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太田記念美術館【葛飾応為「吉原格子先之図」 ―肉筆画の魅力】感想と見どころ

1.概要

会期終了してしまいましたが、太田記念美術館で開催されていた「葛飾応為「吉原格子先之図」 ―肉筆画の魅力」を観てきました。2020年に開催された「開館40周年記念 太田記念美術館所蔵 肉筆浮世絵名品展 ―歌麿・北斎・応為」も見に行ったのですが、再び葛飾応為の「吉原格子先之図」を観られるということで楽しみにしていました。

葛飾応為「吉原格子先之図」 ―肉筆画の魅力 | 太田記念美術館 Ota Memorial Museum of Art (ukiyoe-ota-muse.jp)

葛飾応為(生没年不詳)は江戸時代の浮世絵師で、葛飾北斎の娘でもあります。世界で十数点しか作品が確認されていないのにもかかわらず、北斎とも異なるその印象的な作風は多くの人を魅了し続けています。中でも代表作として知られる「吉原格子先之図」は、遊廓である吉原の光と闇を美しく描いた名品。本展では約3年半ぶりの出品となる同作とともに、太田記念美術館所蔵の肉筆画を多数展示いたします。

肉筆画とは、浮世絵師が筆で紙や絹などに直接描いた作品のこと。浮世絵師と彫師、摺師の協力で制作され、多くの枚数が摺られる版画とは異なり、絵師が直接仕上げる一点ものです。太田記念美術館所蔵の肉筆画コレクションは、古くは菱川師宣から喜多川歌麿、葛飾北斎、明治時代の小林清親に至るまで、浮世絵の長い歴史や幅広いジャンルを偏りなく含むことで知られています。応為の作品とともに、さまざまな絵師たちによる肉筆画の競演をお楽しみください。

展覧会公式HPより

2.開催概要と訪問状況

展覧会の開催概要は下記の通りでした。

【開催概要】  
  会期:2023年11月1日(水)~11月26日(日)
開場時間: 10時30分~17時30分(入館は17時まで)
一般料金:一般 1000円 /大高生 700円 /中学生(15歳)以下 無料

展覧会公式HPより

訪問状況は下記の通りでした。
    
【日時・滞在時間・混雑状況】
平日の14時頃訪問しました。私が入館した後混んできて、平日にしては人が多い印象でした。

【写真撮影】
写真撮影は不可でした。

【グッズ】
展覧会オリジナルのグッズはないようでした。前回「葛飾応為 鑑賞ガイドブック」を買ったかどうか思い出せず…。

3.展示内容と感想

展示構成は下記の通りでした。

Ⅰ 人を描く
Ⅱ 市井を描く
Ⅲ 風景を描く
Ⅳ 物語を描く

作品リストより

様々な絵師の一筆入魂の作品をまとめて見られてとても楽しめました。作品ごとに絵の具の塗り方、線の強弱などにこだわりが感じられ、各絵師が自分の技術とアイデアを注ぎ込んでいる様子が窺えました。特に「風景を描く」のコーナーに展示されていた歌川広重の山脈や滝を描いた作品からは造形的な面白さを追求しているような印象を受け、各地の魅力を伝える名所絵とは違う興味関心を肉筆画で満たそうとしているのではと感じられました。絵肌の質感や額装も合わせて楽しめるのも肉筆画ならではの魅力だと思いました。一方で最初の「人を描く」の展示作品は年代ごとに女性の顔の描き方に特徴があったりファッションを見せる要素が強かったりといった傾向が感じられ、このあたりが肉筆"浮世絵"とジャンル分けされる所以なのかなと思いました。

4.個人的見どころ

以前見たことがある作品、今回初めて見た作品とありましたが、特に下記の作品が印象に残りました。

◆葛飾応為「吉原格子先之図」文政~安政(1818~60)頃 太田記念美術館
一生のうちに一度は見たいと思っていた作品なのですが、3年半前に初対面が叶いました。なぜか大型のドラマティックなものを想像していたのですが、実物は小型で静謐な作品で意外に思った記憶があります。改めて見ると光と影のコントラストも見事なのですが、灯のグラデーションなど柔らかな表現も美しいなと思いました。光に惹きつけられる人間の性、そして華やかな世界の裏の闇のようなものを感じさせるのですが、この作品を見ていると不思議と心が落ち着きます。応為はどんな心境でこの作品を描いたのだろうと想像するときがあるのですが、きっと鏡のような心で制作に臨んだのではないかと思います。宮崎あおいさんが応為を演じた「眩(くらら)~北斎の娘~」を見返したくなりました。

葛飾応為「吉原格子先之図」文政~安政(1818~60)頃 太田記念美術館
※グッズのポストカードを撮影

◆葛飾北斎「羅漢図」弘化3年(1846) 太田記念美術館
羅漢のダンディーさに惚れます(笑)。羅漢は悟りを開いた人ということですが、むしろギラギラした感じは生涯絵の道に邁進した北斎のイメージと重なるものがありました。人物の輪郭線を茶色で弾いているところがマッチョな印象を際立たせているように感じました。北斎は足の裏もものすごく筋肉質に描くところが特徴だと思っているのですが、この作品の主人公はおしゃれな足袋をはいていました…。

葛飾北斎「羅漢図」弘化3年(1846) 太田記念美術館
※グッズのポストカードを撮影

◆月岡芳年「雪中常盤御前図」明治11~17年(1878~84)頃 太田記念美術館
繊細な描線が美しく、儚げな美しさのある作品でした。嵐で着物を吹き上げられた常盤御前のシルエットが逆三角形に見えるのですが、重心が高く見えより常盤御前たちの不安な状況が強調されるように思いました(3年半前に見た時、近くにいた方が「バランスの悪い絵ね~」と言ってたことが思い出されました…)。

◆小林清親「富士川上流秋景図」明治30~40年代(1897~1912)頃 太田記念美術館
小林清親は影絵のような静けさが漂う作品のイメージが強かったのですが、この作品は淡い色彩が斑点のように塗られていてメルヘンチックな印象を受けました。同時に展示されていた「開化之東京両国橋之図」、「勿来図」と並べて見ると清親の作風の広さを感じられました。

◆歌川広重「待乳山雪中月夜之景」嘉永~安政5年(1848~58)頃 太田記念美術館
輪郭線を用いずに描かれた雪景色がほのぼのとした印象で、絵の世界に引き込まれるものがありました。広重についても他の作品と合わせて多彩な魅力を味わえました。

5.まとめ

改めて江戸(一部は明治ですが)時代の絵師のパワフルさを感じられた展覧会で、色々な発見がありました。収蔵品展だとまたこれらの作品に出会えるという期待感があります。数年後に見た時はどう感じられるかも楽しみです!


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