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真のリーダーシップとは―自己啓発・組織運営に効く文化人類学入門#12

第7章 組織運営文化人類学

 組織を運営して行くときに、何に気づいていなければならないか、特にリーダーが何を心がければならないかを考えます。

組織運営のポイント

 リーダーのビジョンのもと、Revitalization Movement の結果として組織や団体が生まれたとします。ここで、意味・形態論に戻って考えます。

意味・形態のチェック

 第1ステージです。

 組織の士気を高める、あるいは保つためには、形態にだけ着目していてはダメで、意味を考えなければなりません。

 この形態は何のためにやっているのか。そもそも何を目的として始まったことなのか。それをときどきチェックします。

 そして、もし意味と形態のミスマッチングが起きていたら、マッチング回復理論にしたがって、意味と形態を正しくマッチングさせておく必要があります。

形態を少しずつはずす

 次のステップ、第2ステージです。

 意味と形態が正しくマッチングしていたら、ここでリーダーが考えなければならないことは、少しずつ形態をはずすことです。

 たとえば、やり方を細かく決めていたとします。そうしたら、「やり方は各自の判断でよい。目標が達成されればよい」と伝えます。

2種類の反応

 ここで、2種類の反応が想定されます。

 第1グループは、どうしたらよいかわからずに困惑してしまう人たち、第2グループは、イキイキと自分のやり方で組織に貢献しようと考える人たちです。

 第1グループの人たちは、形態がキチンとおさえられていれば物事は進むと考える傾向があります。

 最終的に重要なのは形態でないということに気づくまでに多少の時間を要します。

 場合によっては、新しいやり方への抵抗勢力になることもあります。ですから、上手な提示の仕方が大切です。

 第2グループの人たちは、主体的に動いてよいことに意気を感じ、懸命に貢献しようとします。

 そうすると、リーダー個人の理解の枠を越えて、斬新な、時代を先取りするアイディアが出て来たりします。

 筆者も、20代~30代の若い人たちといっしょに組織運営をやりました。

 主体性を約束すると、新しいアイディアが出てきます。

 中には実現が難しいと感じるアイディアもありますが、多少のことなら目をつぶり、可能な限り実現できるように努力します。

 そうすると、さらに新しいアイディアが出てきます。

出てきたものは叩かない

 ここで大切なことがあります。

 叩かないということです。

 叩くと、次から斬新なアイディアが出て来なくなります。

 逆に、以前よりも士気が下がります。

 なぜなら、主体的にやってもよいと言っておきながら、自分の意に沿わないとダメ出しをすることが横暴に感じ取られるからです。

 仕事を終わったあと、部下たちが一杯やりながら上司の悪口を言う理由の1つです。

リーダーシップを支える概念

 リーダーシップには、文化人類学の大切な概念が役に立ちます。

 受け手志向(receptor-oriented)

の考え方です。

 部下のことを考えているリーダーは、最初、組織全体しての動きが鈍いように見えても、少し時間をかけると部下の信頼を勝ち取って行くことができます。

 逆に、リーダーがリーダーのために仕事をしていると、部下たちが表だけはヘコヘコして、腹の中では軽蔑している構図ができあがります。

 これは、形態だけは部下の顔をして、意味の部分は上司を上司と思っていないということです。

 こういった組織は、士気が低下し、いつか崩壊します。

ホウレンソウの誤解

 ホウレンソウということばがあります。

 部下は上司に、

 報告、連絡、相談

をするようにという意味で使われます。しかし、これは歪曲です。

 ホウレンソウは、上司が部下に要求する内容ではありません。

 上司がイキイキとした組織運営をするために必要なことは、部下が、報告、連絡、相談がしやすい環境を整えるべきという意味です。

 ですから、上から下へでなく、まさに受け手志向の考え方です。

ホウレンソウの非効率性

 ホウレンソウがしっかりできている組織は、効率的に動くと考えがちですが、実はそうではありません。

 まず、士気が下がります。リーダーがこのことに気づいていなければ、本当にリーダーの資質があるかが問題になります。裸の王様です。

 ホウレンソウを徹底したところで、嬉しいのは上司だけです。全体をコントロールできるからです。

ホウレンソウの副作用

 副作用も小さくありません。むしろ、組織全体が病むといってもよいくらい、そのマイナス効果は甚大です。

 第1に、部下が、消極的になります。

 「報告さえしておけばよい」、「連絡しておけば叱られない」、「相談は面倒だけどとりあえずしておく」といった、きわめて消極的な組織になります。

 第2に、上司がリーダーとして尊敬を得ることが難しくなります。

 そうすると、部下の協力を得にくくなります。

 結果、リーダーの頭の中にあることだけで組織全体が動くことになり、ダイナミックな展開も、ラジカルなパラダイム・シフトも期待できません。

 そういった組織は、ものすごいスピードで変化している世界から取り残されます。

ホウレンソウにはおひたしを

 ホウレンソウについて、それほど知られていないことがあります。

 それは、ホウレンソウにはおひたしが必要だということです。

 おひたしとは、

 怒らない、否定しない、助ける、指示する、

この4つのあたまの文字です。

 このことができるリーダーは、部下から信頼され、結果、組織が効率的に動きます。業績も上がります。

 上司が部下に何をすべきかという意味で、これも受け手志向です。

 さらに、こういったビジネス用語もあります。

こまつな

 困ったら、使える人に、投げる、

この3つのあたまの文字です。

 困ったときは得意な人や専門性のある人に助けてもらおうという意味です。

 有能なリーダーは、このことが上手にできます。

きくな

 気にせず休む、苦しいときは言う、なるべく無理しない、

この3つのあたまの文字です。

 部下たちを守る意味を持ったビジネスマナー用語です。

ちんげんさい

 沈黙する、限界まで言わない、最後まで我慢、

この3つのあたまの文字です。

 上司からすれば、絶対に部下にしてほしくない内容です。

かくれんぼう

 かくれんぼうは

「確連報」

「報連相」が進化したビジネスマナー用語です。

 報告が確認に入れ替わっています。

 人間はホウレンソウだと受動的になり、意欲が削がれ、次の仕事につながりません。

 しかし、報告を確認にすれば、部下が、「〇〇をしてみたのですがどうでしょうか」と報告しながら確認する形態になり、自発的な報告になります。

上司が権威的だと部下がケンカする

 「ホウレンソウにはおひたしを」。大切なことです。

 さてここで、少し考えておきたいことがあります。

 あなたの部署で、部下同士の仲が悪いとします。あなたなら何を考えますか。

 ガバナンスが効いていないからでしょうか。ルールがきちんとしていないからでしょうか。そうではありません。

 上司が権威的だと部下同士の仲が悪くなります。

 ですから、部下同士がケンカしていたら、上司は、自分が権威的になっていないかをチェックする必要があります。

 また、組織や集団が閉鎖的だと、部下が共食いを始めます。

 組織は、一定のガバナンスが効いていながら、ある程度、風通しの良さが必要です。

 そのほうが、士気が上がります。

 未来的柔軟性

 報連相は、文化人類学的に言えば、時代遅れです。

 めざすべきなのは、個々のメンバーが、その持っている才能を活かし、伸び伸びと仕事ができる組織です。

 殻を破って行くこともできます。

 逆に、リーダーが形態にこだわると、見た目はうまく行っているように見えながら、実態は固定化し、組織として成長して行くことも難しくなります。

 続く ―次回は、組織運営文化人類学の続編です。

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