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No.885 もっと光を!

その時、あなたはどうやって過ごしていますか?

強風や台風のために、また地震で電柱などが倒壊したために停電になる事があります。電力会社や、電気工事の請負会社は、それこそ徹夜の対応を迫られることでしょう。その方々の目に見えない献身的なお仕事と努力のお陰で、私たちは生活しています。まさに縁の下の力持ちです。

ある年のこと、台風による停電がありました。その時、私たち家族は、ちょうど晩御飯の最中でした。暗がりの中、カミさんがロウソクを1本探し出して灯しました。

うっすらとした明かりと暗がりの中での食事再開となりましたが、食べ物の色が見えないと、あんなに味気無いものだったかと久々に実感しました。古代の人々にとってはロウソクも無く、月夜を頼りの食事だってあったかも知れません。夜の長さは、いかばかりであったろうかと想像せずにはおられませんでした。

「嘆きつつ独り寝る夜の明くる間はいかに久しきものとかは知る」
『百人一首』53番、右大将道綱母のこの歌の出典は、『拾遺集』恋四・912番です。
「あなたがやって来て下さらないので、嘆きながらたった一人で寝ている夜。明けるまでの時間がどんなに長いか、あなたは知っていますか?ご存じではないでしょうね。」
 
息子の道綱が産まれたばかりなのに、夫の藤原兼家は、もう町の小路の愛人のもとへと通い始めます。申し訳ないと思ったのか、しばらくしてようやく明け方に訪れて来たので、道綱の母は、盛りを過ぎた菊一輪とこの歌を渡しました。待つ身の女の心細さや、嫉妬や憤懣や諦めきれぬ思いが交錯しています。さぞかし、長い夜を過ごしていたのでしょうね。
 
2002年(平成14年)9月の第2回「シルバー川柳」(全国有料老人ホーム協会)には、全国から6,649句もの応募があったそうです。その中の優秀作品の一つに、
「云いすぎてゴメンが云えぬ夜の長さ」
(京都府 81歳 女性)
というのがあり、実感のこもったこの句に感動しました。喧嘩した後悔から、眠れない長い夜を過ごしたことが私にもあります。老婆の心中を、お察ししたくなりました。きっと、相手の方も眠れなかったのでは?

さて、停電したわが家は、食事の後、カミさんの発案で、歌ったり、しりとりをしたりして時間を過ごしましたが、顔を見て反応することが出来にくいこの夜は、面白さも半減し、早々に横になる事にしました。イメージを膨らませる楽しさに、打ち興じる余裕はありませんでした。光は、やはり世紀の大発明なのですね。人の体にも、その心にも。


※画像は、クリエイター・yamamotravelさんの、タイトル「夏を懐かしむ #特別編」をかたじけなくしました。お礼申し上げます。