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No.859 心ゆかしきその人は、今?

「あの人は今、どうしているだろう?」
そんな思いを持たれたことはありませんか?
 
TBS系列のTV番組『そこが知りたい』は、1982年(昭和57年)~1997年(平成9年)まで放送されました。
「世間で起きている事件やトラブルを報道とは違う視点でリポートし、見せていく」
というのが、そもそものコンセプトだったそうです。私が忘れられないのは、その番組で登場した一人の女子大生のことでした。
 
私は、その番組の事を1991年9月4日の毎日学級通信のコラム欄に書いていました。
「TVの話ばかりで恐縮だが、昨夜『そこがしりたい』という番組で思うことがあったので書く。
 お茶の水女子大学生(1年生)のその子は、鹿児島出身。つましく、質素倹約(食費3万円)な生活をしているが、それでも東京では月額12万円かかるという。
 親は毎月13万円を仕送りしてくれるのだというが、容易な業ではあるまい。私が親なら、娘には諦めてもらうより仕方のない金額である。
 彼女は現代っ子というよりも、前時代的で、目立たず、控えめながらも芯の強そうな人であったが、悩みながらも青春を真剣に生きようとする姿が印象的だった。」
 
なぜ、彼女のことが気になったのかと言えば、彼女の一言が今も忘れられないからです。
「私は、生まれる時代を間違ったんです。」
そう言いながら、涙を隠しませんでした。本当に苦しげな表情で話すのですが、どこか雅で嗜みのある風情というか人となりというかに心が惹かれました。
 
鹿児島の名のある進学校で学業に励み、厳しい受験競争を勝ち抜いて掴んだ大学進学です。勇躍東京に出て、将来につながる学問研究に没頭しようという彼女の決意、親御さんの後押しに迷いはなかったことでしょう。
 
しかし、東京での彼女を取り巻く経済環境や彼女の学校生活は、彼女が思い描いていたものとは大きく違っていたのでしょう。歯車が噛み合わずに、空回りしてしまうのです。「カルチャーショック」の波をまともに受けてしまったように見えました。純粋であればこそ、素朴であればこそ、なおさら大きな衝撃だったのでしょう。
 
「希望や大志を胸に、夢に向かって目指すところの研究をし、時には学友と青春を謳歌しながら自己形成をすれば良いではないか。大学生活は始まったばかりだよ。慌てず、騒がず、初心を思い起こし、気持ちを楽にして己を取り戻してはいかが?」
当時38歳の私は、そんな気持ちで画面越しに彼女にエールを送ったように記憶します。
 
それは、私が大学生として上京した際に感じた思いと重なっていたからです。大分から勇躍東京へ出て行った私でしたが、田舎者の劣等感、人ごみの多さ、5月病も追い打ちをかけ、自信喪失しかけていた自分を思い出してしまいました。
 
しかし、大学2年生となった頃、生涯にわたる恩師や学友に出逢ったおかげで、私は、ようやく自分をつかみ、自分の体温で、のびのびと深呼吸が出来るようになりました。何とかなるものですね。
 
「あの人は今、どうしているだろう?」
ちょうど、50歳を迎えておられるはずですが…。


※画像は、クリエイター・RINKO@女子大生のんさんの、タイトル「『絶対に自分に対して嘘をつかないこと』を守ければ、きっと幸せが待ってる」をかたじけなくしました。お礼申し上げます。