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大学を辞めた

大学を辞めたい、と決意して二日後にわたしは学割が使えなくなっていた。

自分がすきなものをフォローするためのインスタアカウントがある。フォロワー0人。鍵付き。

そんなSNSの醍醐味を排除したようなアカウントをふとのぞいてみたら、忘れていた投稿が何個かあった。初投稿は20XX年2月4日だった。写真の内容はヴィレッジヴァンガードのフリーペーパーを切り取ってノートに貼ったスクラップブックの1ページだった。

次の投稿は1ヶ月半後の20XX年3月26日。本二冊を並べた投稿だった。大森靖子の『かけがえのないマグマ』と大槻ケンヂの『サブカルで生きる』が薄ピンクのシーツの上に並んでいる。………あっ。この写真を撮った日、わたしはこの本を読まなかった。ブックオフで何となく買ってみたけどなんか読む気になれなかったんだった。

SNSというものは面白い。人とつながらなくてもこうやって当時の記憶が鮮明に記録できる。覚えてるよ。この本は買って2日後にぐしゃぐしゃになりながら読んだ。その時期私は毎日泣いていた、学歴コンプレックスが辛くて高校の同級生のツイッターが見れなかった、違う大学に編入するために毎日TOEICの勉強をしていたのに逆に点数が下がってムカついていた、そしてそのあと白米を二合食べた。

小さいころから具体的な夢がなかった。楽しい仕事がしたいし、好きなことがしたいけど職業って言われるとわからなかった。小学生の時に流行ったプロフィール帳の将来の夢の欄には決まって「楽しくて生活に困らない仕事」と書いていた。そんなの好きな食べ物を聞かれて「おいしいもの」と書くのと同じなんだけど。

でもそれくらいわからなかった。中学生になって「ムーミンハウスに住んで温かい家庭を築く。子供は男、男、女。」という理想を笑いながら話したけれど、それは高校の担任には全く通用しなかった。

将来の夢を聞かれた時に人に胸を張って答えられる夢はなかった。でも、やりたいことはあった。"アイドル"がしたかった。

大学1年生の3/31、私は退学届を提出した。

大卒以外は社会で生きていけない、国公立大学を出て就職して税金を納めることが人生の正解 という思想を半ば強制的に植え付けられた中高の6年間だったけど、たった2冊の本で改宗してしまった。わたしは大森靖子じゃないし大槻ケンヂでもない。歌は上手くないし作曲もできない。けど、生き方はひとつじゃない。やっぱりアイドルがしたい。

毎年3月になる度インスタグラムにもツイッターにも沢山美しい袴の写真が流れてくる。いいなあなんてぼんやり思うけど、あの時毎日泣いてた理由はどこにもない。

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