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2 共同親権のメリット・デメリットについて

共同親権に関しては、導入の際にいくつかのメリットやデメリットが提示されており、長年議論されてきてはいるはずなのだが、本来出てくるべきメリットやデメリットはあまり表面には出てこないばかりか、意図的に触れていないかのような側面を有する。

中立的な勢力や報道機関だけではなく、賛成および反対を論じている人々からも、海外の研究に触れていないところがあり、どうにもはたから見ていてはがゆい感じがある。

そこで、共同親権論については、できる限り広く意見を取り入れるよう、メリット及びデメリットを論じていきたい。

1 メリットについて

共同親権に関するメリットについては、複数の研究がなされており、数多くの調査結果に基づいて、多くの国は共同親権を導入している。

共同親権に関する調査については、共同対単独の身体的親権:60件の研究における親子関係、収入、および紛争に依存しない子供の転帰:離婚と再婚のジャーナル:Vol 59、No 4 (tandfonline.com)4th-hearing2.pdf (shojihomu.or.jp)などにて各調査の分析がまとめてあるが、これらや数多くの研究を基に、メリットにを多く紹介したい。

親同士の親権争いを防止及び親子関係を改善する役割

単独親権に比べると共同親権のほうが親権争いに関する紛争が減少することが観測されている。

単独親権下では、どうしても両親のどちらかに子供を育てるかどうかというのが争いになり、双方とも子供を欲している場合もしくはお互いに押し付けあっているような場合には、確実に争うことになる。

しかし、共同親権に移行することによって双方が子供との出会いを提供できる場面が多くなるだけではなく、そもそも双方に親権が維持されているので、奪い合うということが少なくできる。

海外事例の調査では、Jay Folberg (1991-08-23). Joint Custody and Shared Parenting. Guilford Pr. p. 202.、"These Boots Are Made for Walking":Why Most Divorce Filers are Women、Bender, W.N. 1994 Joint custody: The option of choice. Journal of Divorce & Remarriage 21 (3/4): 115-131、 Shared Parenting Information Group(UK)Does joint custody increase conflict between parents? といった調査から確認されており、当事者間の紛争解決に役立っている。

争いが少なくなれば、親子関係の改善も実現しやすくなり、離婚後も疎遠になることで関係性が途切れることを防止することが可能となる。

教育面の改善

また、共同親権に関しては、教育環境や精神的な側面でも改善することが研究によって報告されている。

その影響は幼少期のころから出てきているものであり、黒人の赤子と父親との関係の研究では、六か月までに密接にかかわることにより、高い精神能力と精神運動機能が身につくことが分かっており、幼少のころからすでに影響が出るとされている。(FrankA.Pederusen,JudithL.Rubeinstein,andLeonJ.yallow,”InfantDeveloument in Father-Absent Families”Journal of Genetic Psychokogy,Vol135,1979,PP55-57 )

また、父親がいる過程とそうでない家庭の子供との学力の研究について、小学校の段階でもIQスコアに大きな影響があるという結果(DEUTSCH, Martin and Bert Brown, 1964. "Social Influences in Negro-White Intelligence Difference," The Journal of. Social Issues,)やたとえ学力が低い教育レベルの学校でもいるといないとでは数学及び理科の項目で点数に差が出たという結果(Bryce J. Christensen, “America’s Academic Dilemma: The Family and the Schools.” The Family in America, Vol. 2, No. 6, June 1988.)が出ている。

その他にも、Bausermanが33件の研究をメタ分析した論文(Bauserman,R. (2002) Child’s Adjustments in Joint-Custody Versus Sole-Custody Arrangements: A Meta-Analytic Review)においても、学業関連でも単独親権よりも良好な結果を示しており、学力面でも大きな支援を期待できるとしている。

複数の研究結果を基に、両親がいたほうが学力向上を期待できるという面が大きいため、共同親権もその役割が期待されている。

子どものメンタルにも好影響がある

先ほどのBausermanが行った33件の研究メタ分析論文やJoint physical custody, parent–child relationships, and children’s psychosomatic problemsによると、子供の心因的な面を改善することが報告されている。

その内容は、自己肯定感、対人関係、情緒的安定性など、複数の面で良好な結果が得られており、子供の精神的な部分を改善が期待される。

子どもの精神的な面に関して、離婚後も多くの時間を共有するほど子供の精神的な側面に多くの効果を期待できるため、共同親権を導入する根拠となっている。

養育費関連の改善

養育費関連についても、共同親権においては改善する傾向が確認されている。

Jay Folberg (1991-08-23). Joint Custody and Shared Parenting. Guilford Pr. p. 202.などで子供に対する資金面の提供が増えるということを示唆しており、養育費に対する改善も共同親権には見受けられることを示唆している。

そもそも、共同で養育をするというのだから、お互いのところに子供が行き来している時点で、一部養育費負担をしているともいえるだろう。

単独親権時に比べて子供にかかわる以上、お金のやり取りの面でも養育費関連の話がほとんど問題なく完了することを示唆しているのだ。

離婚数の低下

また、共同親権によって離婚の数が減少しているという報告もある。

Child Custody Policies and Divorce Rate in the USやWarren Farrell (2001-10). Father and Child Reunion: How to Bring the Dads We Need to the Children We Love. Finch Publishingといったものにその成果が書かれているのだが、移行した後には、導入した地域の離婚率が低下しているという報告がある。

離婚率が低下することで、より子供は親もとで生活できる環境が整うことになり、両親の影響下で子供が成長しやすくなる。

そうなれば、子供が共同で養育される環境が整うため、子供の育成環境などが改善する可能性を示唆されている。

高葛藤においても改善効果が見受けられる

よくある共同親権の反論にも出てくるのだが、親子関係が良好だからこそ子供にもいい影響があるだけで、高葛藤(親同士の中が悪いなど)の場合には子供には悪影響だから辞めるべきという話がある。

前述したメタ分析をした研究のうち、7件の研究においては、高葛藤である家族間の場合でも7件すべてで共同親権のほうが良い結果を得られたという結果が出ており、例え親同士で仲たがいしている場合でも、両親双方が関わることが望ましいという結果が出ている。

仲が悪いからなどと言って、必ずしも子供に悪影響が出るというわけではない。

子供に対するDVの防止

共同親権後において、子供が片方の親の元にいる状態であっても、子供へのDVを発見しやすいのではという風にも示唆されている。

単独親権の場合には、子供に対する目というのがどうしても少なくなりやすく、相手が子供に対して何をしているのか不透明になることも起こるだろう。

公的機関の介入や監視というのにも限りがあるが、共同親権においてもう片方の親が介入できるのなら、DVなどの痕跡を発見できる契機になる可能性も示唆されている。

単独親がシングルもしくは再婚などをした後に、DVをしているというケースが発生しても、これによってDV防止ができると期待ができよう。

共同親権のデメリットに関して

共同親権に反対する勢力が挙げるデメリットに関しては以下の通りである。

主だった主張を漏らさず取り上げたいのだが、基本的に表に出てくる理論は偏りがあるため、できる限り広く反対論を取り上げることとする。

DVから逃れるための話

デメリットで初めに考えられるのは、別居親からのDVを受けており、そこから逃れてきたのに、共同親権によってまたDVを受けるのではないかという懸念である。

反対論者の主要論点と言っていい部分であり、根拠の多くをここに依存していると言って良く、報道などで必ずと言っていいレベルでこの論点は出てくる。

離婚事理には、パートナーからのDVが少なからずあり、身体的暴力などを受けていた被害者側が自身や子供の身の安全が脅かされてきた。

暴力というものの防止及び不安を根拠に反論しているものであり、導入前にDVにて逃れた場合でも、再び関わりをもつことになれば、また危ない目にあうかもしれない。

この点を、弁護士などの法曹関係者、リベラル、議員、フェミニストなどが中心となり、一大論点として展開している。

ただし、後述するがこの論点は最大の主張にして最大の欠陥と差別性を有している。

両親の間での方針の違い

DV論に共通する部分がある項目だが、共同親権を行使する際に、親同士の方針がもめることによって、子供に対する親権行使に支障が生じることが考えられる。

共同親権を執り行う際には、一定の事項について両親の合意や事前の取り決めによって進めていくのだが、この時点で両親が対立した場合には物事が進められないことがある。

海外旅行や進学、転居、就職など、いくつかの面で親権者からの妨害を受けてしまえば、子供のための制度がかえって足かせになると考えている。

移動の自由の制約

正直なところ、私が反対側に回るならこちらの方がまだ反対論を展開する主軸にしたいと思うだろう。

だが、反対論を展開する方でもあまりこの部分を中心には論じていないように思われる。

移動の自由に関しての論点を簡単に述べるが、子供の監護権を有している親に対してもう片方の親がその移動に関して何らの意見を述べたときである。

例えば、監護権を有する親が出張や引っ越しすることや、子供が進学して住んでいる所から離れるといった場合に、監護権を有していない親は物理的な環境要因によって、子供に会うことが制限されやすくなってしまうだろう。

そこで、子供との交流をしっかり確保するためには、移動を制限することが考えられます。

移動するにしても、近隣の場所に指定することが望ましく、遠方には移動することはできないもしくは困難となる。

これが、居住・移転の自由(憲法22条第1項)に反するのではという主張がなされるだろう。

この点は、共同親権のきっかけとも呼ぶべきハーグ条約に関しては、特に問題になるような部分であった。

国家間の行き来に関することであり、どちらか一方が他国に出てしまっている状況では、実際に共同親権を行使するのには多大な費用や負担を有することとなる。

そういったことを踏まえると、共同親権そのものの実効性があるのかという疑問や、権利制限を受ける懸念が考えられる。

二重生活を強いられる

子どもは二重生活を強いられることで、負担が増すのではないだろうかという懸念もある。

離婚後も両親のもとに行き来しなければならないため、子供はそれによって疲弊することも考えられるだろう。

親子間の交流時間や日数が多くなればなるほどそのような傾向になるため、負担が多いと感じるときには、どうしても数を少なくしなければならず、共同親権派十分な時間確保及び子供の成育環境の改善はできないという声もある。

以上のようなことが、メリット・デメリットとして主にあげられることであり、今まで制度導入をするかしないかで語られてきたことと言える。


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