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リリカル・スペリオリティ! #28(完結)「エピローグ」

※前回までのお話はこちら


エピローグ


「佐藤サトル・・・いや、サタンはどうなりましたか?」
 取り調べを行っていた上司の小林に聞いた。
「今朝留置場に確認しに行ったら、もう消えてた」
「そうですか…」

 今井桜と佐藤リリカが学校の屋上から転落したのは2日前の出来事だ。
 屋上から華蓮が駆けつけると、佐藤リリカは「さようなら」と言い残し、その場で消えた。
「リリスさん、リリスさん!」
 佐藤サトルが佐藤リリカの居た場所に近づこうとした時、小林が佐藤サトルの腹に一発入れ、気絶させた。
「リリカちゃんは?どういうことですか!?」
 我に返った今井桜は、小林たちが引いたマットの上で取り乱していた。
「今井さん、佐藤さんは…」
 言おうとした時、小林が華蓮の肩を叩いた。小林は首を横に振った。
 デビルズのことを話すな、という意味だろう。
「今井さん、とりあえず、保健室行こう。病院にも行ったほうが良いと思う」
 駆けつけた中村先生に今井桜を託し、小林と警視庁に戻ろうとした時だった。
 渡辺園子が焦った様子で華蓮の元に走ってきた。
「鈴木先生…!?今井さんも、どうしたの!?あれ、リリカは!?」
 渡辺園子は、さっきまでぼんやりしていたのが嘘のように、以前の元気な姿に戻っていた。
 …佐藤リリカは、今井桜や渡辺園子を守るために、身を引いたんだな。
「渡辺さん、ごめん。今は言えないの。落ち着いたら、ちゃんと話すから」
 渡辺園子は目に涙を溜めて、校庭にうずくまった。
 季節外れに咲いていた桜は、花を全て落とし、枯れていた。

 警視庁に戻り、佐藤サトルに任意で取り調べを行った。罪状は「共謀計画罪」。佐藤リリカがデビルズの企みを華蓮に自白したので、その共犯として、佐藤サトルにも容疑がかかった。
 目を覚ました佐藤サトルは、全てを失ったかのように、意気消沈していた。華蓮たちがやっとの思いでひっぱり出した情報は、4つ。

「アクマズは、季節外れの植物を通って人間界に来る」
「アクマズが狙う『人間の欲』に当てはまらない人には、欲を肥大化させても効果がない」
「アクマズは、その役目が果たせない、と判断された瞬間に、消える」
「人間に、『人より優れていたい』という欲がある限り、アクマズはまた私たちの前に現れる」

「なーんか、取り調べした意味あったのかなぁ。お前が命を張って佐藤リリカから聞き出したあれこれの方が、何十倍も価値があったぞ」
 警視庁の屋上に出ると、小林はガムを噛み、たばこが吸えないイライラを抑えていた。
「まあ、最初の3つは、聞き出せてよかったんじゃないですか」
 佐藤リリカは、おそらく人間たちから集めた欲を返したことで、任務が果たせないと判断され、消えた。
 佐藤サトルは、佐藤リリカを亡くし、華蓮たちに逮捕されて色々しゃべったことで、もう「アクマズ」業を続けられない、と判断されたのだろう。
 …判断しているのは誰かわからないけど。

「そういえば、佐藤リリカが『人間の欲』を戻してから、上野駅前のボランティア高校生、パッタリいなくなっちゃったみたいですよ」
「それはそれでどうなんだかー」
 小林が協力者に調べてもらった限り、やはり上野桜丘高校以外の高校では、「アクマズ」たちの狙いが的中していたらしい。急激に「自分は他でもない、何者かになりたい」という気持ちが溢れた高校生が増え、何か自分にしかできないことを見つけたい、と習い事やらボランティアやらに需要が集まったようだ。
「でも、本当に怖いのは、虚脱状態の方ですよね…」
 ぼんやりと、他人に興味をなくした生徒たちの姿を思い出す。

 自分と他人を比較することは、人間でいる限り、逃れられない。比較することで自分の優位性を確保しようとしたり、逆に自分は「マジョリティ」である、と安心しようとしたりする。
 佐藤リリカの言う通り、そんな下らないことを繰り返しているから、私たちはいつまでもありのままの自分を認められないし、他人を認めることができない。
 でも、比較しなくなったら、終わりなのだ。比較しなくなったら、自分にも、他人も、興味がなくなって、どうでもよくなってしまう。
 私たちは、「比較してしまう」こととうまく折り合いを付けながら、生きていくしかない。
 …高校生の女の子に教えられるなんてな~。
 華蓮はふふ、と小さく笑った。

 小林は青空に向かって伸びをすると、元気よく言った。
「きっと『アクマズ』たちは、今回『欲』を集めるのに失敗したから、また近いうちに来るんじゃねぇか?その時は、絶対、その『本部』とやらの正体を突き止めてやるー!」
「小林さん、今度は小林さんも一緒に調査してくださいよ?」
 華蓮が小林をギロリと睨むと、「へーへー」と気のない返事をし、屋上へのドアへと引き返した。

 絵の道は諦めてしまったけど、私にはきっと、この仕事が向いてる。
 華蓮はにっこり笑うと、小林の後を追った。

リリカル・スペリオリティ! 完




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