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【読書記録】ひぐまのキッチン

タイトル:ひぐまのキッチン
著者:石井睦美

「ひぐま」こと樋口まりあは、人見知りの性格が災いし、就活をことごとく失敗した二十三歳。ある日、祖母の紹介で「コメヘン」という食品商社の面接を受ける。大学で学んだ応用化学を生かせる、と意気込むまりあだったが、採用はよもやの社長秘書。そして、初出勤の日に目にしたのはなぜか、山盛りのキャベツだった。
(書籍裏面のあらすじより引用)

※以下感想です。ネタバレに配慮はしていますが、心配な方は引き返してください。

短編の連作で構成されており、主人公の樋口まりあが「コメヘン」という食品商社に入社するところから物語が始まります。
この会社には社長秘書が来客に昼食を振る舞うという独特の習慣があり、入社するまでロクに台所に立つことのなかった主人公がその度に右往左往する様には中々にハラハラさせられました。

そんな可愛らしいハラハラの傍ら、食事をきっかけに零れる来客たちの思い出がじんわりと温かい気持ちにさせてくれます。
それぞれの短編を読み終わった後は、格別に美味しいホットコーヒーをゆっくりと時間をかけて飲み終えた後のような清々しい満足感がありました。

現実世界でも友人や親戚、上司など身近な人がふと零した話が人生の糧になることは誰にでも起こり得ると思いますが、この本はそういう類の「地に足のついた静かな感動」を与えてくれるなと感じます。
ジェットコースターのような展開で涙がボロボロ零れるような感動巨編も良いのですが、最近少しお疲れ気味だった私にはこの本の優しさが大層染み入りました。

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