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悪夢(3-3)悪い予感

黒と灰色だけの世界。

寒さは、全身を縛り付けた上に、コートの袖口や首の周り、スラックスの裾からも入り込もうとしている。

粉雪がまるで、鉄粉のように突き刺さってくるので、目を開けていられない。

戻ることも考えたが、彼女のあの怒った表情を思い出すと止めた。

一体何処なのだろう。

暫く闇雲に歩いたが大きな道は見当たらない。

車も一台も通らないし、道端には除雪された雪が壁のようになっているので、歩道が何処にあるのか分からない。

仕方なしに車道に出て、タイヤの轍に上を歩くしかなかった。

歩いても歩いても、同じ風景。

黒とグレーの世界。

明かりを探すが、何処にも見当たらない。

信号のない交差点では轍が線路のポイントのようになっている。

真っ直ぐに進みたいのだけど、先が真っ暗なのとポイントに出来ている轍の深さが先の方向と曲がる方向とで明らかに違うので、仕方なしに右に折れる。

行けども行けども明かりが見えない。

同じところをぐるぐる回っているような気がする。

もう何時間歩いているのだろう。

夜明け前には、もう力尽きてしまうのかもしれない。

焦れば焦るほど、深みにはまって行くような気がする。

一点の明かりさえ見えればいいのだ。

私は、このまま命が果てるまで黒とグレーの世界を彷徨い続けるのか。

耐えられなくなって、走り出した。

抜け出すのだ。

一刻も早く、暗闇のない世界から。

身体が急に浮き上がった。

無数の星が見える。

その星が私に向かって、下りてくる。

次の瞬間に、私は真綿のベッドに、重い籠った音をたてながら放り投げられた。

雪がこんなに温かいとは思わなかった。

星が私の体に落ちてくる。

宝石のかけらのように色取り取りに輝きながら降ってくる。

綺麗だ。

私は、この宝石のかけらの中に埋もれたいと感じながら、目を閉じる。

眠っては、いけない。

眠っては、いけない。ここで眠ってしまうと、永遠に目を覚ますことが出来ない。

寝るな!寝るな!起きろ!



飛び起きた。

またあの夢か?

初夏というのに全身が凍りつくように冷たい。

しかし、パジャマは寝汗で濡れた雑巾のようにぐっしょりと濡れている。

近頃、凍った見知らぬ街を彷徨い続ける同じ夢ばかりを見てしまう。

何処か体が悪いのかもしれない。

そう言えば、先日、名古屋に帰った時に受けた再検査の結果がもうそろそろ出る頃だ。

美由紀は、今頃どうしているのだろう。

妻の顔が浮かんだ。

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