台湾海峡の平和を願う

台湾海峡の平和は、国際社会の平和と安定にとっても極めて重要である。

台湾海峡情勢を巡っては、ペロシ米下院議長訪台後、中国が8月4日から10日まで、台湾を取り囲むように、六つの海域で大規模な軍事演習を行った。11発の弾道ミサイルを発射し、そのうち5発は日本の排他的経済水域(EEZ)に着弾した。現在も多くの中国軍機が台湾の防空識別圏に侵入したり、海峡の中間線を越えたり、金門などの離島周辺では無人機が飛来する事例も急増し、台湾に対する軍事的威圧を常態化させている。

台湾国防部の調査によると、8月に台湾海峡の中間線を越えた中国軍機は延べ300機。わずか1ヶ月の間で、昨年一年間の合計の150倍まで急増したことがわかる。台湾海峡のもっとも狭い場所では、中間線から台湾領海までの距離は約40キロ。台湾側の領海すぐ近くまで、中国軍機の挑発が常態化すれば、中国による封鎖や台湾侵攻が容易になることから、台湾は極度の緊張感に強いられているという。

台湾海峡は国際海峡で、中間線に法的根拠はないが、1949年に国民党が共産党との内戦に敗れ、中国大陸から台湾に撤退した。50年代に米軍が台湾防衛のために引いたとされる。台中間の事実上の停戦ラインとして機能し、長年、台湾海峡の情勢安定に大きな役割を果たしてきた。

この間、台湾の行政行動に中国が不満を感じたとき、中国軍機が中間線を越えることは度々あったが、2016年に蔡英文総統就任後、中国軍機による中間線侵犯が頻発している。中国の「一つの中国」の実現に向け、台湾制圧を目指しているからである。なお、2020年に中国外務省は「中間線などは存在しない」と明言した。今回、ペロシ氏訪台後の演習は、中国が台湾海峡の中間線を事実上消そうとしている動きではないか、と台湾の軍事専門家は危惧しているのだ。

台湾海峡は東シナ海と南シナ海を結ぶ主要航路であり、世界のコンテナ船の5割が通る重要なシーレーンでもある。実際に封鎖された場合、世界経済に及ぼす影響は計り知れない。台湾海峡の平和と安定は世界経済において、必要不可欠な役割を担っている。

台湾海峡のリスク回避のため、蔡英文総統は「民主主義陣営が団結し、台湾とインド太平洋地域の平和を確保する重要性を国際社会に呼びかけ、安全保障対話を望む」と明示した。

(辺野喜 陳 宝来)


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