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『めぐりあい』

トランスジェンダー女性俳優モノローグ(一人芝居台本)

『めぐりあい』本文

作:奥村ひろ

ある夏のことでした。
真夜中に散歩をしていると、小さな女の子が、公園の砂場で泣きながら山を作っていたんです。
砂場のすみの方でスコップで小さなバケツに砂を入れて、真ん中に作ってある山にバケツをあける。
またすみっこに行く。バケツをあける。
そしてスコップの背中でペタペタ山を固めていく。
ずっと泣きながら、女の子はそれを繰り返していました。

私は何か話しかけようと、砂場に近寄りました。
よく見ると、その子は少し大きいサイズのワンピースを着た男の子でした。

パパやママはいないの?
何で山を作ってるの?
どうして泣いてるの?

何を聞こうとしても、その子を悲しませるような気がして、思わず「素敵なスコップね」って声をかけました。

そうすると、その子は泣きながらこう答えたんです。
「僕は男の子だから、強くなくちゃいけないんだ」って。

「可愛いワンピースだね。おばちゃんにはあなたは女の子に見えるけどなぁ」と言うと、
一瞬嬉しそうにこちらを見て、
「でも、僕は男の子だから、お姉ちゃんが遊んでくれなくても泣いちゃいけないんだ」って。

「へえ、お姉ちゃんのワンピースなのかな。よく似合ってる」微笑みかけると、
また嬉しそうにこちらを見て、
「保育園の帽子は青よりも赤がよかったなぁ。青も好きなんだけど、かなこちゃんとまきちゃんが赤だから同じがよかったなぁ、がっかり」って。

「ねぇ、強くなりたい?」
聞いてみました。

頷いたんだけど、そんなのは本心じゃない。
泣きたいのを我慢して、強がってるだけ。

私はその子の目を見て「男の子も女の子もたくさん泣いていいの。男の子も女の子も強くてもいいし、弱くてもいい。分かった?」と言うと、目を開いて固まってました。

そして、首に下げた小さいポーチから、指先ほどの水晶玉をとりだして見せました。

「はい、これあげる。強くなりたくなったら、この玉をおへその少し下にあてて、目をつぶって『私を強くして』ってお願いするの。そうしたらだんだん勇気がわいてきて、強くなれるから」

第2チャクラという言葉は伝えられなかったけど、うん、丹田という言葉も…
でも、上手く当てられてた。こうやって目を瞑ってました。

しばらくすると、その子は泣き出しました。
さっきまでとは比べものにならないくらいに、おおきな声を出して。

「もっと泣いていいよ。たくさん泣けるのは強くなった証拠だから」
その子を抱きしめて、私も泣いていました。

実は私自身、その水晶玉を手渡した時から、すごく悲しくなってきていたんです。
もう周りもあまり見えなくなっていて、寂しくて悲しくてずっと泣き続けました。
気がついたら、砂場で一人丸まって横になっていました。
辺りが明るくなり始めていたのを、今でも覚えています。

子どものころ、知らないおばさんから貰った水晶玉。
泣いている私に「大丈夫だよ!」って、手に握らせてくれました。
それをあげちゃった。
これがないと、私は勇気も出ないし、強くもなれないのに。

でもすぐに分かったんです。
私はこうして皆さまの前で話せるほど十分に強くなれた。
もう水晶玉は必要ない。
だから、また必要な誰かにあげなさいっていうことだって。

この出来事が、女性として生活している私の「強さ」の源です。

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