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岡谷市と共に、移住パンフレットをデザインした経緯と意図/オオキヨウ

閉所恐怖症を抱えながら、UIデザインとグラレコを軸に何とか生きている者です。

長野県の諏訪湖の近くにある岡谷市。
その岡谷市で2019年に実施された「古民家巡りツアー」をきっかけに生き方を考え、市の職員さんと知り合い、移住者向けのパンフレットをデザインする機会をいただきました。

今回はパートナーと2人でデザインをしています。

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短い期間での活動ではありましたが、要件のヒアリング/スケジューリング/素材の撮影/記事の取材/デザイン提案まで一貫して取り組むことができたので、制作意図を言葉にしています。
地域の暮らしに興味を持った方に響けば嬉しいです。

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■きっかけからデザイン制作まで

移住検討中に参加したツアーの記録を、ラクガキでまとめていて、これをきっかけに今回イラストの依頼をいただきました。

初めての土地で知り合いが増えたことが嬉しくて黙々とラクガキにしていました。

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当初は移住者向けパンフレットの「表紙の絵だけでも...」というご依頼でしたが、岡谷の方々には諏訪地域に関わるきっかけのサポートで非常にお世話になっていたので恩返しの気持ちで「トータルでデザインさせて欲しい」とお願いしたところ、表紙合わせてA4サイズ4枚分のデザインをさせて頂くことになりました。

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まずはじめに、①表紙 ②移住の決め手になる要素 ③地図 ④アクセスや補助金等という4枚の大まかなイメージを岡谷市の方からいただきました。

これとほぼ同時にこちらで考えていたものは、20代後半~30代をメインの対象に「人を中心に場所の良さを伝えたい」という案。
(まだ家を購入してない人に響くだろうという仮説故です)

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自分の移住検討時に、いくつかのパンフレットを収集していましたが、町の人の生活や顔が見えるもの以外は、いまいち印象に残らず、しばらくしたらほとんど捨ててしまいました。

ですが、自分が受け取ったパンフレットの中で、下諏訪のパンフレットは現地の人の声や暮らし、移住までのステップが想像しやすい内容になっていて、その後「実際に行ってみよう」と決心したきっかけになっていました。


自分たちが長野に関わることを決めた経験とも照らし合わせて「現地の人たちを知ること」や「現地の人の言葉で地域を伝えること」が大事だと岡谷市の方にはお伝えしました。施設や補助の紹介だけでは地域の面白さは伝わらない、と。

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また、「なぜ、補助があるんだっけ?支援があるのはなんでだっけ?」という問いを意識し、「お金あげるから、移住してみなよ」という移住をゴリ押す形にはしたくないと考えていました。(これはCODE for Japan Summit2020の湯川カナさんのセッションをグラレコしてフムフムと納得していたことです。)

補助や支援のその先にあるのは、新しい人との交流で、自分がパンフレットをデザインをする理由は「地域に興味のある人・面白がってくれる人に、より深く諏訪周辺に関わり始めて欲しいから」「なんならいつか一緒に長野で遊びたい」という想いをずっと持っていました。

こんな想いで提案のやり取りをしながら「やはり他の地域にアクセスしやすいことを強調したい」という強い要望を踏まえ、地図を中心にグラフィックを作りながら出来るだけ人や言葉を入れ込む方向を目指しました。

しかしその後、怒涛の修正が始まります。



「ブランディングの中心であるイルフの話を入れて欲しい。」
「製糸産業の発信地であるシルクファクトリーの情報を追加して欲しい。」
「 松本城・善光寺・桜・桃、白鳥・周辺の情報を全ての写真を盛りこんで欲しい。」

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A4が4枚しかないパンフレットはあっという間に、要望の写真やテキストでいっぱいに。この内容が興味を持ってくれる決め手になるだろうかと…少し頭を抱えてしまいました。要素が多い…!どのようにまとめていこうか...

■観光案内と移住案内は混ぜない

「精密機器の製造が盛んなので、ものづくりの現場の写真を入れたい」という要望を受けたときは、きちんとコンセプトに立ち返ってお話をしました。
「人を中心に場所の良さを伝える。」「移住や新しい生活スタイルに興味のある人たちにとって重要な要素はなんでしょうか。」といった質問を投げかけつつ、ちょうど良いポイントを相談させていただきました。

地域の情報が網羅されているパンフレットはすでにあったので、それと同じように情報を盛り込むよりも、生活を予感させるものに要素を絞ることに気をつけました。

■自分で調べて自分で作ることで、もっと地域を好きになる。

今回デザインに盛り込む要件をヒアリングして、写真素材や言葉を得るために足を運んだ場所がいくつかあります。

冬季閉園最終日のやまびこ公園(http://yamabiko.okaya-park.com)に訪問した時は、道が紅葉に色づいており、人も疎らな展望スペースで諏訪湖を眺めながら、しばらく芝生に座り込んでました。
気がすむまでボゥとしていたい場所で、横になって寝ている人もちらほら。

「載せて欲しい」と言われたものの、写真だけではピンとこない場所がありましたが、実際に行ってみると岡谷の人が「ぜひおすすめしたい」と言う理由に納得します。
今回掲載した場所全てに足を運ぶことはできませんでしたが、
いくつかのスポットは、実際に訪れ、魅力を浴びてから、「確かにこれは載せておきたい」と納得して最終案に盛り込めました。

「これ作って。」「うーん、わかりました」というような、単純な制作会社としての関係性とは違い、自分たちなりの関わり方を今後もできたら嬉しいと思っています。

また、取材という目的でありながら、魅力を掘り下げていくと、もっと地域に愛着が湧くのを実感しました。

地域に興味がある人に取材してもらって、デザインや記事にまとめて、地域をより深く知ってもらう。様々な地域にも同じやり方でファンを増やせるのではないでしょうか。

■「会社の仕事」と「地域の仕事」の振り子の関係が丁度良い。

自分は普段はメーカーのインハウスデザイナーなのですが、プロジェクトの規模が大きく、デザインの関わる余地はプロジェクトのほんの一部だったりします。
「ここまでが君の仕事ね」という領域の切り分けがどうしても存在しています。

一方地域の人は「これ、困っているんだけど、手伝ってくれませんか」という困りごとをいただけるので、規模は小さいけれど大きな範囲でデザインに関われる気がしています。時には自分の得意なデザインの領域も外れ、自分のスキルを押し広げることにも繋がっています。

今回はきっかけはイラストでしたが、結局写真撮影・記事作成・グラフィックデザイン・イラストと全てに関わることができました。

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「大きなプロジェクトの一部」「小さなプロジェクトの全体」を互いに振り子のように行き来することが色々な気づきに繋がっています。
プロジェクトの二拠点の暮らしも自分の肌に合っている気がしています。

■まとめ やっぱり人と知り合うのが面白い。

最終的にはこんな形でまとまりました。地域の人のコメントを取り入れながら、表紙にのせた言葉も、移住をゴリ押ししない形にしています。

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今回は枚数上の制約がありましたが、また機会があれば、地域の人の生活が知れるような写真集や人物図鑑のようなものを作り、より深く街の様子がわかるといいなと思っています。

と。こんなことを書いているうちに僕の愛する岡谷市のおとなり辰野町では「へんあいじゃーにー」なるものがリリースされていました。こういうのがまさしくやってみたかった..!笑


移住のイベントに参加し、その後デザイナーとして地域に貢献できるという非常に良い機会に恵まれました。
今回は岡谷市の方々とやりとりをさせていただきましたが、特に地域の境目を決めずに「このあたりの地域をもっと深く愛する」ことをもう少し自分なりに見つめてみようと思っています。

もしどこかでパンフレットを見かけた方がいましたら、是非一度手にとっていただければ幸いです。

おわり。


詳細は岡谷のwebサイトからpdfもダウンロードできます。

ありがたいことに、信州地域デザインセンターさんにもコラムで紹介してもらいました!嬉しい。


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