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PBLってなんだっけ

日本でPBLといえば、「課題解決型学習」をイメージされる方が多いのではないだろうか。地域課題の解決、グローバル市民として地球規模の問題を考えること。

実はPBLには2つの意味がある。Problem based learning(課題解決型学習) とProject based learning(プロジェクト型学習)。
どっちにもどっちの要素があると言えるし、大きく括ってしまえば課題解決型学習もプロジェクト型学習のひとつだと言える。


ハイテックハイのPBL

ハイテックハイ(以下HTH)のいう「PBL」とはプロジェクト型学習を指す。ときどき、「HTHでは生徒が課題設定をするんですか?」という質問をいたただくことがある。その度私はキョトンとしていたのだが、そうか日本では「PBL=課題解決型学習」という認識の方が一般的なのだと知って納得した。

HTHが定義しているPBLとは「生徒たちがプレゼンテーション・制作物を作ってアウトプットするまでの一連のプロジェクトをデザインし、実行することによって得る学び」である。

HTHではプロジェクト型学習の割合が高いとはいえ、プロジェクトの中には課題解決が中心となるものも含まれる。例えば環境科学の授業で「カリフォルニアの砂漠化」がテーマのプロジェクトでは、現状のリサーチ、環境問題の科学的検証、そしてアクション、といった形でプロジェクトが進む。この学年は実際グランドキャニオンに木を植えに行くところまでやったそうだ。

私はもっと、日本でもプロジェクト型学習が広まればいいと思う。例えば高校の3年間、探求の時間がすべて課題解決型学習になってしまうのだとしたら、非常にもったいないなと思ってしまう。だって、課題を解決し続けるってなんか、、それっておもしろいのだろうか? 

もちろん、学校で地域課題や様々な問題を考えることは、とても良いきっかけになると思う。普段意識することのない地域のことにスポットライトをあてて考えたり、地球規模の問題を考えたり、それは貴重な機会だ。

教育は地方創生の重要なポイントになる。「社会に開かれた教育課程を」と文科省も言っている。しかし、子どもたちに「地域の問題を考える」「地域を担う人材になってね」という想いが、強迫観念のようになってしまってはマイナスだ。

「この街は終わりだ。廃れてく一方だ。」大人たちが諦めているのに、「あとはお前たちの世代に託した」と言われても。結局のところ、大人が楽しく、イキイキと生きている街に人は集まり、それが子ども達の帰って来たい場所になるのではないだろうか。

プロジェクト型学習の魅力

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PBLの話に戻るが、PBLを課題解決型学習のみで捉えてしまうと、プロジェクト型学習の持つ魅力が置き去りになってしまう。

プロジェクト型学習の良さは、そこに沢山の想像力と創作が入ることだ。創ること、表現すること。人と協働して作り上げること。その過程は総じて楽しい。

ハイテックハイでは、私が在学していた10年以上前から、ウェブ制作(Flash、Java)、写真編集(Photoshop、3D写真)、動画編集(Final cut pro)の授業があり、授業の中で様々な技術と表現を学んだ。今は3Dプリンターなど更に最新の技術が学校に入っている。そうやって様々な表現技術・手法を学ぶ機会と、アウトプットの機会が沢山あった。

プロジェクトのゴールは、発表だったり、製作だったり様々だった。「かっこいいものをつくりたい」「おもしろいものをつくりたい」。そうやって子どもたちが時に熱狂的に製作に打ち込む時間は、遊びだと思われてしまう面もあるかもしれない。私もHTH在学中、日本の母に「科学でDNAモデルを3Dで作っている」と報告すると、「そんな事よりも化学式を覚えてくれ」と言われた。

しかし、プロジェクト課題を良い形で仕上げようと思えば思うほど、そのテーマに対する理解は深まるのではないだろうか。映画『Most likely to succeed』の中で、文明の繁栄と衰退を大きな製作物で表現するものがあった。いくらデザインセンスや製作技術が高かろうとも、根本の文明の理解がままならなければ良いものは作れない。そして大人になった時も、「かっこいい仕事をしたい」「この事業を最高のユーモアをもって解決したい」そんな風に考え、努力できる人材こそが、これから必要とされると思う。私ならそういう人材を採用したい。

クラフトマンであれ

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HTHには「クラフトマンシップ」という理念がある。美しく、かつ人の役に立つものをつくる。手を動かしてものづくりをする。作り上げる過程では、生徒同士のフィードバックや、授業でのリフレクションを繰り返し、練り上げていく。そのことを通して自分の作品に自信を持ち、他者を尊重し、コラボレーションすることいったことが含まれる。

PBLというのはあくまでも手法であり、その中にはクラフトマンシップ、グロースマインドセット、公平性といったHTHの教育理念が見えてくる。(長くなるので割愛する)また多重知能論でいわれるように、一つのプロジェクトを通して学べることは多岐にわたる。だから教科横断型学習が生まれるのは必然だ。

HTHの教員の仕事とは何なのか

HTHの先生たちは、それぞれの専門家とは限らない。3Dプリンターの使い手が最初から学校にいたのかと言われれば、そうではない。教員も生徒ともに学び、スキルを増やしているのだ。自分の専門外の事は、外部からゲストスピーカーを呼んできたり、地域に赴いて一緒に学びを得るのだ。学びを教室の中で止めてしまわないことは、教員にとっても生徒にとっても刺激的で、より強いインパクトを与える。

HTHの教員の仕事とは、学習のデザインであり、生徒の個性と自主性を伸ばすサポートをすることだ。毎年新しいプロジェクトが生み出される。当然設計した通りにプロジェクトが進まないこともある。そこは常に教員同士でフィードバックし合い、仮説検証を繰り返しながら進む。

日本でPBLを実践するというと、探求学習か総合学習の中に取り入れることをイメージされると思う。「答えのないものを教える」ことに難しさを感じる先生も多いと聞く。最後に、そんな先生方にお伝えしたい。

大丈夫です! ハイテックハイだって最初はカオスの極みでしたよ。黎明期のハイテックハイに通った私が断言します! 
生徒の成長を1番に考えること・失敗を恐れず挑戦すること・仲間と一緒に頑張ること。そうすれば絶対に進化します。やってる教員自身も楽しくなります。探求学習は、うまく設計すれば生徒の自主性を多いに高めることができ、教科学習にもプラスに働きます。だから気嫌いせずに、ぜひチャンスとして使っていただきたいです。


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