国立に棲む魔物
アビスパ福岡がルヴァン杯を優勝し初タイトルを獲得してから1週間が経とうとしている。どこかまだ夢の中にいるような、心地のいい高揚感から抜け出せず、この1週間は仕事が手につかなったサポーターもいるとは思う。
普段はスタジアムにカメラを持って行くバックスタンドが本籍の私だが、福岡に帰ってきてみるとほとんど全くと言っていいほど撮ってなかったのには笑ってしまった。それほど国立という舞台、そしてゴール裏の熱狂にあてられてしまっていたんだな、とふと思った。
さて、ルヴァン杯決勝の前日が30歳の誕生日だった湯澤世代の私に、四半世紀近く応援してきたクラブの初タイトルというドデカいプレゼントをくれた長谷部アビスパ。マジでサンキューな。
この1週間の間になぜタイトル常連の浦和レッズ勝てたのかを色んなサッカー評論家が解説している。なので、戦術的な解説はひとまず置いておいて、私はオカルトの面から勝因を紐解きたい。
完全な主観とオカルトとSFを愛で包んだ陰謀論であることは前段で謝っておきたい。
1.福岡の心臓、前寛之のシャドー起用
敵を騙すにはまず味方から、とはよく言ったものでアビスパ福岡サポーターがジャイアントキリングを起こす時のスタメンには毎度サポーターが1番オロオロしている。今回も森山、井手口、前とボランチが3人並んだスタメンに頭を捻りながら国立競技場に向かったサポーターも多いことだろう。
まずは今となっては長谷部アビスパジンクス破壊の狼煙とも思える21シーズン鹿島アントラーズ戦である。長谷部アビスパの代名詞ともいえる4-4-2を駆使して昇格し迎えた強豪鹿島戦。この大一番で長谷部茂利が選んだスタメンがこれだ。
1トップ三國ケネディエブス。
FWに怪我人続出したとはいえそうはならんやろ。なっとるやろがい。のお手本のようなスタメンである。中体連得点王(現CB)を頭から起用する大胆采配だったが、結果この抜擢が大当たりし関川の退場を誘発し1-0で勝利を収めた。俺たちはやれるんだというサポーターを勇気づける勝利となった。
次は神を見た夜2021と呼ばれる無敵川崎フロンターレに泥を塗り込んだあの試合である。山岸、前らがJ1の基準に慣れ始めた夏場。そのスタメンがこちらである。
城後渡のチェイシング大盛セット。
試合内容はもはや語るまでもないが、結果この試合はクルークスのゴラッソと城後の魂が全員に伝播したことで川崎フロンターレの昨シーズンから続く無敗記録を止めることとなった。
2.PKは決まらない
後半9分。
みんな大好きグローリの謎ドリブルから獲得したPK。いくらアジア王者とはいえ心を折るには十分な展開とも思えた。
そして笛。61000人の観客が固唾を飲んで見守る中放たれた大エース山岸祐也のシュートは西川に完璧にキャッチされるのであった。
後に福岡大学OB、識者の永石拓海氏は「あんなんコース甘々の甘ですよ。決めろよ。」と語った。
ただここでへこたれないのがアビスパ福岡。
去年調べの直近5年間のPK決定率がほぼ5割と、丁半博打で失敗したら相手に流れが行く低コスパゲームなので外しても気にしないのである。
見返しても止められた後のゴール裏のチャントの開始が早い。早すぎる。本当に決勝初めてなのか。
ともあれ、これによって大崩れすることなくゲームを進められたのはサポーターの切り替えの早さもあったのかもしれない。
3.「2-0は危険なスコア」
理想的な展開で迎えた後半。
アビスパ福岡サポーターの脳内に存在する記憶が甦る。
「伊 藤 涼 太 郎」
2-0で折り返した後半に3点叩き込み、そのままベルギーに旅立ったオレンジの傑物の記憶がよぎったサポーターによりルヴァン杯決勝の試合中にトレンド入りすることとなったのだ。なんでだよ。
ちなみに伊藤涼太郎は浦和を背負う責任を感じたことがある選手である。よくできてる話だね。
ともあれ2-0は危ない。そしてPKは止められた。
そこで全世界のフットボーラーが思いつきそうで思いつかない解決策を図らずも実践してしまうのである。
1点取り返されて2-1の1点差に調整する。
当然わざとなんかではなく、浦和の得点は明本のトラップ、シュート全てが完璧だった。
ただ、かえって1点差になったことでアビスパ福岡の集中力は最後まで切れることなく初戴冠を決めることとなったというのは過言ではない。
バックス陣が試合後のインタビューで1点差になったからこそアビスパ福岡らしい戦い方ができたという話をしているのもそういった意識の現れかもしれない。
4.鹿島で学んだタイトルへの執着
終盤長谷部監督は小田逸稀を投入する。
後半開始から出場していた金森、スタメンの奈良と合わせると元鹿島所属の選手がピッチ上に3人なり迎えた90分。告げられATは8。
そりゃ内田篤人も中村憲剛も驚くよな。長いよ。
あとは守りきるだけとはいえ地力がある浦和のパワープレーを受け続けると事故が起きかねない。その中で迎えたカウンターのチャンス、金森はコーナーフラッグを目指しCKを獲得した。
鹿島り。2倍盛り。
福岡サポーターから声援を受けコーナーフラッグでボールを守り時間を使う金森と小田の姿を見て、アビスパ福岡が勝ちに、タイトルに執着した戦い方ができるようになったことに感動すら覚えたシーンだった。
J1に残り続けることで、ビッグクラブに所属し、勝つことの意味、勝利への渇望や執着を持った選手がアビスパ福岡に足りなかったものを足してくれているのだと、そう感じた。
5.審判とのなかよし大作戦
ルヴァン決勝を控えた10/28。
アビスパ福岡は2万人プロジェクトと称し一大集客プロジェクトを実施。今シーズン最大集客をした試合でパワー斉唱も虚しく0-4の大敗を喫したのである。
審判の判定に大きく疑問が残るとはいえ、結果内容共に大完敗の試合となった。
試合後のSNSには横浜F・マリノスサポーターから「今日の審判は良くなかったのはそうだけど、アビスパ福岡が審判から離れていった。」という声が見られた。
アジアの舞台を何度も経験しているマリノスはいい審判かどうかということもだが、担当している審判とどう付き合うか、という視点があった。ビッグクラブだからこそ得られた経験というものだろう。確かにあの試合では福岡の選手は主審に詰め寄り、抗議し、肝心なところでとってもらえないという目にあっていた。
アビスパ福岡は学ぶ。
審判と仲良くすればいいんだ。
中村太主審とは相性が悪く、浦和戦担当時の浦和勝率は7割を超えるという。どうすればいい。
その苦悩から生まれたのが主審へのラブソングだ。
ラーララーララーラー中村ふーとーしー
ラーララーララーラー中村ふーとーしー
爆笑した。
相性が悪く、嫌な記憶がある主審にも愛を。
今までのことは全て水に流していいジャッジを。
これがアビスパ福岡の審判との付き合い方の答えだ。
今後も続くかはわからない。ただ、あの瞬間、この歌で福岡ゴール裏から主審への敵意という決勝を戦う上で不純な感情はかなり抜け落ちたように思えた。
最後に
サッカーにはオカルトが多くある。
いや、正確にはオカルトで片付けないと耐えられないような辛い瞬間ばかりなのだろう。
タイトルをとるのに28年もかかった。
クラブがなくなりかけたこともあった。
ライバルクラブからも差をつけられた
4年かけて昇格しても1年で落ち続けた。
それでも2023年11月4日。
俺達の住む街には城後がいて、アビスパ福岡があった。
このクラブをここまで繋いでくれた選手、サポーター、全ての人に感謝を。
これからもアビスパ福岡を応援していれば嫌な思いをすることの方がきっと多いかもしれない。でも、この日、国立競技場で見た景色は一生忘れることはないと思う。
どんなに苦しい時でも心の中にいつもいる。
愛する福岡と共にこれからも。
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