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お焚き上げ

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#日記

不確定日記(フィクションです)

あーちょっと派手だったかなーと自分の体を見下ろす。紫のスカートに赤い靴はやり過ぎだ。これから出かける先はサイゼリヤなのに。どうしてもイカスミスパゲッティが食べたくなっただけなのに。いつもの路地には銭湯の主人が立っている。開店するまでの時間、彼はいつもそこで道行く知り合いを待ち構え、立ち話を仕掛ける。問題は、私たちは明確には知り合いではないというところだ。ただいつもそこを通るので、お互い顔は見知って

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不確定日記(1番遠い体)

メモ帳に残っていたメモ。

ニッパー型の爪切りは歯科医の道具を思わせる鋭利さで、引き出しの中でも威厳がある。刃先に触らないようにゆっくり取り出し、机の長い辺と並行に置く。鑢も隣に厳かに並べる。椅子に深く座り体を出来るだけ深くふたつに折る、足をゴミ箱の縁にかけ、切られたほうの爪が飛び散らないように経験で会得した角度まで斜めに倒し、まずは親指に刃をかける。角を丸くしすぎてはいけない。切られた爪の面積を

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言い分けのスケッチ

ぺちん、と音がしたので振り返った。
明るい黄土色のレンガが敷かれた地下鉄駅の通路には私しかおらず、静かだ。鞄から取り出そうとしていたパスケースを落としたのかと思ったけれど右斜め後方には何もない。鞄を探るとパスケースはちゃんとある。自分の注意力には自信がない。階段をもう少し戻って探すべきだったろうか。何か、どこかが軽くなっている気がするのだけれど。鞄には携帯電話と財布も入っているから、取り急ぎ困るよ

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