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No.1152 心の距離

「花粉症」の文字を見たり聞いたりするだけで目がムズムズし、くしゃみが出そうになる人がいるかも知れません。天気予報にスギ花粉の飛散状況が報じられるようになりました。
 
もう四半世紀も前の某地方新聞のコラムに、こんな花粉症に関連する話題が書いてありました。
 
 「化粧して目なし口なし花粉症」(近藤幸子)。花粉症シーズンも佳境。今年の西日本は花粉量が比較的少ないというが、周りには、苦しそうに目や鼻をぐずぐずさせている人も多い▼昨年の春、阿蘇の猿回し劇場に行った。開演を待っていると、演芸場前の通路で、若い女性従業員が客に向かって「コーヒーいかがですかぁ」と呼び掛けている。その声も表情も、見ていて気の毒に思えるほど、ぐずぐずの涙目、涙声、涙顔。客からは「花粉症なのかしら…。かわいそうに…」と同情のヒソヒソ声。だが、コーヒーの売れ行きはいまひとつ。それでも精いっぱいの涙声で「コーヒー、いかがですかぁ」を繰り返す▼やがて、舞台上に男性団員が現れ「今、コーヒーを売っている女性は、実は団員になりたいという見習いなんです。昨日は入場口で一日中、『いらっしゃいませ』『ありがとうございました』の呼び掛けをやってもらいました。今日は決められた数量のコーヒーを売ることが、彼女のノルマ。これをクリアすると、猿回しの稽古に入れるんです」▼途端に、あちこちの客から「コーヒーお願い!」「こちらも一杯」と次々に声がかかった。お客は優しいのである。彼女の涙ぐましい奮闘ぶりを見過ごせないのだ。見習いの女性は勢いを得て、涙声に笑顔も交え「ありがとうございます」と客席を飛び回っていたが、その姿に温かいものを感じた(中略)。あれから一年。くだんの女性は正式な団員になれたのだろうか。花粉症は大丈夫だろうか。できるなら、猿回しで脚光を浴びている姿を一度見てみたい。
 
つい先日、上掲の記事を見つけたので、「阿蘇猿回し劇場」のホームページをさがしてみました。現在、金曜日~月曜日が開演、火曜日~木曜日は休館とあり、コロナの影響を受けながらも、変わらずに営業を続けていることを知りました。
 
どこかに新聞記事にある若い女性調教師の話題はなかろうかと調べたら、2000年(平成12年)4月22日に放送された熊本県民テレビのドキュメンタリー「KKTテレビタミンスペシャル 阿蘇猿まわし奮闘記 ~つきみ・だんご 汗と涙の800日~」という番組がヒットしました。その概要は、

 猿回しの世界に飛び込んだ二十歳の女性。普通の若い女性たちとはまったく違う生活や生き方にとまどいながらも、段階を経て次第に調教師としての顔になり、舞台で喝采を浴びる日までを追う。◆千年もの歴史を持つといわれる日本の伝統芸能・猿回し。阿蘇郡長陽村にある「阿蘇猿まわし劇場」に、両親の反対を押しきってやってきた彼女は、厳しい修行を経て「つきみ・だんご」のコンビを結成するが、様々な葛藤や伝統を受け継ぐ難しさ、「だんご」との信頼関係などに苦悩の日々を重ねる。
 
ということでしたから、既にこの時点で調教師歴3年目の別の女性だったようです。しかし、この先輩も同じ道を通ってきたはずです。見習いの女性もきっと学べることの多い先輩だっただろうと思いました。ゆかしさのまさる二人でした。
 
同じ九州にいながら訪れたことのなかった劇場ですが、心の距離が少し近くなりました。


※画像は、クリエイター・Yuki Hashimotoさんの、「日光東照宮の三猿の写真」の1葉をかたじけなくしました。お礼を申し上げます。