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推し、応答せよ。応答してください。

天気予報のお姉さんも、ワイドショーのMCにいじられがちな気象予報士さんも、春一番の名を口にする時期になった。今年は2月のうちに20℃近くの気温に達するかもと言われていて、春を告げる強風が吹く前に季節外れに暖かくなられては、春一番自身も俺の名が廃ると焦りを募らせていただろう。デビューを果たした春一番を、「よかったねぇ!」と全髪を逆立られながら抱き締めてやりたい。

2024年もここまで日が経てば、世の中の推し活に勤しむ人々にも、推しから今年の出演イベントなど何かしらの告知が来だしているだろう。「愛するあの人に会えるのね!」と、お知らせの文言に目を輝かせ、長年会えなかった恋人が帰国する知らせが届いたかのようにときめく人々の様子が目に浮かぶ。

私といえば、推しからは全くなんの知らせもない。もはや生存すら疑わしくなってきて、限られた人にしか見えない存在だったのかと、ありもしない想像までしている。『便りがないのは良い便り』などと宣う余裕は、推しの養分が飢え切った私には無い。


私の推しは、以前の記事で触れた俳優の森下能幸さんである。彼自身は一切のSNSをやっていないので、所属事務所であるザズウの公式XとInstagramの更新を待つしかないのだが、現在されているのは、この事務所の看板俳優の一人でもある、眞島秀和さん関連の出演告知のみと言っても過言では無い。


知る人ぞ知る芸能事務所ではあるが、所属俳優は唯一『孤独のグルメ』をやめたがっているのは主演俳優だとインタビューが時々笑い話にされていたり、石川数正から豊豊までNHKで幅広い活躍をしたりしている松重豊さん。
あのキムタクの大ヒット作で、たった「あるよ」の3文字で圧倒的に人の記憶に残る演技を見せた田中要次さんを筆頭に、山中崇さんや嶋田久作さんや中村靖日さんなど。
顔を見たら「あれでも見た!これでも見た!」となるような、サブリミナル効果持ちの痒いところに手が届く、名脇役俳優揃いの貫禄ある事務所なのである。その中に2023年、この人の存在が私の生きる意味だとまで言わせた森下能幸さんがいるのだ。

森下さんの顔が見たい。見られるならなんでもいい。そんな思いで、午後の時間帯に放送されている本放送がいつだったのかも分からない刑事ドラマの再放送を、小学生の時にウォーリーをさがせ!で培った探索力を発揮して見ては惨敗している。


便利な今は、インターネットの検索窓に『推しの名前 出演情報』とかそれに似たような言葉を入れれば、その日から1週間の番組情報を出してくれる。毎週月曜日に、今週こそはと検索に挑み。出てきた検索結果の1番上をタップしてページを開くと、答えは『0件』という空虚感漂う数字だけがいつも返ってくる。
たまに1以上の意味のある数字が目に入った時、私は細かい情報も見逃さぬように目をカッと見開くのだが、スクロールして出てくる番組名の下に『ファミリー劇場』という、全く聞き覚えのない家族経営の謎の劇団のようなチャンネル名がそっと添えられ、実質0件だとスマホを放り投げるのであった。

まさか森下さんも60代に突入して、好きだと言ってくる女がいると思わなかっただろう。ファンレターを送らせていただいているのだが、3回送った今も信用されていないのではないかと心配している。

「森下さんを主役に!」と考えるのは、日本で最後の作品となった『相席食堂』の旅人に彼を選び、ベトナムへ旅立った津野允Dと私ぐらいのものだと思う。
彼がどんなに自分は脇役なのだと言っても、私の人生においては『最推し』という、主役の座に納められてしまったのだ。面倒な女に見初められた事には本人ながら同情するが、その辺りは諦めて2024年の活動計画の概要だけでも、そろそろ私の叫びに応答してもらえるとありがたい。

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