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短編小説集

57
1万字以内の小説。幻想やファンタジーなど、ちょっとふわふわした作品が多めです。後日ステキブンゲイにも更新しています。
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記事一覧

【小説】神さまだった頃のこと

「おれは昔、神さまだったんだ」  カフェーで相席になった男が唐突にそう言うので、私はたま…

岡野萌々美
2週間前
1

【小説】手中の魚

 祭囃子が聴こえてきた。はて、この辺りで祭りなどあっただろうか。  よせばいいのに、私の…

岡野萌々美
1か月前

【小説】河の童

「胡瓜が巻かれているから河童巻きっていうわけじゃないんだよ、あれは」  伯父はそう言うと…

岡野萌々美
2か月前
2

【小説】砂上に咲く花

「それで、先生。娘の具合は……」  ガレンは鋼色の瞳を寝台で眠る若い娘から、不安げに寄り…

岡野萌々美
3か月前
6

【小説】さらば幕は閉じて

 スポットライトの眩い白が彼を照ら出す。  つい、と天へ向かって彼の手が伸び、朗々と愛を…

岡野萌々美
4か月前

【小説】明日には忘れてしまう花の名前

「これはタンポポ。これはスミレ」 「あの大きな白い花は」 「あれはハナミズキ」  指で示し…

岡野萌々美
5か月前
1

【小説】考える海

 彼は部屋の中央で、大の字になって寝転んでいた。長い手足をのびのびと脱力させ、穏やかな顔つきで目を閉じている。  これといって足音を忍ばせるようなことはせず、大股で近づいた。  彼の寝顔に私の影が落ちる。と、彼が目を開いた。  ばちり、と音が聞こえたような気さえする。それほどに彼はくっきりとした眼差しで、眠りの気配など微塵も感じさせなかった。  そもそも、眠ってなんかいなかったのかもしれない。 「ああ、いらっしゃい」  笑みをのせて彼は言った。  浅縹色の双眸は、浅瀬

【小説】白樺の森の魔法使い

 白樺の森の近くには魔法使いが暮らしている。ひとあたりがよく、博識な魔法使いだ。  カズ…

岡野萌々美
7か月前

【小説】夜に差すひと匙の金

 おや、どうしたんだい。  ……そう、悲しいことがあったの。  それじゃあ早く寝てしまおう…

岡野萌々美
8か月前

【小説】地上には星、空には月

 年末年始の駅前広場はいつもより眩い。空に灯るはずの小さな星の煌めきの分まで、地上で色と…

岡野萌々美
9か月前

【小説】ファムファタールの杯

 ディオンは城内でも指折りの真面目な男であった。無駄なくちは利かず、誘惑になびくこともな…

岡野萌々美
10か月前

【小説】共鳴

 学校のプールに、クジラが泳いでいた。  帰ろうと靴を履き替えたところで、独特なにおいが…

岡野萌々美
10か月前
2

【小説】一緒に暮らすということ

 ずらりと天板に並んだクッキーを摘まもうとした手がはたかれる。 「行儀が悪い」  あっち…

岡野萌々美
11か月前
1

【小説】美しい渦

 役目を終えた小屋に火が放たれる。小さな灯火は乾いた木を食んで成長し、やがて海風に負けないほど大きな炎となる。  村人たちは燃える小屋を囲み、赤い炎が踊り、灰となるのを眺めている。なかには酔いに任せて自身も踊る者やそれを囃し立てる者があり、かと思えば、くちを噤んでことを見守る静かな一角もあった。誰しも燃え立つ焔の赤に頬を染め、榛色の瞳に火の粉を瞬かせながら、海原へと流れる白い煙を見送る。  これが、海辺の小さな村に続く風習であった。家族の数だけ白い和紙を家畜の形に折り、玄関に