やまん(やまだ ゆか)

内科の医者をどこかでやっています。最近はイラストを描いたり小説を描いたり、現代アートの…

やまん(やまだ ゆか)

内科の医者をどこかでやっています。最近はイラストを描いたり小説を描いたり、現代アートの勉強をしたりしています🥦

最近の記事

掌編小説|大きいお城と小さいお城

「お客さん、着きましたよー」    タクシーの運転手に声をかけられて目を覚ますと、世界はゆっくりと朝に近づいていた。いちばん最初に指に触れたカードを取り出して、後ろめたいことはとくにないが、逃げるように支払いを済ませる。こんな未明にいったいどうしてそんなに急いでいるのかと問いたくなるような速さですれ違う車たちを横目に、交差点を二本の足でゆっくりと渡る。数時間前までの叫ぶようなフロアの残響が耳の遠くでまだ響いていた。    辿り着いた鉄の塊のてっぺんに登る。扉を開く。ピピ、

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    • 掌編小説|お通しにパインのテキーラ

       ふとあたりを見回すと、ハリボテの洞窟に迷い込んでいた。テーマパークのようなつるつるとした質感の岩壁に、まばらに蝋燭の灯が灯り、プラスチックのキノコが壁一面に繁っている。 「お通しにテキーラか、ミックスナッツお選びいただけまーす」    言われて初めて、自分がバーカウンターに座っていたことに気がついた。暖かいおしぼりで手を拭きながらきょろきょろとあたりを見回すと、年配のカップルが一組と、自分のような一人客が二名ほど、離れて弧の字型のカウンターに座っている。 (お通しにテキーラ

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      • 掌編小説|思い出はサーマルロール

         いぼ?ができた。うなじを擦ると日焼けの皮剥けみたいにぴーっと、一センチぐらいの薄皮が綺麗に剥けた。初めは小さくまとめてゴミ箱に捨てていたが、また気になって剥いてみると、決まってぴーっと、今度はもう少し広い範囲で剥けた。おおー、と思って今度はじっくり剥がしたそれを観察してみると、なにやら文字のようなものが規則正しく並んでいる。印刷したての原稿を枕に寝てしまったか?とまずは思ったが、覚えはなかった。  スマホで肩をねじらせてうなじの写真を撮ってみる。やや赤みは目立つが、出血して

      掌編小説|大きいお城と小さいお城

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