絶滅危惧種としての香道具
こんにちは、京都より200年の系譜をもつ香木・香道具店 「麻布 香雅堂」 代表の山田悠介と申します。「オープン・フェア・スロー」をキーワードにお香の世界に関わっています。
今回は香道に使用するお道具=香道具がどんな状況に置かれていて、香木・香道具の専門店としてどんなことができるのかを考えてみたいと思います。
香道とは、香道具とは?
そもそも「香道」とはどういうものか知らない方もいらっしゃるかもしれません。香道は、室町時代の終わりごろに生まれた芸道の一種で、茶道・華道と並んで「日本三大芸道」のひとつに数えられます。他の芸道と同様にさまざまな流派が存在していますが、室町時代から続いているとされる「志野流」と「御家流」が二大流派として認識されることが多いです。
香道を一言で説明すると、要するに「いろいろな方法で香木という特殊な木の香りを鑑賞する芸道」です。なかでも有名なのは組香≒10名ほどが集まって香りを聞き分ける遊戯です。組香はゲーム性が高く、まったく初めてという方にも楽しんでいただきやすいため、香雅堂で開催する組香の体験イベントは常に満席になるほどでした。
これを読んでいる方にもぜひとも体験してほしいと思うのですが、和室にみんなで集まるため、コロナウイルスが流行っている状況を考えて、現在は開催を見合わせています。
さて、この組香で「香木を焚く」為などに必要となるのが香道具です。香道具のなかには、香道のお稽古のときに毎回使うものもあれば、香道具店の私たちですら実際に使われているのを見たことがない……!というものもあるほど、たくさんの種類が存在します。
さまざまな香道具
香道具の置かれた状況
香道具は香道を行うために必須の存在ですが、私が香雅堂に関わり始めたこの10年の間に、かなりのスピード感で需要が減ってきています。あくまで感覚値ではありますが、60~70%減くらいのイメージです。
そのなかでも「お稽古のときに使う」という入門的なものや汎用性の高い道具は、ある程度お求めいただいているという実感があります。しかし、高段位の方が使うような専門性が高いもの(以下、専門品)や、お客様のご要望に基づいてゼロから作る「御誂品」に関しては本当に激減していると感じます。
これが香雅堂だけの問題であれば、香道具の未来そのものが暗いわけではないと思うのですが、業界全体として需要が減少してきているのではないかと考えています。さらに言えば、需要減が続いた結果、香道具の供給そのものが減少し歯止めがかからないというフェーズまできているのではないか……そんな不安があります。
お客様から「他のお道具屋さんにはなかったけど、香雅堂さんにあってよかったわ!」と言われることもしばしばです。もちろん逆もまたしかりだと思いますが、このような状況が続いたら、いつか香道具は絶滅してしまうのではないか? そんな問いが頭に浮かぶようになりました。
絶滅したらどうなるのか?
数あるお道具の中でも、特に危ういのは「専門品」、「御誂品」の2つです。万が一これらのお道具が絶滅してしまったらどうなるのでしょうか? 私が考えるに、主に2つあると思っています。
御誂品:乱箱五点揃の内 重香合
1つ目は製作サイドの問題で、もし香道具がつくられなくなったら、復活させるのは極めて困難だろうということです。これは香道具に限ったことではなく、言わば「伝統工芸品あるある」かなと思います。
2つ目は芸道サイドの問題で、香道具がなくなると、香道においてできる遊戯の種類が減ってしまう。すなわち、香道という芸道そのものが衰退に向かっていくということです。たとえば、下の写真は組香「競馬香」で使用するボードゲームのようなお道具ですが、もしこの専門品が絶滅してしまうと競馬香はできなくなってしまいます。
競馬香は、チーム戦で行うゲームのような遊びで、とても、とても楽しいものなのです! もしこういう遊戯がなくなってしまったら、香道の楽しみが薄れ、最終的には香道人口の減少にも繋がっていくのではないかと危惧しています……。
専門品:競馬香の道具
※ ちなみに、競馬香について詳しく知りたい方は、雑誌「なごみ」2020年9月号で浅生ハルミンさんが書いてくださった文章「雅と遊び心の『競馬香』」をお読みください。私たち香雅堂も取材していただきました。
仮説としての「香道具ファンド」
このような状況に対して香雅堂はなにができるか? どうしたら絶滅危惧種としての香道具を守っていくことができるか?
こういった自問自答を続けているうち、ひとつの仮説が生まれてきました。それが「香道具ファンド」です。ひとことで言えば、香道具を販売した売上の一部を、必ず次の香道具の生産&販売に使用する、ということです。つまりファンドといっても、まずは香雅堂の社内で香道具制作のための原資を募るというもの。みなさまから投資を募るわけではありません。
ファンドのお金で制作する香道具は、専門品、もしくは御誂品クオリティのものにしたいと考えています。この仕組みによって、毎年少しずつでも香道具をつくりつづけることができる。それが重要だと考えています。
次の世代に引き継いでいきたい文化
香道具(≒香道)の未来
しかし、香道具ファンドをつくることで、香道具の未来をどこまで変えられるのでしょうか?
未知数、というのが今の正直な気持ちです。香雅堂という小さな店が香道具をつくり続けたところで絶滅危惧種を救えるだろうか? まずは香道人口を増やすことのほうが重要ではないか? いくつもの「?」が頭をかすめます。
しかし、スモールステップとして、まずは香雅堂社内で「香道具ファンド」というチャレンジを始めます。これが呼び水となり、お客様やほかのお店も巻き込みながらより大きな動きに発展することを願っています。そして、いつか香道具の供給と需要がふたたび上向くよう、根気強く活動を進めていきたいと思います。
……と言っても、わりと心が折れそうになるチャレンジになる気がします。暖かいご声援やアドバイスのほど、以下のフォームからいただけますととても励みになります!また、香道具ファンドでどのような香道具を今後作っていってほしいか等についても、ざっくばらんにフォームよりコメントいただけますと幸いです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?