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ハイテックハイのベテラン教員ジョンに学ぶプロジェクト型学習②

さて、忘れた頃にこんにちは。4月に行ったプロジェクト型学習(PBL)勉強会のレポート記事です。前回はハイテックハイ(以下HTH)の現役教員であるジョン・サントス氏から、「HTHではなぜプロジェクト型学習(PBL)を行っているのか、これからの教育に求められるものとは何なのか」というテーマでお話いただきました。今回は、PBLを効果的に行うためのポイントについてご紹介します。

※HTHのPBLとは、プロジェクト型学習を指します。課題解決型学習との違いについてはこちらの記事をご覧ください。



プロジェクトの到達目標や全体像を生徒に伝える

ジョン:次の内容に入る前に、私のメンターから言われた言葉を紹介します。それは、"複雑な指示を与えると、生徒の思考・行動はシンプルになる。指示をシンプルにすると、生徒の思考・行動は高度なものになる"というものです。

さて、従来の学校では、生徒が教室に来て、その日ごとに教員が何を学ぶのかを伝えます。ですから、生徒たちは自分が受けている授業が何に向かって進んでいるのかを分からないままに日々の授業を受けています。
HTHでやっていること、みなさんの学校でやっていただきたいことは、
 生徒に長期的な目標(ゴール)を与えることです。
HTHのPBLでは、まず生徒たちに各プロジェクトの到達目標(ゴール)を伝えます。到達目標、プロジェクトの内容、授業の進め方を生徒たちに説明してから授業に入るのです。(※プロジェクトの内容によっては敢えて伝えない場合もあります。)
生徒たちは自分たちがどんな課題に向かって、どれくらいの時間をかけて取り組むのかという学びのプロセスを知ることによって、"自分が取り組んでいる課題は意味のあるものなんだ"と感じたり、学びのプロセスの中で、自分の現在地はどこなのかを理解しながら進むことができます。


誰でも力を発揮できるように、プロジェクトのに中に多様な選択肢を用意する

HTHでは、プロジェクト設計は教員が行います。ひとつのプロジェクトが向かう到達目標はひとつですが、生徒は自分が興味をもった角度から、多様な役割を選んでプロジェクトに参加できるようにしています。例えば、「環境問題」がテーマのプロジェクトで、そのテーマ自体に興味が持てない子がいたとしても、プロジェクトの途中で"外部の人にインタビューをする"というパートだったら興味を持てるかもしれない。逆に人と話すのは苦手だけれど、記事を書くのが好きな子はグループで学んだことを纏める成果物を創るところであれば力を発揮できるかもしれない。そういった風に、すべての工程に全員が興味があるという状態は難しくても、なにか一つは興味を持てる・力を発揮できるよう、多様な選択肢をプロジェクトの中に用意しています。


小さなゴールを踏んで&改善のサイクルを組み込む

プロジェクトの終わりにひとつの大きな到達目標を設定するのではなく、小さな目標を達成するサイクルを作ることをおすすめします。すべてが終わってからフィードバックするのではなく、振り返り・批評・教員が適切な介入をする機会を、設計段階で予め決めておくことが重要です。できればひとつのプロジェクトの中で3回このサイクルを繰り返すと良いでしょう。

例えば1ヶ月を掛ける大きなプロジェクトの場合、週毎に学習計画を立て小さな目標を設けます。また、振り返り・批評・教員の介入の機会を設けます。
1週目:生徒たちはグループごとに協力してリサーチを行いながらひとつの仮説を作り上げ、レポートを提出します。
2週目:クラス内で各グループのレポートを発表し、クラス内で批評し合い、またグループに持ち帰って議論し、仮説とそれに対するエビデンスの精度を高めます。教員がフィードバックを行います。
3週目:フィールドワークを行いながら自分たちの仮説を見直し、補強しながら、最終的な発表に向けてのドラフトを作成します。
4週目:ドラフトを元にクラス内で批評を通じて、客観的に自分たちの案がどう捉えられるのかを知ります。それを元にグループで成果物の制作に取り掛かります。


最終発表のカタチを決めて、そこから逆算的にスケジュールを組み立てる

プロジェクトの成果発表の機会(成果物)は、プロジェクトの途中で考え始めるのではなく、プロジェクトの設計段階で考えておきましょう。私たちはプロジェクトを設計する段階で、プロジェクトの核となる"本質的な問い"を決めるのと同じくらい、最終的にどのような発表(成果物)にするかを重視しています。

そして成果発表の日から逆算してプロジェクトのスケジュールを決めています。「海洋博物館に生徒が自作したボートを展示し、ドキュメンタリー映像を流す」というプロジェクトを行った際は、博物館での展示の日は決まっていましたので、そこに間に合うようにすべてのスケジュールを組み立てました。


生徒にもプロジェクトのフィードバックをもらう

プロジェクト設計について、教員同士でフィードバックすることはあると思いますが、ぜひ生徒にもフィードバックをもらってください。同僚がいいプロジェクトだと言ってくれたとしても、我々は教員のためのプロジェクトを作っているわけではありません。生徒のためのプロジェクトを作っています。生徒や子どもたちからのフィードバックを受けることは、とても大切です。たくさんのあたらしいアイデアを得ることができ、プロジェクトが成功する可能性が上がります。


PBLを行うために必要な学習環境はどういうものか

これは、私自身一番苦労した課題です。私自身は従来型の教育を受けて育ちました。それはもちろん、静かに教室の椅子に座り、教員の方を見て、説明を聞くというものでした。そういう環境に慣れていたので、HTHを訪れた当初は、教室で生徒が先生の方を向いていないことや、生徒も教員もずっと話し続けていることに戸惑いました。しかし今では、それが本当に機能している学びの場の姿だと思うようになりました。つまり、生徒同士が協働しやすい机の配置や、にぎやかに話し声が飛び交う教室を目指すべきなのです。

学習環境に変化をもたらすことを考える時に、教育哲学や教育手法が大切だと思われるかもしれませんが、学校に構造的変化をもたらすことはとても有効です。例えばHTHではクラス、プロジェクトを行うグループを極力少人数にすることを重視しています。1クラスは22〜25名で、さらにプロジェクトではクラスを小さなグループに分けます。また授業時間が短いと深い学びは生まれにくいので、一つ一つの授業時間は長く設計されています。教員は全体に向かって喋る時間よりも、グループごとの活動を歩き回って観察しながら、必要に応じて適切なサポートをすることが多いです。


教員はどのように協働するべきなのか

HTHでは基本的にほかの教科の教員と共にプロジェクトを設計するのですが、「自分は○○の教員だ」というアイデンティティが強すぎると、柔軟性を欠くことがあるように感じています。プロジェクトをデザインする時は、そのアイデンティティからは一歩引いて、ほかの教員と一緒に、"このコンテンツを教えるため、どうしたら生徒にとって意義のある学びを創り出せるだろうか"ということを考えてほしいと思います。コラボレーションにはいろんなカタチがあると思いますが、大切なのは共通のゴールを持つことです。そのプロジェクトの価値や意味を協働する教員がみな信じているという状態をつくりだすことが大切です。またHTHでは、同じグループの生徒を協働する先生たちが共に担当する、ということで行われています。(日本でいう学年会がもっと横断的に活発に行われているイメージです)一緒にプロジェクトを担当する教員とは積極的にコミュニケーションをとったり、相手のクラスを見学に行って理解を深めるようにしています。

補足ですが、教科横断的なPBLは一見難しそうに思えるかもしれませんが、例えば環境問題をテーマにするならば社会的・経済的な観点から捉えたり、生態系について深めることも可能ですし、解決するためにはITを用いたソリューションも考えられます。学んだことを表現するためにはアート作品の制作や演劇が有効かもしれません。このように一つのプロジェクトに複数の教科を絡めていくことは自然なことで、学びに広がりや深みがでます。

また生徒に求める協働力や改善のサイクルを教員自らが行い、大人がしっかりと背中を見せているところもHTHの素晴らしいところだと思います。

次回、参加者の心に刺さったポイントを紹介したいので、もうちょっとだけお付き合いください。

HTHについてもっと詳しく知りたいと思われた方はぜひ、藤原さと著『「探究」する学びをつくる』を読んでみてくださいね。

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