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【知床から箱庭の島へ④】羅臼岳

▽6.26 thu  

4時起床。くもり。 山も望めない…
う~ん、前日の願い叶わず…

二日目は、羅臼岳(1,661m)である。
「男子隊」は羅臼側から頂上へと登り、ウトロ岩尾別側へ下る、つまり知床半島を横断するコース。
「女子隊」はウトロ岩尾別側から頂上を往復するコースで、ぼくはその女子隊の担当である。
ウトロ岩尾別側からでも片道7.2kmの山である。羅臼側からは、さらにキツイ。 ご存じのとおり日本百名山の一つのため、訪れる登山客が多い人気のある山である。

BCで悲しくもせっせと筋肉痛をほぐす運動をしながら、ウトロ岩尾別の登山口である木下小屋へと一足先に向かう。
学生時代、この丸太小屋を建て替える際、この細い体で寝泊まりしつつ、お手伝いをさせていただいたこともあった。

管理人のHさんとやあやあと再会。
「あれー、久しぶりじゃないかい?」
「今は、札幌に行っているんですよねえ」
「そしたら、大変だべさあ」
Hさんは笑ってくれながら、最近会った顔なじみの地元の岳人の方たちの近況話を聞かせてくれた。 高校時代からの山のお付き合いの方である。

またこの日も「バスの車内から熊を見たー!」と生徒さんたちが喜んでいた。 ぼくはそんなことよりも、ふくらはぎと腿(もも)が、なかなか言うことをきかないことが切実なことであり、これが年の差なのだな、と悲しく思ったが、日頃の鍛錬不足は否めない。 「まあ、この日は女子隊なので、まだ気は楽だよナ」と覚悟する。

6時出発。
前日のガツガツゴツゴツだった形成新しい山の知床硫黄山と違い、羅臼岳の裾野は瑞々しく豊かな針広混交林の森に、腐植した土の優しい広い道が続いている。林床にはエゾユズリハが多い。
少し霧がかっているせいか、余計に瑞々しく感じる静かな幻想的な空間である。 本隊より先に7時過ぎに弥三吉水(やさきちのみず)に到着し、冷たくて甘い清冽な水を口に含み、ゆっくりと休憩。
ここから先は極楽平(ごくらくだいら)と呼ばれるダケカンバの中に続く回廊のダラダラ道だ。 ツバメオモトが白花をちょこんとつけている。

やや登りを過ぎ、ようやく残雪から水の流れを現した銀冷水(ぎんれいすい)に8時到着。
少し水滴の混じるような濃霧が生暖かい風と共にやってくるようになる。 遅咲きのチシマザクラがちょうど満開の見頃で、一瞬だけ眼を楽しませてくれる。

びっちりと残雪で埋まった大沢へ飛び出ると、めざす上部は望めない。雨具の上下を着用。 濃霧で行く先の見えない広い雪渓を一歩ずつ登行してゆく。
頭の中では、この雪渓は長くてキツイとわかっているので、イヤだ。 男子隊も、今ごろ、羅臼側から最後の長くキツイ大雪渓で難儀していることだろう。

意外にも大沢を登り切った「羅臼平」(らうすだいら)の風は予想よりひどくなく、そのまま視界100m程の濃霧の中、 頂上をめざす。
ハイマツの中に続く道を進んでゆくと、だんだんと高山植物たちが見られるようになる。 特にキバナシャクナゲは、「今、ワタシ、咲き乱れてます」といった色気ムンムンの感じである。
「アタシも、アタシも咲き乱れてます」と、エゾツガザクラやイワヒゲも透明な雨滴を鈴花一杯にしたためている。

キバナシャクナゲ


エゾノツガザクラ


イワヒゲ

10時過ぎ、風強く視界の全くない狭い頂上の岩盤の上に立つ。 よくもまあ、みんな登ってきたものだな。 男子隊も羅臼側から上がってきたとの無線交信がある。
それでも実際は、男女それぞれ数パーティは「リタイヤ(途中棄権)」などで途中下山や途中で待機をしている。

ゆっくりと下山を開始するも、昨秋の夕張岳からのこと、左膝が痛んで仕方ない。ひどいものだ・・・ 大沢の辺りでギョウジャニンニクを探しながら下りる。
採ったものを救護担当の後輩T君に渡すと、そのままうまいうまいと生で食べ、ゲップまで匂う。T君は気遣いがあり、マメなのか、神経が太いのか、ときにわからなくなることがあるが、いい奴である。

男子隊に追いつかれまいと走るように下山するも、女子隊は追いつかれてしまった。 さすがに高校生男子は強いし、速い。
実際に、頂上からウトロ側の岩尾別登山口まで約2時間位の下山タイムだったのではないだろうか。スゴイ・・・ さすがに、今のぼくの体では悲しいかな、しなやかで軽快、リズミカルな下山ができない。
本当に登山慣れしている人というのは、下山時の足運びを見るとよくわかるものである。

しばらくもう山には行きたくないよなあ、などと軟弱、食傷気味に思いつつ13時40分、ウトロ側岩尾別の登山口着。
やはりか…この日の下界も前日と同じく晴れである。
この日はトップで下山してきたので、冷えたコーラを真っ先にいただいた。

BCにはシカがいた

ウトロのBCに戻り、早速、温泉にあずかり、コインランドリーで洗濯を済ませたり、気持ち良く山の片づけをなどをして、 次に向かう「色丹島」への準備をする。
夕食は、全員参加の素晴らしい焼き肉での交流会である。当番校の先生たちは何から何まで大変である。

その後、近くに住む知り合いの小学校の先生が、相変わらずパタパタと足音をたてながら会いに来てくれた。 「なあんか、小さくなったんじゃあな~い?」と云われた。山でザックを背負っていて余計に猫背になっていたからなのだろうか。 う~ん、そんなことはないはずだけれど…

そんな知床の夜、静寂な冷たいアスファルトの上に座りながら、子どもたちのオタマジャクシ救出&飼育作戦などの楽しい話をした。知床の子どもたちとの生活は、素朴で楽しいようだ。
やがて、一匹の外ネコが遠くから愛想よくやってきて、ぴょこんとぼくの膝の上に乗ってくれた。
愛猫の"ちゃちゃ"に会いたいなあ、、、会いたいなあ、、、会いたいなあ、、、
きゅ~んと切なくなり、知床の夜は更けた。


知床の仔ギツネ


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