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大河内健志短編集

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#WEB小説

今すぐ、会いに行きます(小説『天国へ届け、この歌を』より)

「香田さん、ちょっと」 青山部長に呼ばれた。 別室に来るように言われた。いつもは柔和な表…

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心は、あの頃のままなのに(小説『天国へ届け、この歌を』より)

香田美月が、このマンションに来たという痕跡を全て消し去った。 土曜日に、単身赴任をしてい…

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私の生き様(小説『仮面の告白 第二章』より)

私は、皆があっと驚くような馬鹿げたことしてみたかっただけなのだ。 世間が、どんなに頭をひ…

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はじめての音楽フェスでボーカルが急に歌えなくなる(小説『天国へ届け、この歌を』よ…

ワタシたちは、現役高校生の青春パンクバンドとして、人気が出てきました。色々なライブにも、…

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武蔵の微笑み(時代小説『宮本武蔵はこう戦った』より)

武蔵は思い悩んでいたのだった。 小次郎に勝てるという自信がなかった。 今まで数々の試合を…

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たそがれ(『天国へ届け、この歌を』より)

帰りの地下鉄は、混み合う。 特に淀屋橋から梅田方面に行こうとすると、京阪の乗り換え等で降…

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短篇『光り輝く大切なもの』

「どうしても出来ないのやったら、せんでもかまへん。その代わり、この会社はもう終わりや。80年続いたけれども、今年限りで終わりや」 取締役常務の喜久枝さんは、うつむいて黙ったまま聞いておられます。 普段温厚な南方社長が、珍しく声を荒げて喜久枝さんに話をされているのです。 いつもは温厚な社長のこんな怒った顔は初めて見ました。 「何でこの会社が、80年続いたか分かるか。それは、時代によって変化してきたからや。その時代によって対応してきたから、今日まで生き延びてこられたのや。

あの人の思い出と現実 (『夕暮れ前のメヌエット』より)

ポケットの中に手を入れて携帯電話を取り出そうとした時、田中の家族は小津さんであることを改…

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『饗宴』

突然、光を浴びせられた。 目の前に、顔を半分覆い隠す黒光りするマスクに、黒いゴーグル。 …

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ミッキーマウスの不調和音(『天国へ届け、この歌を』より)

「ああ美味しい」 香田さんが、先にスパークリングワインを飲んでしまった。 「あっ」 思わ…

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異形のサムライ(小説『宮本武蔵はこう戦った』より)

父、無二斎より、小倉藩の権力争いのごたごたを収める意味も含めて、「佐々木小次郎」なる剣術…

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海を見つめる武蔵(時代小説『宮本武蔵はこう戦った』より)

武蔵は海を見ている。 日の出から随分時間が経った。陽が昇って頭上近くになろうとしているの…

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短篇『ダイヤよりも光り輝くもの』

「どうしても出来ないのやったら、せんでもかまへん。その代わり、この会社はもう終わりや。80…

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救急車を呼べ! (『夕暮れ前のメヌエット』より)

「よっしゃ、ナイスショット。やっと調子が出てきたで」 若社長は、 すたすたと自分だけ先に歩き出した。 「このお調子者が」と、田中の方へ見たが、田中は正面を向いたまま視線を合わさない。 前を歩く若社長が、二人が何事かささやくのを察して振り返るから注意しろと言う意味なのかも、知れない。 それにしても、田中の横顔は、年老いた巡礼者のように、疲れをしわに刻み、思いつめ耐え忍んでいるように映った。 案の定、若社長が振り返って、こちらを見た。 その顔には、先程までの傲慢な二代