if バリー・ジョンソン

アシュラ2020公演応援特別企画
~if バリー・ジョンソン~

「全て終わったわ。」
「ご苦労。バリー、伊丸岡隊と共に帰還せよ。」
「りょーかい。」
終わった。全て終わり。短い時間だったけれどこれで全て終わり。
反政府組織アシュラの壊滅。本部施設の制圧が完了した。

新生人種対策部隊の詰所に戻っても、皆、一様にその表情へ冴えない。当然だろう。何人殺した?何人の子供を殺した?本当に新生人種なのかさえ分からない者まで入れて、
何人殺したんだ。
一人で、家族と、恋人と以前と同じ様に生活を送れるのか。自分の子供が産まれた時、どんな顔をしたらいい?

そして俺はいつもの様に、、、。
「やめろ、秋生!」
「榊君、何をするつもり?」
おいおい、待機所の外まで聞こえてるぞ。
まったく、何をやってんだか。
「なーにをしてるの、秋生まる?」
「何って!分からないんですか!?こんな所はもう御免です!毎日毎日、武器の手入れをして人を殺す!」

「こんなの間違ってる!」
このガキが、、、。俺がやるしかないか。。。
「このバカがぁぁぁ!!!」
渾身の右ストレート。決まった。
見事にクリーンヒットだ。
「バリー!」「榊君!」
制止に入る伊丸岡を押し退け、壁まで飛んだ秋生の襟を掴むと立ち上がらせる。
「バリー!」「やめて!」

キムはダンマリか。まぁ、当然だろう。次に手を出せば伊丸岡が必ず止めに入る。新山は、、、ダメだ。
役に立ちそうにない。
「おら、来い!」
秋生の方に腕を回すと半ば引きずるようにして待機所を出る。医務室で手当てをさせるとそのまま強引に詰所から連れ出した。

「新山ちゃん?ちょっと秋生まるの頭冷やしてくるから。哲夫ちゃんに心配無いって言っておいて。よろしくねぇん。」
さて、問題は秋生か。ホント、こいつはいつまで経ってもガキだ。人類全ての不幸を背負い込み、自分で背負いきれない罪を背負う。そうしてこれまで生きて来たのだろう。

「秋生まる?意識はあるか?」
「。。。はい」
死人のような目をして、空返事なところを見ると、到底立ち直れてはいない。
「ねぇ、秋生まる。私達の仕事って何だと思う?」
「新生人種を殺し、その疑いのあるものを殺す。。。」
「そうね。簡単に言えば人殺しよね。」

「でもね、新生人種のような目に見えない力を敵対する旧人類が初めて見た時に感じるもの。それは恐怖なの。人間はね、恐怖に支配されると簡単に武器を持つ。そして、殺す。後には何が残ると思う?満足感?充実感?それとも、、、後悔?」
「・・・・・。」
「あなたの恋人が、、、」

「紗来は!紗来は違います!」
「まぁまぁ落ち着いて。。。マスター、彼にキツイのを。」
「バリーさん、何を!?」
「いいから飲みなさい。一気に、ほら、ぐっと行っちゃいなさいよ。」
ほぼ英語しか聞こえないバーのカウンターで日本語で話しているのは2人だけ。私の特等席。

「バリーさん、これ!ガハッ。」
「よく堪えたわよ、秋生まる。」
こうしている年の弟と飲みに来たような感覚になる。だからここへは連れて来たくなかった。
「あなたの恋人、紗来ちゃんはあなたが殺されたら、どうなるかしらね。あなたが新生人種と旧人類との戦争によって殺されたら。」

「あなたの死に悲観して塞ぎ込むかしら。それとも、武器を持って戦うかしらね。」
「紗来は、、、分かりません。」
「そう、まだそうなっていないから分からない。恋人に武器を持たせては行けない。この負の連鎖は私たちで終わらせなきゃいけない。」
「俺達で、ですか。。。」

「そう。これ以上、武器を持たせてはいけない。」
「随分、身勝手ですね。殺された人達にも家族がいる。恋人がいる。子供がいるかも知れないのに。」
「戦争なんてね、勝手なのよ。きっかけは些細な事。でも新生人種は今、根絶すれば遺伝しない。後には続かない。これが私の持論。」

「あなたの守りたいものは何?」
「俺は紗来と、、、東京を、この国を守りたい!」
「だったら!あんたがやりなさい!他の誰でもない!あなたがやるの!」
「俺が、、、。はい!」
まったく、この子は本当に素直でいい子。こんな子に人殺しをしろなんてバカげてる。でも、この子なら大丈夫。

「随分、いい顔になったな。」
「マスターも人が悪いわね。」

バーを飛び出して行った秋生を見送ると、注文していない酒が来る。
「私には出来なかった。この国はあの子に託すわ。」

後ろでは陽気な音楽に合わせて踊り、歌う人々がいる。酒を飲み、おしゃべりを楽しむ。

「それじゃ。」
私はグラスをあけると店を出る。

「東京も、この国もまだまだね。私には何が出来るかしら。」

ロケットの写真に向かい、問いかけるが答えは無い。ただ、その写真は静かに微笑んでいた。

~if バリー・ジョンソン 終わり~

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