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夏の匂い

平成最後の夏なんだそうだ、ということをtwitterでつい先日知った。
今平成何年なのかも知らないし、終わることも知らなかった。ニュースをあまり見ないからと言われればそれまでだけど、第一に日本にいないからです。
今から6年と少し前まで住んでいた日本は、今は異国のよう。

私はあまり記憶力が良くない。もちろん印象的なことは切り取ったように覚えてるけれど、何年も前のことはすぐに朧げになってしまって、だから昔のことや人の名前をずっと憶えてる人と話すと驚いてしまう。

私は昔、夏が大好きだった。
ハッキリ覚えてるのはそれだけ。
特に嗅覚で覚えている。

夏の日差しと高揚感、青い青い空。熱を孕んだ緑のむっとするようなにおい。海と潮風のにおい。プールのにおい。花火のにおい。そして日焼けした肌のにおい。

夏になるともうとにかく海に行きたくて、海で肌を焼きたくて仕方がなかった。
理由なんてない。ただそうするのが好きだったから。
むせるようなココナッツのにおいのするサンオイルを肌に塗って、ビーチに転がってひたすら焼く。日差しを浴びてギラギラ光る手の甲とその向こうに光る水面を見たりしながら。たまにひっくり返ったりしながら。
汗とオイルのにおいと周りの喧噪を感じながら、ジリジリと焦げてゆく。

そうしてくっきりとついた水着の跡をバスルームで眺めては悦に入っていたものです。あのコントラストがたまらなく好きだった。
誰に見せるでもない自己満足。思い出すとちょっと笑えるぐらいの自己陶酔。
水シャワーの後も熱の残る、灼けた肌のにおいを今も思い出すことができる。

あれから何年もの時が経って、今は海に行ってもサンオイルを塗ってビーチで焼くことはなくなったけれど、今も無意識に自分の腕のにおいを嗅いでしまう癖がある。

平成最後の夏なんだそうだけど、私は今一年中夏の国で暮らしている。
一応一年のうち特別に暑い期間というものはあるけれど、暑い季節とすごく暑い季節があるというぐらいで、つまり毎日暑くて夏みたいだ。
そしてそのすごく暑い季節も日本の夏とは時期が違う。
夏だ、なんていう感覚もなく、平成という年号に想いを馳せることもなく、私は日常を繰り返してこの時期を過ごすのでしょう。
こうしてインターネットを通じて日本語に触れていると目にする「夏」という文字にふと、夏のにおいを思い出しながら。

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