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2つのCircular Economy カンファレンス《前編》

2023年は日本で開催された2つのCircular Economy カンファレンスにオフラインで参加することができました。
1つ目は、京都芸術繊維大学KYOTO Design Labと RE:PUBLIC Inc. 共催の Circular Design Praxis 2023 @京都芸術繊維大学。
もう1つは、新東通信主催のGreen Work Hakuba vol.5 @長野県白馬村。
今回は前編として、Circular Design Praxis 2023から得たポイントを綴ってみようと思います。


Circular Design Praxis 2023
システム移行を前提とした
循環デザインのシンポジウム

日程:2023.08.26(Sat)9:30~17:40,  27(Sun)9:30~17:00
会場:KYOTO Design Lab + オンライン

今回、ご縁をいただき初参加となったこのシンポジウム。なんでも”はじめて”って緊張するものですね。事前に送られた資料をじっくり読んでいると、ムクムクと興味が湧き上がってくるのを感じていました。
まず、非常に大事な目線合わせだと思うので、少し長いですが本シンポジウムの資料の冒頭部分を紹介したいと思います。

本シンポジウムについて
Circular Design Praxis(CDP)は、土地の風土や文化から立ち上る循環のデザインを探索し、それぞれの実践知を創造的に編み上げることで、多元的で持続可能な世界の実現を目指す運動体です。
サーキュラーエコノミーあるいはサーキュラーデザインは、地球温暖化問題や環境汚染問題を解決するための手立ての一つとしてとらえられています。しかし、これらの問題は、資源枯渇や食物危機、地域間の経済格差やその根幹にある人種差別、生物多様性の劇的な減少といったほかの様々なWicked Problem(厄介・意地悪な問題)と複雑に絡み合い、"ecosystem of wicked problems"を形成しています。
そのため、サーキュラーエコノミーへの移行=Transitionは、これまでの線型的な資源フローを循環的なものへと転換するだけではなく、同時に、上の問題群の根底に共通する価値観や世界観を更新することで初めて可能となります。
本シンポジウムは、この移行=Transitionをいかにデザインすべきか、その際の産業生態系やそれを取り巻く制度設計や人材育成はどうあるべきか、そしてこのデザインプロセスを下支えする新たな価値観や世界観はいかに獲得できるかなどについて、それぞれの土地で育まれてきた豊かさを出発点に、ことなる専門性や背景をもつ人達による、地域を越えた協働を通して、人類の存続を脅かすさまざまな機器を乗り越える/乗りこなすための対話と実践(=Praxis)を生み出そうとする試みです。

参加者の皆さんへのお願い
多様な考えや経歴、専門性を持った方々が参加する本シンポジウムでは、超領域的・超セクター的は対話や取り組みを推進することを目的に、参加者の皆さん同士で大いに交流していただきたいと考えていますが、その際、この場の心理的安全性が担保されるよう、他の参加者へのご配慮をお願いします。特に、本シンポジウムのテーマでもある「システム移行」を踏まえ、この場では既存のシステムによって規定され、「所与の条件」として認識されているあらゆるカテゴリー(「個」「事実」「権力」「ジェンダー」「自然」など)に当てはまらない人々や動植物、事物や事象が存在することを前提としたコミュニケーションを図るように心がけて頂けると幸いです。

出典:Circular Design Praxis 2023 ブックレット

Wicked Problemと複雑に絡み合った問題を、心理的安全性が担保される場を参加者全員でつくり、地球の未来についての対話することが必要なんですよね。
そういった意味では、普段活動をしている場を離れ、古の都・京都で考える機会は、木々や川の流れでニュートラルになった感覚でCircularへのシフトをどのようにDesignしていくかについての事例のインプットや対話ができる場であったと思います。
今回は、幾つか深く共感したセッションと、キーワードをお伝えしたいと思います。

カンファレンス会場エントランス

Session Highlights

◎大量生産・大量消費からの脱却
 Speaker:河内 幾帆先生 金沢大学 融合学域 准教授

 ”気候変動の個人的な影響への強い懸念を感じている人の割合は”、アメリカ:71%、フランス:77%、日本:74%である一方、”気候変動の影響を緩和するために生活の上で何だかの変化を起こしたいと思う人の割合”は、アメリカ:84%、フランス83%、日本55%となり、これは16カ国中最下位とのこと。日本人は不安を感じているものの、行動変容には非常に後ろ向きな傾向にあり、使い捨てへの問題意識が希薄であるという現状が伺えると説く。
それは、戦後日本経済を支えてきた”大量生産・大量消費”に由来しているが、このような社会システムの構造的な問題への介入していくアプローチとして、まず、人々の価値観への働きかけが肝要で、これには、認知科学的に意識や行動変容を促すための、観る・感じる・創るサイクルを連続して発生させることがポイントとなる。

◎20世紀の暴力のデザイン
 Speaker:中村 寛先生 多摩美術大学 リベラルアーツセンター教授
物理的・身体的暴力に着目してしまうと暴力の問題の所在を見誤る。
20世紀は「人間」をその他の生命系から切り離したユニットとする認識論や制度が多くつくられ、21世紀もそれはより効率化している。(例:大量破壊兵器、広告と大量生産/消費、印刷技術とナショナリズム、公害・環境破壊、スマホと監視他)私的暴力と構造的/集合的暴力のメカニズムは異なっており、物理的/身体的暴力に着目してしまうと、問題の所在を見誤ってしまう。
21世紀の脱暴力のデザインは、構造的/集合的暴力に対しては短期/長期を使い分け、「予防的、改良的、修復的、治癒的」アプローチで、自然からの収奪を防いでいく。その際には、環境収容力の限界という概念を常に念頭に、制度や慣習行動、語彙や文法、法律や政策を捉えなおしていく必要がある。そして、「人間関係のコ・リデザイン」「非人間との関係をコ・リデザイン」を目指す。

◎縮退と向き合う人材育成
 Speaker:工藤 尚悟先生 国際教養大学国際教養学部 准教授

人口8400人の秋田県南秋田郡五城目町に拠点を置き、人口が減少する日本において、「発展や豊かさはどのような意味を持つのか?」「私たちは何をサスティナブルにするのか?」という問いがぐっと胸を付いたのであった。
「縮退のなかで、健康で文化的な生活を守る為に、どのような人材が必要か?」という問いも、決して消滅可能都市のみの課題ではなく、私たち皆が向き合うべきであり、与えられたシンプルな課題のみを解決する人ではなく、複雑に絡み合ったwicked problemを探索的アプローチで越えていくマルチスタイルのデザイン視点を持つ人材、専門性の階層を越える何かを持つ人材が必要である。

◎Key Words
■ 自立分散
■「中心」と「周縁」
■「消費者」から「循環者」へ
■ 過去:3R時代 → 現在:CE時代 → 未来:アップサイクル都市づくり時代
■ Life Cycle Assessment (LCA)  

基調講演
Speaker:赤間 陽子先生 ロイヤルメルボルン工科大学 准教授

資本主義や工業化に伴い、デザインは近代化を加速させ、持続不可能性を助長してきた。日本では何が「デザイン」と呼ばれ認識されているのかを一度立ち止まって問う必要がある。デザインという名詞が西洋的に用いられていたり、ヨーロッパの工業化の背景に深く起因している、または、デザインにおいて人の属性を強調するスキル、技術的手法や結果を強調していることに起因しているのかもしれない。
新しい技術デザインをするとき、かつてデザインされ埋め込まれ不可視化されたインフラストラクチャ―との関係性を繋ぐ必要がある。このような「デザイン」の分離は、「こころ」を強調することで、自己と他者、あるいは、人間と自然を分離しない重要な世界観を示していくことができる。いくつかの事例や物語から、時間・場所・人を越えて、適応し・再発見し・絆を更新し続ける「こころ」の粘り強さを学ぶことができる。そして、そのような人たちが群島のように存在していることを認識することで、私たちはその島々のあいだの「間」の海を越えていくことができるのだ。

Workshop:アーキペラゴ(群島)のアクティビティ

基調講演の最後に、赤間先生のリードでのアクティビティがありました。
「サーキュラー(完全体の閉じているかたち)ではなく、多元世界のきっかけになる言葉をトレースする。(約15分間)」

参加メンバーの様々なトレース
筆者のトレース

赤間先生のご講演講演のなかで、「こころ」は頭が構築したカテゴリーを崩し、多元性の間に共鳴を感じることができる。とあり、人間を越えた存在を感じるために、学生さんに「土」のある場所に連れて行ってもらいました。
立った状態で眺める土と、しゃがんで土との距離感を変えて見るのでは、全く解像度が異なり、土を構成する様々な生き物の気配を感じ、もはや言葉ではないけれど、こころに浮かんだ生き物たちへ愛おしさのような、敬意のような感情をトレースして絵馬にレイアウト。
感じたままに命の形跡を紡いだ15分、とても貴重な時間でした。

カンファレンスを終えて 

これまで自分では言語化できなかった現代社会への違和感を、アカデミアや実践者、デザイナーの方々の発表から、想像以上のインプットを得ることができました。
ミッションを掲げ活動する最中、ドミナント的な権力の前で無力さを感じることも多分にありますが、人間以外の存在に敬意をもって大切にできる感受性を持ち、力強く未来をデザインしていきたいと思います。
Circular Design Praxisの活動は、このカンファレンスで終了ではなく、引き続き、様々な企業と連携し、これからも続いていきます。
まさにドミナントからアーキペラゴに向けての「出航」です!


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