOは部下が行動計画を立て、上司が承認する。

 目標設定のトップダウン・ボトムアップを問わず、MBOでは行動計画は部下が立てることが多いです。これによって、年単位での計画立案やそれに向けた実行のトレーニングになることが期待されています。

 しかし、問題は「現実は計画通りに運ばない」ということです。実行不可能であることを除けば完璧な計画だった・・・ということはよくあります。年初に立てた行動計画通りに進めるのは非常に理想的ですが、事業環境が安定していたとしても年間を見通して計画を立てるのは非常に難易度が高いです。事業環境が変化しやすい現代なら尚更です。

OKRはチームで行動計画を立てる。

 OKRでは毎週のチェックイン・ミーティングで、その週に取るべき行動計画を作ります。そのため、その週に何をするべきかをチームの全員が共有した状態で週の業務に臨むことになります。こうすることで、その時々に必要な行動を柔軟に決定することが出来ます。当初は5月の3週目にランディングページを立ち上げると計画していたとしても、業者の選定に難航している・素材が集まらない等の問題は起きますし、その前に噂を聞きつけたリードから引き合いの話がもたらされることもあります。そんなときに、Aさんは営業時トークスクリプト作成・Bさんは提案資料の雛形作成などにシフトすれば、機会を逃すことなく対応できるわけです。

5.進捗管理の頻度が違う

MBOは進捗確認が期末までされないことが多い。

 MBOは期初設定後、期末まで進捗管理を行わないケースが多いです。中間確認をしている企業があれば、手厚い方に入る位です。運用は非常に楽ですが、目標の実効性は低くなります。
 進捗確認を殆どしない場合、期末になって部下から「目標が達成できそうにありません」と泣きついてくる・・・ということが起きます。これに関しては、上司の運用次第というところもありますが「義務付けられていないことをしない」というのは、制度運用における普遍的な原則と考えていいと思います。目標に定められていない業務を部下がしないのと同じように、制度で定められていない面談を現場管理職が進んでやってくれるケースはまずありません

OKRは毎週進捗確認を行う。

 OKRでは、毎週目標進捗のために、毎週月曜日チェックイン・ミーティングを行います。チェックインミーティングでは、組織の全員が集まって、OKRの進捗度を確認します。現時点での達成までの自信度を評価し、必要な行動を話し合います。これにより、必要な行動をタイムリーに取れるようになるわけです。また、難航しているものがあれば、誰かが協力するべきではないか、ということも話し合われます。
 OKRは、達成可能性が50%の高い難易度の目標に挑むため、「目標未達が当たり前になるのではないか」と思われがちです。しかし、「OKRだから目標を達成しなくていいよ」というわけではなく、あくまでも立てたからには達成に向けて頑張るということは変わりません。そのためのツールが週次の進捗確認なのです。

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四半期でのOKR設定・毎週の進捗確認によって、負荷は非常に高まります。MBOと比べるとこのようになります。

負荷増加


6.目標設定に対する態度が違う

MBOは原則必達目標を立てる。

 MBOでは、原則目標は必達のものとなります。トップダウンの場合は業績予想や事業計画数値を念頭に設定されますし、ボトムアップの場合でも目標未達でヨシとすることはあまりありません。いずれも、MBOでは有言実行的な考え方が見られます。言ったからにはやれ、というものです。
 必達目標の設定によって、各人の目標が達成されれば、組織の目標も連動して達成されることになります。業績管理の考え方からすると非常に便利な考え方だとも言えます。目標未達の人を見つけて「やれ」「お前が未達なら会社も未達になるんだぞ」と言えば良いわけです。(その割には進捗を確認しないケースが多いのは不思議な話ですが)
 目標が必達であるという思想は、業績評価の作り方にも反映されています。100%達成でB評価となり賞与の係数は×1.0です。110%以上ならA評価で賞与は×1.1、120%以上達成したらS評価で賞与は×1.2となるような設計です。

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 しかし、必達目標の設定によって、固い目標の設定が増えることになります。出来る範囲と同じか少し低めの目標を勝ち取ることが期初における従業員の目標になります。「今年の事業環境は厳しい」「不透明なので」「市場が軟調傾向です」といったことを期初のミーティングで話すわけですね。(こういう語彙はいくつかの企業の決算短信を読めばすぐ身に付けることが可能です)
 固い目標を設定した後は、必死になって取り組むことになりますが、目標達成後はその力がセーブされがちになります。上記のような評価基準・報酬連動基準であれば、天井は見えていますし、今年頑張りすぎると来年が大変です。「今年は120売り上げたのに、来年は110しか出来ませんっていうのか?」と言われるのが見えているからです。

OKRは成功確率半々ぐらいの目標を立てる。

 OKRは成功確率が50%ぐらいの難易度の目標を立てることを推奨しています。上記のMBOのような固い目標を立てるのは避けさせつつ、不可能な目標にしてしまうことでやる気が削がれるのを避ける、という意図から「成功確率50%」となっています。無理ではない程度の難しい目標に向けて取り組むことで、成果を最大化することが期待されます。

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 このルールと、目標達成に向けて全員で取り組むための諸々の仕掛け(チームでの目標設定・週次での進捗確認など)とを合わせることで、メンバーの力を最後まで・最大限引き出すことが出来るわけです。
 OKRにおいて、全てのKRが100%達成されたという状況は、むしろ良くない状態とされます。それは、最初から低い目標を設定してしまっていたことを示すからです。目標の難易度設定は、OKR導入でも一番悩ませる点ですし、永遠の課題とも言えますが、使いこなせるようになると、これまで想像していなかった以上の成果をあげられるようになるかもしれません。

7.公開の有無が違う

MBOはあまり公開しない

 MBOでは、目標は全社で公開することはあまりありません。同じチーム内でも非公開で運用されることも多いようです。理由は様々ですが、守秘義務的な意図から来ているケースや、そもそもシステムで想定していないケースが挙げられます。
 しかし、目標を公開しないことによっていくつかの問題が生じます。

縦割意識が進む
 目標は設定されているものの、他部署からは確認することが出来ないため、部署間での協力が進みません。また、「何か目標を立てているっぽいが、何をしているか判らないし、協力してくれない」という状態が起きることで、相互に不信感が高まります。そのため、各組織は自組織の成果を最優先としてしまいます。

協力が行われづらい
 二つ目は、個人でも縦割が生じると言うことです。同一部署の同僚間でも目標が公開されていないことが多いため、部署間の協力が進まないのと同じく、個人間の協力も起きません。(どんな目標を立てているか判らない人の協力なんてやりようがないですよね)

実効性が下がる
 最後に、目標を公開しないことで目標への取り組みが甘くなる、ということが挙げられます。目標をやらなかったとしても、そもそも周りの人は自分の目標を知らないため、周りの人から後ろ指を指されるようなことがないからです。

OKRは原則公開する。

 OKRでは、目標は原則全社で公開されます。部署間での目標が透明になることで、縦割感が薄まるOKRが相互にチェックされる実効性が高まるといったことが期待されます。
 OKRを全社に公開することにより、隣の部署が全社のOKRに向けて何をやっているかを把握することが出来るわけです。OKRに対してズレたことをしていないか?固い目標を立ててしまっていないか?といった確認が行なわれるようになるため、よりOKRの実効性が上がります。組織単位で目標を宣言するということが同時に行なわれるため、他組織の手前「手を抜く」ということが出来ず、より行動に繋がることが期待されます(パブリックコミットメントの促進)。

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8.導入の効果が違う

MBO導入で起きる結果

 MBOを導入したときの一番の期待は、着実な成長だと言えます。また、目標必達を通して数値にこだわる意識を醸成することが出来るようになるでしょう。それらを、比較的低い運用負荷で実現することが出来ます。
 一方で、従業員は固い目標を立てやすくなります。言い換えると、チャレンジし辛くなるわけです。また、「目標は上から振ってくる(居酒屋では”押しつけられる”と表現されます)」という意識が強くなり、受け身・待ちの姿勢になりやすいとも言えます。個人の責任の明確化が進む一方、部分最適が起きやすくなります。


OKR導入で起きる結果

 OKRを導入したときの一番の期待は、早期に大きな成果創出だと言えます。また、高い目標設定を通して、チャレンジする組織風土が作られやすくなります。また、目標設定を通して業務への積極的な関与をするようになり、ひいては全体視点獲得と個人の責任の自覚や、エンゲージメント向上が期待されます。しかし、運用負荷は非常に高くなってしまいます。


まとめ

今回の論点を整理すると以下の様になります。

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9.最後に

OKRについてもっと知りたいという方はこちら

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note|仕事依頼

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セレクションアンドバリエーションシニアコンサルタント・中小企業診断士
山本遼