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story 釈放

チリリリっ!朝のチャイムで目が覚めた。
「うぅ。さむっ。」あくびをしながら布団を畳んでると朝食が配膳された。気分は最高にブルー。麦飯と納豆と味噌汁というシンプルなメニューだ。俺は納豆が苦手だから味噌汁をオカズにして飯を食った。
朝食を食べ終えて読書をしてると「中島、取り調べだ」と刑務官が迎えに来て手錠を付けられて腰にロープを巻かれて取り調べ室に引っ張られる。
「中島くん。おはよう。よく眠れたかい?」
俺は「世間話はいいんで聞きたいことなんでも答えるんで始めてください」と返答した。
「そうかそうか。君は過去に2回、少年鑑別所に収容されてるんだね。今回の事件の経緯を詳しく聞きたい」
また同じ話か。。昨晩と全く同じ内容を話した。
「その話だと先に手を出したのは相手で仕掛けてきたのも相手。あくまで正当防衛という事で間違いないね?」取り調べ職員は調書を取りながら聞いてきた。
自信を持って「はい。間違いありません。」と返答。
「君と一緒にいた上原くんにも詳しくお話しを聞くからもう少し待っててね。あ、あと被害届は出しますか?」と聞かれたので「出しません」と返すと「わかりました。それでは以上になります。今回の調書はこれから検察に送ります」と告げられ部屋に戻された。
俺は部屋に着くなり寝転がり真っ白な天井をぼーっと眺めてる。結局俺は10日間の勾留が決定した。ただただ早く帰りたい。

それにしても何もすることないから時間が長く感じて仕方ない。無の空間。
独居だから話す相手がいなくて余計に暇。本読むかボーっとしてるだけ。泣きたくなれば毛布にくるまってこっそり涙を流してただ時間が過ぎるのを待つことにした。
10日後。家庭裁判所に行くことになった俺は再び手錠を掛けられバスに乗せられ裁判所に向かう。冬だからより一層手首に掛けられた手錠は冷たく感じる。バスの中には成人の受刑者も3人乗ってる。相変わらず和気藹々とした雰囲気。きっとみんな常連なんだろう。。良くも悪くも俺自身、少しこの感じにも慣れた気がしなくもない。

裁判所に到着すると既に裁判官と母親が待っていた。心配そうな顔でこっち見つめてる。
裁判官が事件の一部始終を読み上げて最後に俺の今後の処遇を告げる。
「少年を保護観察処分とします」
よっしゃーっ!とガッツポーズをしたくなるくらい嬉しかった。母親も涙を流して喜んでる。
不起訴処分を勝ち取ったのだ。 
いつものパターンなら鑑別所送致になる事が多かった分、嬉しさは倍増。
晴れて留置所から釈放され警察署の外に出るとポカポカ陽気で太陽が眩しい。12日ぶりの外の空気が最高に美味しかった。大きく3回深呼吸をしてから母親の車に乗り込む。
「ほんとに馬鹿だねあんたは。何回もこんな所に来て」と母親は泣きながら言ってくるけどこの時の俺には返してやれる言葉が見つからなかった。
ただ、自分の為に泣いてくれる優しさだけはなんとなくだけど感じてる。

帰りに焼肉を食って自宅に帰宅した。
お気に入りだったコーンロウも約2週間も経てばもうボサボサだ。
家に入るなりじいちゃんとばあちゃんにも「いい加減にしろ!」と叱責を受ける。
出所早々、俺は落ち着く間もなくフロントガラスを割られた愛車のマジェスタを廃車にする為に近くの解体屋に乗っていった。
沢山思い出の詰まった人生初の愛車だったけどもうお別れ。次に乗る車は留置所の中で考えてる。周りには国産セダンに乗ってる奴が多いから敢えて外車を買おうと決めていた。
そう、アメリカのリンカーンナビゲーター。周りと違いを見せたいとゆーだけで左ハンドルの馬鹿でかいサイズのこの車を選んだ。
地元のリョウに電話をかけてすぐに迎えにきてもらった。
バンッバンッ。バンッ。と音が近づいてくる。
「よぉ、今日出てきたのか?」とリョウも元気そう。たった12日間しか中にいなかったけどその声はすごい新鮮に感じた。

ローソンカラー直管のrz250の後ろに乗って近所の床屋に寄ってもらう。
伸び切ってボサボサのコーンロウをバッサリ切って短髪にしてもらう事に。サイドと襟足は3ミリで刈り上げてもらって上だけ残すシンプルな短髪。
髪色はひどいけど家に着いてから黒染めをしよう。
そんなことより早く車が欲しい。隣町にある外車専門店まで乗せて行ってもらい、車を見せてもらうことに。
単車で入っていくと店員が音に驚いてこちらを見ている。
その店にはお目当てのリンカーン ナビゲーターが展示されてる。実際に見てみるとキャデラックエスカレードもなかなかカッコいい。。
車内とかも見せてもらって結局白のリンカーン ナビゲーターに決めた。中古だけど現行型の1つ古い型式みたいでまだ新しいみたい。
しかも写真で見るよりも遥かにデカい。日本車とかサイズ感がまるで違う。さすがアメリカンサイズ。
現金一括250万円で即決購入。店員さんは嬉しそうに驚いてる。

購入手続きの書類を店内で記入してそのまま乗って帰ることにした。
事前に連絡してたもんだから店員さんが車内の掃除と洗車をしてくれてるしピカピカ。
いざ運転席に乗り込みエンジンをかけるとヴォォン!とエンジンがかかる。
ん〜いい音。アメ車ってやばいね!左ハンドルはまだ知り合いは誰も乗ってないから早く運転慣れてドヤ顔をしたい。。笑

走り出すとマジェスタとは感覚がまるで違う。運転席が高いから見やすいけど曲がる時は左ハンドルだしかなり難しい。壁に突っ込みそうになる。リョウに見てもらいながらようやく地元まで戻ってこれた。デカい分かなり気を使って運転しないとすぐにぶつけそう。
帰る途中ウィンカーとワイパーを間違えたりと散々だ。 アメ車はウィンカー、ワイパーが逆なんだ。だから日本車と同じ操作をしても逆が動いちゃう。笑
この日はリョウと少し語ってからコンビニで黒染め粉を買って解散にすることに。
家で黒染めをした。金髪とか明るい髪色は飽きたから一旦黒髪に戻すことにした。

家に到着して車に気付いた母親は「あんた、ほんとにバカなの?こんなデカい車買ってどうすんのよ」と完全に呆れてる。
それも無理はない。出所初日に車購入なんて頭どうかしてると自分でも思う。笑

黒染めをして風呂に入って早めに布団に入る。

うわ〜。あったかい。家の布団は幸せだ😊



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