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国際海洋シンポジウム in 隠岐~世界の大きな問題を小さく地域から考える。~

「世界の大きな問題を小さく地域から考える。」をテーマに、令和5年3月10日(金)-12日(日)にかけて国際海洋シンポジウムが島根県・隠岐諸島で開かれました。2021年より始まった「国連海洋科学の10年」の実現にむけて、海一面に囲まれたこの隠岐で「海洋ゴミ」という地球全体の問題を考え、繋がり、実現していくことが本シンポジウムのテーマです。概要については以下の通りです。更に子ども向けのプログラムも同時に開催されました。その様子はこちらからご覧ください!


【実施日】令和5年3月11日(土)~12日(日)
【開催場所】隠岐の島町・海士町
【主催:日本ジオパークネットワーク・隠岐ジオパーク推進機構】
【後援:日本ジオパーク委員会・隠岐の島町・隠岐の島教育委員会】
【協力:隠岐しぜんむら・隠岐ジオパークツアーデスク】

~国際的な問題を地域から考える。私たちの一歩から、ひとつひとつの繋がりから、世界を変えるムーブメントをこの隠岐で~

Day1-3月11日(土)

プログラム1:リブを通して考える海の現状と今後の日本海について

3月11日(土)
9:00-11:00 隠岐自然館(隠岐ジオゲートウェイ)
 隠岐自然館に迎えたのは島根大学生物資源科学部生物資源科学部 助教の小野 廣記(おの ひろき)先生です。「リブ」とは2020年に隠岐の島町で見つかったウミガメにつけられた名前です。海ゴミに絡まり弱った状態で発見されましたが、今は回復しまた広い海に戻っています。

 そしてこの事例はリブだけでなく、プラスチック誤飲や海ゴミによる被害に海洋生物が苦しんでいるのが現状です。こうした現状がもたらす海の環境の変化と隠岐が面する日本海の未来も考える2時間となりました。

プログラム2:ゴミ拾いマラソン

13:00-15:00 隠岐の島町都万塩の浜
 ゴミ拾いマラソンとは、隠岐を含め現在「日本ジオパーク」として認定されている46地域で協力して海洋ごみを回収、その種類や割合などを分析しようという取り組みのことです。今回は第一回目として国際海洋シンポジウムのプログラムとして行われ、海岸近くの植木や建物なども広く見渡しながらゴミ拾いが始まりました。

 約2時間のゴミ拾いの結果、大型のゴミから小さなゴミまで合わせて計量すると約350㎏との数字が出ました。流れついたゴミの中には一人で持つのが困難な大きな浮遊物や漁業に使われる道具など生活ごみ以外のものが発見されたことが印象的でした。

 海洋環境の悪化を防ぐためにジオパーク内で協力し、「ゴミ拾いマラソン」を真剣に取り組む思いを主催者である我々も改めて感じました。

プログラム3:国際海洋シンポジウム2023

  いよいよ2日間にわたるプログラムのメインである国際海洋シンポジウム2023の始まりです。日本時間では16時-19時にあたる3時間にわたり、現地会場参加とオンライン参加によるハイブリッドで開催しました。世界各地からオンラインで参加した方々も多く、隠岐から世界に伝える一歩を踏み出すことを意味するような光景でした。

Session1:Global Geoparks and Actions Against Marine Debris
16:00 Opening Remarks (主催者あいさつ)
 本プログラムは日本ジオパークネットワークと隠岐ジオパーク推進機構の主催で開催されています。ここではまず、隠岐の島町 町長でもあり、隠岐ジオパーク推進機構 理事長を務める池田 高世偉(いけだ こうせい)さんからの開会のあいさつです。

  続いては日本ジオパークネットワーク理事長を務める古川 隆三郎(ふるかわ りゅうざぶろう)さん。古川さんが市長を務める長崎県・島原市は2009年に国内で初めてユネスコ世界ジオパークに登録された地域であり、現在もジオパークを生かしたまちづくりを進めています。隠岐と島原半島、場所は遠くとも同じジオパークネットワークでの協力の必要性や「国連海洋科学の10年」の実現を改めて考えるスピーチが続きました。

16:15 UNESCO Global Geoparks :Building Sustainable Communities
 次に画面に映ったのは世界ジオパークネットワーク(GGN) 会長、ニコラス・ゾウロスさん。ギリシャ出身のニコラスさんは現在ヨーロッパの多くの地域でジオパーク活動が受け入れられ、実践されていること、またSDGsを基にした自然保護活動の必要性を語りました。またそのためのジオパークネットワークの中での協力が最も良い実践の形であることにも言及し、様々な組織が協力して開催された本プログラムへの期待を寄せました。

16:35  An APGN Perspective:Tackling Marine Debris 
「海洋ゴミについて」
アジア環太平洋世界ジオパークネットワーク ジン・シャオチ氏
 今や隠岐を始めとする海に囲まれた島や沿岸地域では特に海や川の汚染問題が発生しており、海洋ゴミに関するジオパーク活動が増加している現状を話します。

16:45 Manmade Versus Natural Disasters
「人による災害と自然災害について」
日本ジオパーク委員会 委員長 中田節也氏
 プラスチックゴミ排出量の増加は様々な分野に影響を及ぼしており、また分解されず漂い続けることも問題を深刻化させる要因です。中田さんはSDGsの開発目標を引用しながら、問題解決のためには海洋ゴミに関する社会教育を地道にやっていくことが、一つ一つの効果は小さいながらも効果的であると述べました。

17:00 the Case of Shetland UGGp:Remoteness, Litter and Best Practices
  シェトランド諸島は北大西洋と北海の間、スコットランド北に位置するユネスコ世界ジオパークです。ここではその強い海流によってはるか遠くから運ばれてくる海洋ゴミに悩まされています。地域住民と協力したゴミ拾いや調査の様子が共有されました。

17:25 the Lanzarote and Chinjio Islands UGGp: Underwater Treasures f Geological Interest
 スペインのカナリア諸島にあるランサローテ島・チニホ列島は火山地形が由来となって形成されているジオパークですが、今回取り上げたのは海底にあるジオサイトについてでした。地上ではなく海底にあるジオサイトは管理の難しさゆえ、ダイビング資格を持つ地元住民や組織の手助けが不可欠であると述べられました。


Session2:Activities by Youth in Geoperks
18:00 Youth presentation:Possibilities for Ocean Plastics
「海洋プラスチックの可能性」
隠岐島前高校生4人

 海洋ゴミを問題視し、解決のために動いている高校生4人も今回発表してくれました。隠岐での海洋ゴミの影響やゴミの廃棄の状況を話すとともに、その解決に向けて行った海岸清掃やワークショップを発表しました。

18:15 Youth presentation:Let's beautify the coast of Ama Town!
「海士町の海岸を美化しよう!」
海士中学生6人

 海士中学校の総合学習では海洋ゴミ問題を学習する時間があります。そこで生徒たちは漂着ゴミアートを作ることやポスターを掲示することで海洋ゴミへの意識を高めてもらうための活動をしていました。更に小学生など彼らより下の世代に伝えることを大切にしながら身近にある問題へのアプローチを続けていきたいと話しました。

18:30 Youth presentation:Great Operation to Save the Sea -Efforts for SDGs by Kinjo College
 白山手取川ジオパークがある白山市の大学、金城大学からSDGsをテーマにした活動報告です。ここでは特に色がついた海洋プラスチックごみを使ってアクセサリーを作り、販売することで再利用を促進しています。この活動は少し前から開始し来年度に繋げていけるかも課題の一つだそうです。これからの活動にも期待ですね!

18:45 Video Message from Geoparks Around the World
エンディングムービーということで世界中のジオパーク関係者からのビデオメッセージが届きました!

18:55 Closing Remarks(閉会のあいさつ)

 約3時間にわたる長丁場でしたが、国際海洋シンポジウム2023は無事閉幕を迎えることが出来ました。多くの方々の力添えなしにはできなかったことと思います。ご協力いただいた全ての方々にこの場を借りて感謝申し上げます。本当にありがとうございました!

Day2-3月12日(日)
プログラム4-島前フィールドワーク 海士町

 今回現地参加してくれた参加者の皆さんは県外からはるばる隠岐にお越しくださった方々ばかりです。国際海洋シンポジウムがおわった2日目は、せっかくなので隠岐のことをより知ってもらいたいと「島前フィールドワーク」を開催しました。講師として隠岐しぜんむらの福田 貴之さんが全体の案内を務めてくださいました。今回訪れた場所は隠岐の人気スポットであることもありますので、是非参考にしてみてくださいね!

明屋海岸
 
ハートの空洞がみえる岩(屛風岩)があるとして有名な明屋海岸は海士町随一の海岸景観を誇る景勝地です。夏場は赤い壁と青く澄んだ空と海のコントラストの美しさに多くの観光客が訪れ、島民にはキャンプ場がある場所としても親しまれています。

明屋海岸の岩場を進む参加者たち。

 そして海士町に広がる平野は約280年前に明屋海岸が位置する湾口から火山活動が起こったことによって形成されました。本来は広く平らな土地があることはカルデラの外輪山の成り立ちをしているため難しいことです。今現在も海士町に水田が広がるのはこうした火山活動の賜物なのです。

風呂屋海岸
 
海士町がある島前地域では島民が清掃を心掛けても拾いきれないほどの漂着ゴミが日々やってきます。御波地区にある風呂屋海岸は夏場は海水浴場として開かれる場所ですが、漂着ゴミが流れ着きやすい場所でもあります。

隠岐しぜんむらの福田 貴之さんが話をする様子。

 しかし漂着ゴミが外から流れてくるからといって、島内のゴミに意識を向けないわけではありません。ちょっとポイっと捨てたゴミが、分別を間違えたゴミが、同じようにどこかの海岸に流れ着いているかもしれない。目の前に海が広がるからこそ海洋ゴミの意識を持って行動することの大切さは、島民から学ぶことでもあります。

泊まれるジオパーク拠点施設 Entô
 海士町の港・菱浦港へ入港する時には必ず目にする島の新たなランドマーク Entôは、2021年7月にオープンしました。1971年に創業した国民宿舎・「緑水園」から始まり、1994年から「マリンポート海士」として歴史を繋いできました。そして隠岐がユネスコ世界ジオパークに認定されてのち、ジオパークを軸とした観光の形をつくるためにジオパーク×観光を目指したEntôがリニューアルオープンしたのです。

 'Seamless(繋ぎ目がない)' 'Honest(正直に)' を大切に、Entôを訪れた全ての人にジオパーク活動を伝えるための展示室(Discover room)での解説やガイド活動が日々行われています。我々隠岐ジオパーク推進機構の職員も数名が在中スタッフとして勤務をしています。

海に向けて建つ Entôではジオパークならではの雄大な自然を存分に味わえます。

プログラム5-島前フィールドワーク 西ノ島町

 次にフィールドを移したのは海士町と同じ島前地域にある西ノ島町。島前地域の3つの有人島の中では一番人口や面積が大きく、漁場に恵まれ古くから漁業の町としても知られてきました。

摩天崖(国賀海岸)
 
摩天崖は西ノ島町の北西に位置し、島前カルデラの外輪山の外側にあたります。その眼前に広がる圧倒的な自然と、放牧地ともなっているためのんびりと歩く牛や馬が見られることも魅力です。

馬が放牧されている様子が写真でもみることができます。

 ここ摩天崖が出来るまでには途方もない時間がかかったとされており、また現在も形を変える景勝地でもあるのです。カルデラができた当初は今の様に崖が直角に切り立っておらず、なだらかな斜面であったと考えられています。しかし今も変わらず隠岐に吹き付ける北西の強風は長い時間をかけて外側の山肌を削り続けたことで、今のような切り立った地形に変化していったのです。

国賀浜(国賀海岸)
 そして5分ほど摩天崖を下ると見えてくるのが国賀浜(国賀海岸)です。粗面玄武岩~粗面安山岩の白・赤・黒のコントラストが特徴的なアーチ型の岩は通称・通天橋とも呼ばれています。これは日本海の激しい浸食(海蝕作用)によって形成された造形であり、他にも海食洞や奇岩をみることができます。摩天崖同様、今も北西の強風にさらされることでゆっくりと削られ、形を変えています。

右手にみえるアーチ状の岩が通称・通天橋。

離島

 ここで国際海洋シンポジウムとそれに伴う全プログラムが終了となります。島後(隠岐の島町)から飛行機や船など様々な交通手段で参加してくださった皆さんが無事に旅立ち、安堵の気持ちでいっぱいです。

フェリーから手を振ってくれている参加者の皆さん。

 本土からは少し行きにくい場所だったかもしれません。しかしだからこそ見れる景色と守らなければならない自然環境があると我々は考えています。これからも隠岐ジオパークをどうぞよろしくお願いいたします。ここまで読んでいただきありがとうございました!