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具現化の具




何年も前の話だが、
千原せいじさんの
「がさつ力 」
という本を読んだ。


私の中学生の頃に感じていたことと全く同じだった。

思えばあの頃は
叶わない夢などなかったと思う。



当時、キラキラの中学生だった。

クラス目標は

統一

イカれた武士だった。



でもこの暴君、
わたしの心のカギカッコには
こう書かれていた。


(文化祭で陰な男子に私のスカートを履いてもらい、女子役を担ってもらうこと)



これが統一に秘められた最大目標だった。



文化祭の乱

この一揆が起こるのを心待ちにしながら、
民主主義のクラスの民を裏からじわじわ誘導することにした。


あの頃の私はいうなれば
一流商社の採用担当でありながら多彩な営業マンだった気がする。
管理部の課長級の役職を担える頭を持っていたと思う。

勿論例えの話。

要するに
学生でいうところの
陽キャラ階層上位人物だった。

怖いものなど
恐れるものなどなにもない。


統一の旗のもと

この1学期にかけてみよ


いざ、ゆかん!





それは休み時間から始まる。

まずは陽と陰の男の子たちの会話を聞く。
何が彼らの心にヒットするのかを
徹底的にリサーチする。

そしてあえて授業中に
それらで得たワードを時折かすらせながら発言をする。

こうすることで
今までの彼らの話の種が
私の声で一旦録音されることになる。

するとどうでしょう。

不思議なことに
彼らだけの時間に私が入り込むことができるのだ。

時折目が合うようにもなる。



第一関門突破。





次は同じ班の陰な男の子を笑わせることに徹底する。

給食時に両者飯が食えないほど
ボケ続け、
彼らのシニカルなツッコミ力を引き出す。

するとどうでしょう。

さん付けだった名前は
いつしか呼び捨てになった。

あだ名のつけあいで誘いこむ。
彼らに愛称をつける事が目的ではない。
私を思うがままにディスれるような雰囲気を手に入れることだ。

牛乳を吹き出して笑う彼らはこの班の主役だ

大人になって参加する飲み会より100倍楽しかった。

盛り上げたいターゲットの重みも積み上げる期間もまるで違う。


少しずつ少しずつ、歩み寄る。

なんとなくクラス全体の
"友達のライン"が
やんわり緩み始めていくのを感じた。



第二関門突破。


※1学期は割と短い。巻きでいくことをお勧めする。












2学期。
1年間のなかで一番長い学期。

そして大イベントが待っている。

いざ、勝負!!

と、その前に
この戦に備え鍛錬しておかなければならないことがある。


〜夏休みの課題〜

その1、夏休みに男子に借りた漫画を読み、共感できるようになっておくこと。

その2、高校野球を欠かさず見ること。陽の男子に協力してもらうためだ。

その3、女子ウケも外さぬよう、キッズウォーと北風と太陽を見ておくこと。恋心もあることを知らしめなければ、女子道に至ってはくぐれない関門も時にあるからだ。


その4、先生との信頼のため新旧ビーバップを見ておくこと。
これだけでいい。
あとは親ウケしてもらえるような距離をこちらが保てばいいのだから。
一番簡単な人たちだ。


これで夏休みの宿題は完璧だ。
どんな教育カリキュラムよりも巧妙な気がする。

こうして準備万端で2学期が始まった。


早々、男子に借りたRAVEの読書感想が功を奏し、
技術の授業で作る鍋敷きに至っては男子がほぼ作ってくれた。

前髪を焦がそうもんなら、
はんだこてもやってくれるようになる。

なんてラッキーだ。

1学期のちりつもが効いてきたのかもしれない



2学期にもなると個々の個性がクラスの立ち位置を決めていく。

自分の輝ける場所を各々が理解し始める。

いえば2学期は自分の魅せ方次第で大きく変わる。

それをクラスの雰囲気が理解できれば
もう、リーチ。

運動会の種目決めも
おちょける奴らが勝手に出てきた。

そして

カクヘンが起きた。


絶対出ないであろう運動苦手男子が
こぞって選抜メンバーになってくれた。

いや、雰囲気がそうさせたのだろうがそこに嫌な空気はひとつもなかった。

今までしてこなかった奴が
ウケを狙いにいくのだ。

そこにはがさつで大胆な覚悟がいることを私は知っている。

ウケようがスベろうが
テストで100点を取るより遥かにレベルが高い。

この勇気は
部活で汗を流す姿よりも絶対にカッコいい。




予想通りの展開。







案の定、
種目はビリ続きだった。

しかし、私にとっては圧倒的な優勝だ。

規則正しい彼らの真っ白いジャガーの運動靴は
解き放たれた野生動物のように
その青春をどこまでも自由に
駆け巡っているように見えた。


爆裂に面白い運動会となった。









海物語なら大当たりだろう。





さぁ、そしてお待ちかね。
人生をかけた文化祭がやってきた!!


演目は学校生活

ヤンキー高校生が魔法使いと共にいじめを成敗するという訳の分からない台本だった

主役ヤンキーは私だった。

この日は何をやっても許される。

セーラー服と機関銃、
ビーバップに支配されていた当時の脳みそを活かし、
超ロンスカスケバン女子の衣装を作り上げた。


そして大一番、
役決めの交渉の時。

掃除中に箒をバーに見立て
制服姿でキューティハニーを踊り、

このスカートを履いてくれ

と頼んだ。


恥をかいても爪痕を残すことがなにより大切だ。










運動会で大きく外れた彼らのネジと
毎日の賢明な交渉の末、
クラスの男女ほぼ全員が、
制服をトレードして役をひっくり返すことができた。


私にとってはもうゴールだ

舞台の完成度など興味もない。


棒読み、セリフ忘れ
不服そうな態度
かと思えばまんざらでもないやつ
日に日に苛立ち始める担任

何もかもが面白すぎる

なんなら立っているだけで面白い

いや、
もう面白くないことが面白い



大成功でしかない。






最高の文化祭となった。














こうなればフィーバー。


この後の学校生活など
何をしても面白いに決まっているからだ。



初めは蔭口ばかりだった男子が
ケラケラと陽気に私に悪態をつくようになった。

初めは無視ばかりだった男子とも
箒でチャンバラをするようになっていた。


最後は私が掃除道具箱にいれらるオチも
先生すら止めない。


そのまま帰りの会が始まる。


先:はい、以上。終わり!

気をつけ、礼〜!

全:さよなら〜!



私:おーーーーーーい!終わるなーーーーー!
あけろー!




全:ハハハハハ!




最後までボケてくれる先生も
今となっては中々いないのだろう。
















笑いしかない3学期。
笑うしかない日々。













私の望んでいた空間。







私の思い描いた世界は
こんなに面白かったのか。

これが一生続いてほしい。

私は中学校の3年間を
こんなことに費やしていた。

だからか、
勉強する暇が1分もなかった。







根拠のない自信しかなかったあの頃。

今でも思う。

不思議だが
3学期がこうなることを
夢ではなく
現実ではっきりと初めからイメージ出来ていた。

何故だかわからない。

ただ、叶わないものはないと本当に思っていた。











恐らく、

想像を創造する人間になるためには


自分が思う周囲より
もっと大きな周りからぐわっと巻き込む力と

そこに多少のズレがあったとしても、
叶えられた時に感じたい感情を
叶えていくその過程でちまちま感じておくことが
大事なんじゃないかと思う。



そして
絶やさず思い描き続ける想像と
荒波のような創造性は


圧倒的な"がさつ力"の
その中にあるのだと


そう思っている。

oki

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