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不確定日記(二度会う)

 グループ展に出す作品を作るために、シルクスクリーン版画を自分で刷ることのできる工房に行った。バス停を降りてから、急で細い坂道を降りる。午前十時はもう暑くて、見晴らしのいい坂道は祖父と父の墓のある霊園を思い起こさせるからか、お盆のような気持ちになった。まだ梅雨前で、梅干しも漬けていない。
 工房に着いて、PCを借りて版を作るためのデータを修正していると、Kさんが入って来た。「運命?」と言われる。
 ここ1ヶ月でKさんと偶然会ったのは二度目だ。前は時間が空いて新宿のデパートの地下の化粧品売り場を眺めようと思ったら、接客を受けている最中のKさんがいた。
 工房を教えてくれたのはKさんなので、そこにいても不思議ではないけれど、日程の話はまったくしていない。「えー!」と言い合って、その後はお互い黙々と自分の作業をした。
 四時間ほど作業をして、私は自分の手順が間違ったことに気づいた。四色の版を重ねて刷るのだが、その順番を最初から間違えている。もう、十枚間違えた。せめて完成形を少しでも作ろうと、そこからもう一度やり直し、四枚刷って一枚は使えるかな、という具合で、しかしずっと集中していたので、もうテンションがわからなくなっていた。
どうにか片付けて、刷り上がったサコッシュをプレスアイロンで乾燥させているKさんに、一緒に帰りましょう、と言ってみたが、会計をしている途中で、自分がとんでもなくぐったりしていることに突然気づき、Kさんに「やっぱり帰ります」と言いに行った。
 帰りは当然急な坂道を登る。左の壁を濃くてツヤツヤの蔦がびっしり覆っている。ちょっとびっくりするくらい息が上がったが、誰ともすれ違わなかった。途中に置かれた「ご自由にお持ちください」と書かれた段ボール箱にはアイスペールが見えた。

 バスはすぐ来て、降りるバス停にもすぐ着いた。降りたところの和菓子店でどら焼きとみたらし団子を買い、帰ってすぐに全部食べた。風呂に入ってすぐ眠り、ちょうど午前0時ごろに目が覚め、もう一度眠った。とても下世話な夢を見た。

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