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【映画感想】夜明けのすべて

観終わって帰りの電車で書いている……。本当はずっと映画館に居座って余韻に浸っていたかったし、感想を書くためにスマホを開いたりせずにまだエンドロールのなかにいたい、でも書き留めておかなかったら素敵だと思った何かを取りこぼしてしまう気がして電車から降りたいまもうちに帰らず最寄りのファミレスに寄って書きつづけている。エンドロールの映像は言葉にしてしまえばただただのどかな職場風景という感じなんだけど、じわじわと来る。今も思い返して目が潤んでいる。

瀬尾まいこの原作は未読のまま観たので忠実な実写なのかとかそういうことは全然わからない。滅多に観ない朝ドラに深津絵里が出る、動く深津絵里が久しぶりに観れると思って一生懸命観ていた『カムカムエヴリバディ』の1世代目ヒロイン夫婦だわというのとPMSとパニック障害という主題に惹かれて観に行った。

観る前は自分がメンタル不調に苦しんでいた時期があるし生理前や生理中、もはや生理まわりの時期全般不調なので、ふじさわさんとかやまぞえくんとかに何か共感したりしてそれが琴線に触れるかなあと考えていた。でも観てみたらふじさわさんとやまぞえくんは正直ちょっとズレたところのある2人のように感じてそこにはそんなに感情を揺さぶられなかった。

もちろん何か2人を自分に置き換えて苦しい気持ちになるところはあった。例えばやまぞえくんの彼女の様子とか。心配してくれてる、でも彼女はやまぞえくんじゃないからわからない、その視線や行動がやまぞえくんをどんな気持ちにさせるか。辛かった頃の近しい人たちの心配や心配から来る行為がプレッシャーだったこと、応えたくて応えられなくて辛かったことを思い出して胸がぎゅっとした。ふじさわさんが最初の会社をやめちゃうときもそう、本当は助けてといったら寄り添ってくれる人だっていたかもしれないし、いい時の自分を評価してもらえていたかもしれないけれど、そうは思えなくて自分の価値を疑ってしまう悲しさを思い出した。私だってやまぞえくんじゃないからわからない、ふじさわさんじゃないからわからない。メンタルの調子を崩して思ったのは、みんな他人と本当にわかり合っちゃったりすることはないのだ。でもやまぞえくんとふじさわさんの関係はやまぞえくんが言うように「3回に1回くらいは助けられるかもしれない」関係で、それは自分の経験してる苦しさから、相手の苦しみが想像できる範囲が広がっているからかもしれないし、同じ病気じゃなくても目線の高さが同じで、何かしてあげたいのにという優しさに生じてしまう施しのようなものが薄いからかもしれない。

思いもよらず泣いてしまったのは脇をかためる大人たちの存在だ。例えば、やまぞえくんの元上司がやまぞえくんがプラネタリウムの話をしてるところを見ているときの様子とか、社長が変わっていくやまぞえくん、手を合わせるやまぞえくんをみてする表情。役名を忘れてしまったけどふじさわさんとやまぞえくんと働く同僚の女性の、ふじさわさんの差し入れに対する言葉とか子供のインタビューへの答え。そのどれもがとても良かった。歳を重ねるというのは一人一人何かを抱えていくということだ、詳しく描かれるひとも描かれない登場人物もいるけどみんな何か痛みを通過してきたんだなと思わせる。それは辛いことでもあると思う、でもそれは自分が辛かったときにもらった優しさを他の人にまた渡したり、欲しかったけどもらえなかったものを他の人には渡したり、なにも言わずにそっとそのままその人を受け入れて見守ったりすることができるようになるきっかけになることもあると思う。そういう人生の先輩たちがいるのかもしれない、そして自分の辛さもこうして循環していけるのかもしれないという小さな希望がもてる。

そして深刻で苦しいような映画じゃないのも良かった、ちょっとズレた2人、クスッと笑える散髪シーンやこの会社のいいところは?という質問に唸っちゃうおじさん社員3人、恋人になっちゃったりしない2人……。書きながらいまだに泣いている。観たい映画が観れて、それがとても良くて、1人の時間が満喫できてとても良かった。とてもとてもいい日だった。


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