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ごてごての中指

秋晴れの昼下がり、1人でサーティワンを食べる休日も悪くない。悪くない。そう自分に思い込ませる。

喧嘩のきっかけはいつだって小さなこと、ついさっきのことなのに思い出せないくらい些細なこと。小さくて些細なスイッチはいつ誰が押しかさえ分からない。

とにかくあたしはイライラしてた。何に、とかじゃない、とにかくイライラしてたのだ。彼氏がゲームしているのを横目に、私はテーブルの隅でマニキュアを塗っていた。なんかくさーい、そんな声は無視し「ここはあたいの家や!!!!」心の中で叫びながら左手の指たちに可愛らしい色を着せていく。

指の色とは裏腹にあたしの心の中はどんより。右手を塗ろうとした時に、急に「俺がやる!!」と何故か息巻いている彼氏登場。ゲームしとれ、。渋々右手を差し出すと、必死に頑張る彼氏が私の指に着せるマニュアルはお世辞にも綺麗とは言えない。

繰り返しになるが、あたしはイラついていたのだ。でもそんなことで怒るほどあたしは幼くない。だから、ため息を少しついて、「すごい?きれい?」と褒めてほしそうなカレシに一層ムカつきながら「微妙。」とだけ返した。

ご飯を作ってる時だって、あたしがトイレにいる時だって、いつだってそう。この動画のここが面白くて、ねぇねぇ、この人のこのセリフが良くて、これ見た?これ聞いた?ねぇねぇねぇねぇ、、、お前は五歳児か!?!

今は料理してるからあっちで待っててー。後で見るからそっち行っててー。相手がやってることとタイミング、それくらい分かって。イライラ。

あたしが典型的な一人っ子で心狭いから許せないのだろうか、。他の人だったらこれくらい上手く対処できるのかな、。もしあたしがお母さんになって本当に子供に同じことされたら今みたいに怒っちゃうんかなぁ、ちゃんとしたお母さんにあたしなれるのかなんて今から心配してしまう。

あたしがよく見る育児マンガで、妻が休日に家事で忙しくしてる時、1番イラつくのは家事を邪魔する子供じゃなくて何もしない旦那さんだって。子供の世話、大量の家事、プラス旦那の世話、外で仕事をしてる分にはいいけど家ではタスクでしかない。そういうのを見て、絶対これあたしなる。なるわ。確信して、そんで悩んじゃう。

完璧な人なんていないのは100も承知してるし、ロボットと結婚したいわけじゃない。けれど、この人ともしこの先も一緒にいるなら、あたしが怒ってる楽しくない休日が容易に想像出来てしまう。

どうしたらいいのよ、ねぇねぇねぇ。

別に結婚を前提としてお付き合いしてる訳じゃない。けれど、「この人なら結婚してもいい」と思ったから付き合ってる。それがさ、こういう風に一緒にいるの、無理かも…ってなったとき、あたしはどうしたらいい?

話して相談するべき?でも彼氏からしたらあたしのこんな悩みもちっぽけすぎて分かってくれない。じゃあ別れる?でも彼氏は優しいし一緒にいると楽しいことだって多い。

そんなことを悶々と考えながらサーティワンへ二人で歩いてた。彼氏はあたしがイライラしたり、悩んで黙っているのが気になるらしく何度も「どしたの?」「怒ってる?」と聞いてきたけど、悩んでる最中に、こういう因果関係があって何が原因で悩んでますなんて順序だてて言える人ってそうそういなくない、。?

あたしが黙っているのが気に食わなかった彼氏はサーティワンへの道のりの半分で急に立ち止まり、眉間に皺を寄せ少しだけ震えながら

「なんなのその態度、きめえ、うぜえ」

そう言い捨て、どこかの道端で拾ってきたらしい草をあたしにぺって投げつけ、引き返してしまった。

…呆然。


ぷっ。

「きめえ、うぜえ」?     え、あたしに言ってる?


ぷぷっ。

なんだか面白かった。あたしは右手のゴテゴテした爪を触りながら怒りながら家に帰る背中を見送る。道端には投げられた草。頑張って成長したのに急にブチって抜かれて知らん土地にぺってされてかわいそうだな。

なんだかどうしようもなく滑稽だった。人が怒ってるのが面白い訳じゃなくて、笑うしかなかった、それが正しいかもしれない。

あたしも踵を返しサーティワンへ向かった。もうイライラは無くなっていた。今から迎えにいく幸せの味と、これからやってくる二人の未来のことについて考えていた。

多分、2人とも単に短気なだけなのだ。どちらかが許せば済む話だったのは分かっている。彼氏はあたしがイライラしていたらほっとくべきだったし、あたしも彼氏が話しかけているのに答えてあげるべきだった。

分かってはいるけど心に余裕が無い時に人に優しく出来るほどあたしは大人じゃないし、自分のご機嫌取りしかできない。いい意味でも悪い意味でも一人で生きていけるあたしは泣き縋りもしないし、自分のためにサーティワンへ歩く。


付き合ってもう少しで1年くらい経つのに喧嘩したことないっていう先輩カップル、喧嘩したらその日に仲直りするって決めてる友人、彼らを見ていて比べるものじゃないとは分かっていてもあたし達の関係は脆くて本当はあってないようなもんなんじゃないかと思ってしまう。

一見立派な橋のように見えてもその実、ほっそい糸で出来たその絆は、1度どちらかがパチリと切ったらそのまま崩れて無くなってしまうのかもしれない。

喧嘩するたびにこの人との未来はないって思って、別れよう別れようって考えて結局いつも問題を先延ばしにして仲直りを演じるだけだ。上手に仲直りできないあたし達は、上手に別れることもできない。 

あたしがダメだとかあなたがダメだとかじゃない、あなたにはもっと相応しいひとがいるし、あたしにももっと一緒にいたいって思える人がいる。

はぁ〜〜〜〜一年記念日にって予約した箱根旅館どうしようかな。なんて考えながら右手の中指、ゴテゴテのマニキュアを落としてしまうのであった。

おわり。




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