マガジンのカバー画像

大河内健志短編集

69
運営しているクリエイター

#毎日投稿

心は、あの頃のままなのに(小説『天国へ届け、この歌を』より)

香田美月が、このマンションに来たという痕跡を全て消し去った。 土曜日に、単身赴任をしてい…

7

私の生き様(小説『仮面の告白 第二章』より)

私は、皆があっと驚くような馬鹿げたことしてみたかっただけなのだ。 世間が、どんなに頭をひ…

6

『饗宴』

突然、光を浴びせられた。 目の前に、顔を半分覆い隠す黒光りするマスクに、黒いゴーグル。 …

9

あのメロンパンをもう一度

焼きたてのクッキーの香りが、部屋中に漂う。 香ばしくて、鼻の奧が生クリームで満ち溢れるよ…

8

キャンドルライトの不思議な力(『天国へ届け、この歌を』より)

「貴島支社長、お願いがあるのですけど・・・。電気を消してもいいですか?」 親子ほど年の差…

5

小次郎の知られざる過去(『宮本武蔵はこう戦った』より)

 見る間に試合が行われる島に近づいてきた。思っていたよりそれは小さく、周囲を見渡すには充…

2

本能には勝てない!(『宮本武蔵はこう戦った』より)

「恐ろしい」 武蔵は、全身が強張って身動きが出来なくなってしまった。 小次郎は、目の前で見た「つばめ返し」の技を私との試合に使うに違いない。 彼は、私の太刀よりはるかに長い太刀で、遠い間合いから攻撃をしかけてくる。 相手が、遠い距離から仕掛けてこられると、こちらでは、明らかに届かないと分かっていても、今までに経験したことのない長さの太刀であることが頭に刷り込まれているので体が勝手に反応してしまう。 経験値のないものに対して、脳の指令が過剰に発せら、防衛本能が働いてし

切り損じる小次郎(『宮本武蔵はこう戦った』より)

 徐に小次郎は、背負っている刀を下から前に回し、鐺で大店の軒先にある燕の巣をはたき落した…

4

異形のサムライ(小説『宮本武蔵はこう戦った』より)

父、無二斎より、小倉藩の権力争いのごたごたを収める意味も含めて、「佐々木小次郎」なる剣術…

5

新説坂本龍馬暗殺 5話 あとがき

この作品を読まれた坂本龍馬ファンの方は、さぞかしがっかりされたことでしょう。誤って同士を…

2

涙が出るほどおいしいメロンパン

焼きたてのクッキーの香りが、部屋中に漂う。 香ばしくて、鼻の奧が生クリームで満ち溢れるよ…

5

宝石屋さんの不思議な古時計

 「キクちゃん、早う寝なさい」  お母さんは、そう言うと階段をきしませて降りていかはりま…

8

武士の掟(小説『龍馬が月夜に跳んだ』より)

齊藤一は、菊屋峯吉から十津川郷士と名乗っている三人組みは近江屋の二階にいるとの報告を受け…

『饗宴 』(前半)

 人通りが少なくなった。  道行く人は、誰もが伏せ目がちに、逃げるように急ぎ足で行き交う。何かを恐れているように、何かから逃れるように、何処に行こうとしているのだろう。  街は、色を失ってしまった。戦禍に巻き込まれた街のように、全てがグレーの濃淡で描かれてしまうようになった。  何処かで見たことのある風景。  でも思い出せない。  確かに、私はこの風景を見たことがある。  この鼻の奥に埃が入ったようなにおい。思い出せない。でも確かに、私は嗅いだことがある。  遠く